第34話 操・影・顕・現
「そこの針ネズミ野郎。場所を変えるぞ」
背中に無数の針を生やした男が、ボロボロになって子供を庇っているアルに向けて攻撃を仕掛けていた。
この男は間違いなく悪い奴だろうが、ここで戦闘を初めても男の攻撃で村の人や建物が傷付くのは好ましくない。
とりあえず言うだけ言ってみるとしよう。
「ハァ? 針ネズミだとォ? 今度は仮面のガキが湧いたと思ったら生意気な奴だなァ! 俺はスピーノ様! 偉大なる魔人だぞォ! そんな俺様に指図などするンじゃねェ! テメェも纏めて針山にしてやるよォ!」
この男、スピーノはやはり敵だ。
しかも素直に場所を変えてくれるようなタイプでは無いだろう。
だったら力ずくで行くまでだ。
『イズナ、会話で時間を稼いで魔力を溜めろ。一気にぶっ飛ばしてやるが良い』
あぁ、分かったよタマモ。
「魔人? 知らないな。お前の正体なんて今はどうでも良い。俺は今三つの理由で怒っている」
「ア?」
「一つ、村の一部を破壊したこと」
村の一部の民家は奴の攻撃のせいか屋根が吹き飛んでいる。
俺はイメージする。奴に近づいて思い切り蹴り飛ばしてやると。
「二つ、小さな子供を脅かしたこと」
アルが守っていた子どもは涙の跡がある。
余程怖い目にあったのだろう。
次に俺は全身に魔力を巡らせ、力を込める。
「三つ、俺の大事な仲間を傷付けたこと……だぁっ!!」
俺は身体強化【疾風】を掛けて一気にスピーノに接近する。
そのまま身体強化【剛力】に切り替え、不意討ち気味に思い切りドロップキックをスピーノの腹に放った。
スピーノは俺の速度に反応出来ずにまともに攻撃を受けて村の外へと吹っ飛ぶ。
「ンナッ!? グオオオオォ!」
「アル! とりあえず女の子を逃がしてお前もウィルを連れて一度逃げてくれ!」
「イズナさん、しかし奴は魔人です!一人では危険ですよ!」
アルは心配そうに俺の事を見つめる。
結構ボロボロになっているのにまだ戦う気なのか。
良いじゃないか男らしくて。
俺は口元をニッとさせて言う。
「大丈夫だ。今の俺はなんだか行けそうな気がするんだ。でもって今の俺は負ける気がしないからよ!」
「そこまで言うなら……分かりました。でも無茶はしないで下さい」
「俺は……行ける……アルよ、その子を逃がしてやるんだ」
「ウィルさん! 全く貴方達は……では頼みましたよ!」
アルが女の子を抱えて走って行く。
俺はそのままこちらに向かってくるウィルの状態を確認する。
ウィルは全身に擦り傷や痣が有り、ポタポタと出血しながら歩いて来ていた。
いや、どう見てもヤバいだろ。
しかし目から闘志は消えていないのでここは危険にならない程度にアシストをして貰おう。
「すまないが……イズナよ、得物を貸してくれ。ハルバードは奴の攻撃を防いだら折れてしまった」
「お、おう」
吹っ飛ばしたスピーノの元へ向かっている時、ウィルから武器を貸してくれと頼まれる。
俺は血みどろのウィルに言われたまま二振りの兜断をウィルに手渡す。
俺はやっぱり素手が一番しっくり来るからだ。
決して血みどろのウィルにびびったからでは決して無い、断じて違う。
「痛ェじゃ無ェかガキがァ……潰すぞォ! ククッ、だがテメェの能力は見切ったぞォ! 身体強化なら全身に針を生やすだけだァ! 全針全嶺ゥ! クハハっ! テメェ等が全身全霊を掛けてもこの針の防御は貫けねェよォ! それとも針山になりながらも殴ってくるかァ!?」
スピーノは全身から針を生やして防御を固めると同時に全身を凶器と科す。
確かに今朝までの俺だったら攻略法が岩やそこら辺の木をぶん投げるしか無かったかもな。
でも今の俺は違う。
「見してやるよ栗野郎。俺のもう一つの能力と男気をよ!」
俺はスピーノに向かって身体強化の能力を使わずに走り出す。
「遅ェ!」
身体強化【疾風】を使わないで走るにはスピーノまでの距離が大分離れている。
真っ直ぐ走って来る俺は奴にとっては絶好の狙い目だろう。
スピーノも俺の方に走り出し、針を纏った腕で殴り掛かって来る。
奴との距離が5mを切る。
大丈夫、ティティに教えて貰った通りにやるだけだ。
「【操影】!」
俺は自分の足元の影に魔力を送り込む。
影は自分の肉体の一部で、影は自分の思い通りにいつも動いているのだ。
自らの肉体の動きと共に。
だったら影を操るのも体を動かす延長だ!
俺は全力で拳を突きの形にして前に突き出して叫び、あの日、俺が母さんを守ろうと繰り出した技を再現する。
「出て来い! 影槍ッ!!」
その瞬間、俺の影は強く揺らめき、形を変えて影から一本の槍が勢い良く飛び出る。
色は漆黒、形は尖っている先端以外は不定形で常に形を変えていて、まるで陽炎のようだ。
「チィッ!」
俺が直前に突きを繰り出したことにより警戒していたスピーノは影槍をすんでのところで回避する。
しかし体に生えている針の一部を削いでいったようで、針が折れている部分が出来た。
影槍は役目が終わると崩れるように俺の影の中に消えていく。
「……ッたくよォ、めんどくせェ。コイツァ奥の手を使わなきゃ行けねェのかァ?」
スピーノは急に冷静になる。
自慢の針を削がれた事によって、俺の事を潰すべき敵と認識したからだろうか。
コイツを倒さねば皆やられてしまう。覚悟を決めねば。
「自慢の針を全部へし折ってやるから覚悟しやがれ!」




