第35話 人・面・入・替 ※イメージ有り
「ぬぅん!」
「おらっ、どりゃぁ!そんでもういっちょぉ!」
「クソッ、マジでしつけェ!」
俺とウィルは交互に攻撃を繰り出して、スピーノに攻撃する隙を一切与えないように立ち回る。
スピーノが本気でストラーナの村を攻撃しようとすれば、民家程度簡単に壊れてしまうからだ。
俺は操影の能力で影の槍を出しつつ、時たま装備の袖に仕込んだクナイを投げてスピーノの気を散らす。
そしてウィルは俺が渡した兜断を自分の得物の如く使いこなして、スピーノを攻撃する。
更にウィルは恐ろしい事に出血は止まり、本調子では無いが普通に戦闘をこなしている。
しかしスピーノは針を上手く伸ばしたり縮めたりする事で、防御しながら俺ら二人の攻撃を捌く。
コイツ、何か俺の操影を見てから妙に冷静と言うか慎重になってアルに放っていたような大技を一切使わなくなったな!
最低限体術の合間に針を撃ってくる程度なっていて、まるで力を温存しているようだ。
「くっ、当たりさえすれば!」
「クク、テメェ等の動きは少しずつ読めてきたぜェ……」
俺の操影は動きが素直過ぎて中々当てる事が出来ない。
俺が突きやらパンチの動きをしなければまだ影を操る事が出来ない上に、真っ直ぐしか伸びない。
せめて全身の針が無ければ俺の体術を絡めて使えるのだが、奴は目元口元と足の裏以外全身からびっしりと針を生やしているので殴ったり蹴ったりする事が出来ない。
得物が有れば何とかなるかもしれないが、操影と武器を同時に使えるほど俺はまだこの能力に慣れてないので、このまま戦闘を続けるしかない。
「良いぞォ、魔力が高まって来たァ……」
「イズナ、奴は魔力を高めているぞ。何かする気だ」
「こん野郎、折角新技を御披露目したんだからこう言う時は素直に倒されろよ!」
「クハッ、魔力が見えたところでどうしようも無ェよォ! それにそんな意味分からねェ理由で倒される義理も無ェ! グォオオ!」
スピーノの体からバキバキと音を立てて組変わっていく。
全身に生えている太かった針がより細く、そして数を増やしていく。
まるで質を落として量を優先しているようだが、あれでは防御力が落ちるのではないか?
『イズナ!防御を!』
しかし、様子がおかしいと感じたイズナは俺に防御しろと命令する。
俺はその場からウィルと離れ、半ば本能でその場強く足踏みをして操影を使用する。
タマモが焦る位だ、ありったけの魔力を注いでやる!
「ウィル、今すぐ俺の後ろに隠れろ! 【影壁】!」
「おうっ!」
「クハハッ! 喰らいやがれェ! 刺屍累々!」
俺の前に影で出来た壁が出現すると同時にスピーノの全身から針が放たれる。
周りの木々や俺の影壁に次々と針が刺さっていくが、それでも針は止まず、ヒュンヒュンと風を切る音を立てながら針は放たれ続ける。
針は非常に細くなったので、何とか俺の影壁を破る事が出来ないようだが、幾らなんでもは針を放つ時間が長すぎではないだろうか?
「終わった……か?」
「オメェがなァ!」
「んなっ!」
『イズナッ!』
ほんの少し前方からスピーノの声が聞こえた瞬間、影壁を突き破り、大木のような人間の手が俺の首を掴む。
針は無いがこの手は確実に確実にっ!
ウィルは咄嗟に俺を助けようとするがその前に俺の首を掴む腕の主がそれを制する。
「おおっとォ、動くなよもう一人の人間! 俺様が驚いてこのメスガキの首を間違ってへし折っちまうかも知れねェだろゥ?」
「っ…………」
「うぐぅ……! かはっ!」
「針を全部使ったンだからよォ、代金替わりで少しは楽しませろよォ」
俺の影壁が崩れたその先に居たのは予想通りスピーノだった。
コイツ、まさか全身から針を放ちながらこっちに歩いて来やがったのか!
