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狐面は伊達じゃ無い!  作者: 遮二無二
3章 登場!謎の美少女狩人!
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第30話 秘・湯・想・起

「ここがストラーナに着く前にボクが見つけたヒトウだよ!」

「おー凄いなー」


 秘湯、それは山奥や人に知られていないような温泉の事である。

 俺はティティに連れられてストラーナを出て歩く事約一時間、そこには宿に有った物より大きな温泉があった。

 宿の温泉のように精密に岩で組まれた浴槽では無く、温泉の周囲と中にも岩が乱立していて、正に自然が作り出した物だと推測できる。

 居ないと思うけど先に人が入っていても場所によっては岩の陰で人影が見えない部分もありそうだな。


「フンフフン~」

「タマモ先生お願いします」

『フ、任せると良い』


 ティティが装備を脱ぎ始めた時、こっそりとタマモに話し掛ける。

 俺に認識障害を掛けて貰いティティの裸を直視しないようにするためだ。

 未だに女の子の裸を直視する勇気は無い俺は情けないながらもこういう対策をするしかない。


「イズイズもおいでよ!」

「お、おう」


 別に自分の裸を見せるのは恥ずかしく無いが、どうしても他の女の子の裸には恥ずかしさを感じてしまう。

 やはり俺は前世は男だったのだろうと実感しつつも自分の装備を脱ぐ。

 目を開くとティティの裸に謎の光が一筋射していて良い感じに隠されている。

 流石タマモの認識障害だ。

 これなら俺も挙動不審にならずに済むがタマモを手放したら一瞬で解けてしまうから要注意だな。


「宿のと違ってぬるめだからイズイズでも安心して入れるよ! ストラーナではゲンセンから出たお湯は元から熱いけどこっちは丁度良いよ!」

「お、本当にぬるいな。長時間入るにはちょうど良さそうだ」


 温泉に手を入れて温度を確かめてみる。

 熱いお湯も苦手だがどちらかというとティティの素肌を見て自分の調子を考える余裕が無くなったからのような……

 俺達は温泉に浸かり、たわいもない話をする。

 やれ、好きな食べ物の話だ、髪の手入れがどうだとかお肌の手入れがどうだ等々。

 そこら辺は全部タマモやユリ姉の受け売りをそのまま話したら喜ばれた。

 幾つか話をしていた途中にティティが何かを見つけたようだ。あれは……果実か?


「あっ、イズイズ見て! シャシャンボが生えてる!」

「シャシャンボか。温泉から少し離れてるとこに有るな。俺が取ってくるよ」


 シャシャンボとはブルーベリーに似た黒紫色の実がなる木である。

 熟した果実は甘酸っぱく美味である。

 しかし温泉に浸かりながら手を伸ばしても取れなさそうなので俺は温泉から出ようとする。


「へへーん、イズイズ待って! 面白い物を見せてあげる!」

「ん?」


 ティティはいつの間にか温泉の傍らに置いていた鞭を手に持っていた。

 まさかあれで取るつもりなのか?


「見ててねー」

「なっ!」


 ティティの手に持つ鞭が意思をもったかのように伸びていく。

 そしてたわわに実ったシャシャンボの枝の一部を折り、また手元に帰ってくる。

 ティティは鞭を岩の上に置いて笑顔でこちらに振り向く。


「えっへん、凄い?」

「ティティ……今のは?」

「ボクの能力だよ! えへへ。はい、シャシャンボ。一緒に食べよ!」


 手渡されたシャシャンボは甘酸っぱく美味しい。

 俺とはシャシャンボを食べながら考える。

 鞭を操る能力?身近なとこでは自分の体を強化する俺や、魔力を可視化するウィル、そして認識障害を掛けるタマモ。

 基本的に自分の体か相手に影響を及ぼす能力しか見たことがない無いので、無機物の鞭を操っているのにはビックリした。


「自分の体でも無いのにどうやって操っているんだ?」

「えへへーボクの能力にキョウミが沸いた?」

「あぁ、実は俺には身体強化以外にもう一個が有るけど一回使えたきりで使い方が分からないんだ。特に自分の体じゃないタイプの能力だからな……」

「イズイズ二重能力保有者(ダブルホルダー)なんだ、凄いね!所でどんな能力なの?」

「多分影を操り実体化させて攻撃をする能力みたいなんだけど出し方すら分からないんだよなぁ……」

「でも一度は使えたんだよね? 分かったよ」


 身体強化は感覚で分かる。

 自分の体をより強く、より硬く、より速くしようと思うイメージにダイレクトに応えてくれるからだ。

 しかし鉄仮面相手に一度使った影を操る力【操影】はイマイチ使い方が分からず、日々練習しているが未だに影が操つれる兆候が無い。


「えい」

「『は?』」


 考え事をしているとティティに狐面を取られ、そのまま温泉の傍らの岩に狐面をポイと投げられる。

 俺の髪はみるみると金髪から黒髪に変わり、変化が解ける。

 何故狐面を取ったのか。

 そう聞こうと思い、ティティの方を振り向くと、ティティの顔は俺の顔の目の前にあった。


「えへへ、やっぱり素顔の方がカワイイね」

「なっ、ななな!」


 何で? そう聞こうと思ったが顔が近すぎて緊張して舌が回らない。

 ほんの少し顔を動かせばキスが出来てしまう距離だ。

 綺麗な琥珀色の瞳が俺の正気を奪う。

 ティティは俺の顔を両手で挟み、おでこをくっつけてきたので、顔を真っ赤にした俺は思わず目を瞑ってしまう。


「イズイズ、そのまま目を瞑ってゆっくり呼吸をしてね」

「え?」


 意味も分からずティティの言われた通りに目を瞑ったままゆっくり呼吸をする。

 あ、だんだん落ち着いてきた。

 と言うかなんだか……眠く……?


「イズイズ、今から全てを思い出してボクの質問に答えてね」

「う……ん……」


 俺の意識はそこでゆっくりと途切れた。

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