スピーノは俺の首を体事持ち上げ、生かさず殺さずの具合で首を締めつける。
その為、息が出来ずに能力も上手く使えない。
『下郎が好き勝手にしおって……!くっ、イズナ!』
スピーノは俺から狐面を取り外して変装が解けた俺の顔を興味深そうに眺める。
「ヘェ、魔道具で隠すからには結構良い面してンじゃねーかァ。ガキじゃなければ俺様の女にしてやっても良かったかもなァ、クハハッ!」
「返……せっ!あぐぅっ!」
「テメェの命は俺様に握られてるンだぜェ? 少しは言葉遣いにきをつけろよォ……折角気分が乗ってきたのによォ……」
遠退きつつある意識で俺は考える。
クソッ、こんな所で俺は死ぬのか?違うだろ、俺はまだなんも成し遂げて無い。
ここで負ける訳にはいかないんだ!
俺はスピーノの指を掴み、身体強化【剛力】を掛けてこじ開けようとする。
「うおおおおおぉ!」
「チッ、まだそんな力がッ!」
スピーノは狐面を投げ捨てて、俺に首に力を掛けながら一撃を加えようと腕を振りかぶる。
く、このままでは間に合わない! 俺がスピーノの拳を受けようと覚悟をした時、何処からか火の矢が飛んでくる。
「火の矢!」
「グワァッ!」
火の矢が直撃し、スピーノが怯んだ瞬間に俺は拘束から脱出する。
俺は体が空気を欲し、荒い呼吸を繰り返す。
「その手をイズナさんから離せ……スピーノ!」
「ア……ル……」
「ガキィ……!」
走ってきたのか荒い呼吸を繰り返し、空っぽになった瓶を片手に持ち、もう片方の手に杖を構えたアルがそこに立っていた。
次にスピーノの片腕にに見たことがある紐状のものが巻き付く。
「ボクの友達を痛め付けるなんてっ、許さ無いよ! 今だよ、イズイズ!」
「ティティ……!」
鞭を両手で引っ張りスピーノの体勢を崩すティティがスピーノの背後に居た。
俺は魔力を限界まで影に送り込み、スピーノに向かって走り出す。
「年貢の納め時だ……! スピーノォ!」
「グッ、まだだァ……今こそ奥の手ェ……俺様の能力を見せてやるよォ! テメェ等全員入れ替わりやがれェ!【魂魄のすり替え】! 」
スピーノの体から光の靄の物が飛び出し、ドーム状に俺ら四人とスピーノを包み込む。
その瞬間、俺は心臓が早鐘のように鳴り響き、耳が遠くなる。
体がふわふわとした感覚に苛まれて、突然に力が抜けてその場でへたり込む。
へたりこんだ時に近くに先程スピーノに投げ捨てられた狐面を見つけたので、俺は無意識に手を狐面へと伸ばして呟く。
「タ……マ…………モ」
「クハハッ、どうだ魂が入れ替わった気分はよォ! これでテメェ等は魂と肉体が他人と入れ替わって魔法も能力も録に使えずに無力ゥ……楽に殺せるってもンよ」
「キミは何を言っているの?」
「むぅ……アルよ、無事か?」
「えぇ、頭痛はしますが後は僕はなんとも無いです。ウィルさんも問題無さそうですね」
「ハァ!? 効いて無ェ……テメェ等一体何なんだよォッ!」
魔人が随分と喚いている。
そんなに自分のご自慢の能力が通じなかったのが悔しいのだろうか? だったら安心して欲しい、私達には効いたからな。
あぁ、それにしても実に愉快である。
「フッフッフッフ……あっはっはっは! この風の流れを感じる肌の感触! 匂い! そして思い通りに動く肉体の感覚! 久しく味わったぞ……!」
「イズナさん……?」
私はくるくると回りながら下郎の近くを通りすぎる。
「馬鹿にしやがってェッ、メスガキがァ! ……ンダトォ!?」
魔人は腕を振り抜いたが、変わらずその場に立っている私に驚いたようだ。
奴からすれば感触も無くすり抜けたように感じたであろう。
フフ、久しぶりの肉体を持った慣らしには丁度良いかもな。
「あれ、イズナさん、狐面を着けてないのに金髪……?」
坊やが不思議そうに呟くが、それもそうだ。
今の私はイズナでは無く、この私、タマモ様が顕現しているのだから。
私は呆然としている魔人に言い放つ。
「フフフ、お前、私に化かされてみるか?」




