第18話 呪われしA/魔法とは何か ※イメージ有り
今、俺たちはフクロウの夜明亭という食堂兼酒場にいる。
そして今俺の前には空になった食器が山のように重なっている。
これを作ったのは俺じゃないし、髪を短く切って髭を剃り、年齢相応になってから合流してきたウィルでも無い。
「お、お前よく食うな……まぁ当たった詫びだから好きなだけ食え。えっーと、名前何だっけ?」
「アル、アル=デジールです。アルと呼んで下さい。すみませんおかわりお願いします」
「そっか、俺はイズナ。こっちはウィル。宜しくな」
そう、さっき俺と体をぶつけて倒れた少年のアル=デジールだ。
俺と変わらない小さい身長にヘーゼル色の瞳にミルクたっぷり入れたミルクティーみたいな明るい色の髪で、首に掛かるまで伸びている。
服装はなんと言うか旅人の装いだな。
丈夫そうな服にフード付きのローブを羽織っている。
そして俺やアルの背丈位ありそうな杖を持っていた。
「しかし本当にありがとうございます。昨日の嵐で食料と財布が飛ばされてまさか街の中で飢え死ぬ所でしたよ」
こいつ、自分の体の体積分位食べてるんじゃないか?
俺も沢山魔力を使うと魔力回復の為によく食べてよく眠るけどここまでじゃない。
「アルはどうしてアルストに来たんだ? 旅人なのか?」
「いえ、僕は狩人です。修行の為にこのアルストまで来ました」
パッと見でアルは武器を持ってない。
もしかして俺と同じ身体強化とか?
まさかあの貧弱そうな杖で殴る訳では無いだろう。
俺が本気であの杖を使って殴ったら、木製の杖なんて一発で木っ端微塵だ。
「武器は持ってないけどなんか格闘系の能力持ちなのか?」
「いえ、僕はこの杖が武器ですよ? 僕は魔法を使う魔術師です」
「魔法ってそう言えばなんだ? たまに話を聞くけど俺、魔法の事は一切知らないや。ウィルは使えるのか?」
「俺は使えんな」
タマモも『私には魔法の事は分からないから聞くな』って言われてから半年間スルーしていたな。
今までの魔物は身体強化の能力でどうにでもなったし。
「簡単に言えば魔法とは体内の魔力を他物質に変換し、放出する力ですね」
アルが簡単に説明してくれた。
しかし俺には疑問が有るので聞いてみた。
「それなら能力も同じじゃん。俺も能力で魔力を凄い強い力に変えたりするし」
「正確には無から有を創る力が魔法ですかね。能力は例えば身体強化は肉体、火や水を操るなら能力なら火種や水辺が必要なんですよ。能力は魔力や代償と更に必要な物があるんです。魔法なら自分の魔力さえ有ればいくらでも火や水を造り出す事が出来ます。水の魔術師が居れば水筒要らずという訳ですね」
ふーん、つまりは魔法の方がどこでも使える便利な力って事か?
「まぁ魔法にも面倒なところがいっぱいありますよ。まず魔法には火水風土光無の六属性に別れているのですが、これの対応する属性適性を持ってなければ魔法は一切使えません。それにこの【杖】が無いと結構使いづらいです」
「え、そんな木の棒が必要なのか?」
「魔法は基本的に体の先端から放出されます。まぁ、一番魔力を放出したり、溜めやすい所だからです。その時に火の魔法を使ったらどうなると思います?」
「まさか…………火傷とか?」
「そう、自分で生み出した火で怪我をします。逆に能力は自分を傷つけないみたいですね。炎を操る力の人が炎を纏いながら闘っているのを見たことが有ります。この杖は魔力を非常に通しやすい材質で、手足の先の代わりにこの杖の先から放出を出来るのです」
「杖より剣とかの方が闘えるし良くない?」
「魔力の通しやすさが段違いなんですよ。剣でも代用出来ますが杖で放つよりは格段に威力が下がりますね」
魔法って奥深いんだなぁ。
俺も使えれば戦闘の幅が広がるかな?
「魔法属性適性って普通何個くらい持ってる物なんだ?」
「ゼロの人なんていくらでも居ますよ。そこは能力と同じで一つでも持っていれば職には困らないと言われてますね」
俺も一応能力を二つ持っているから相当レアってタマモも言っていたしな。
片方は未だに使えないけど。
魔法も同じなんだな。
「じゃあアルは魔法属性適性はなんなんだ? 火とか水とか?」
「……一応火水風土の四つです。基本属性と呼ばれる四元素は適性を持っています」
「え……?」
それって相当天才なんじゃないか?
能力だけど実質俺の二倍戦闘の手札が有るって事だろう?
そんな風に考えているとアルが顔を俯けて語り出す。
「でも、魔法がまともに使えないんです。攻撃しようと魔法を発動しようとすると魔力だけが消費され、発動しないんです。聞いてもらえますか? 僕がこの街に来た理由を……」
「お、おう」
俺とウィルはアルがパーティーを抜けてからこの街に来た理由を聞いた。
そうか、そんな理由があったのか。
確かに恐ろしく飯を食うもんな。
魔法を使えなかったらパーティーにはお荷物かもしれない。魔力消費が馬鹿みたいに高いのだろうか?
「そう言う理由でこの街に来たんですよ。魔法を使う魔術師ってこの街にも居るでしょう? 僕はこの街の魔術師に修行をつけて貰いに来たのですよ。だから僕にこの街の魔術師を紹介してもらっても良いですか?」
半年間この街に通っていて杖を持った奴なんて見たことがない。
ここは正直に言ってやろう。そして、もう一つの俺の考えを。
「いや、アルストでは魔術師なんか居ない。杖を持った奴なんて見たことが無い」
「そう、ですか……」
そう言うとアルは落ち込む。
頑張って二つ隣の街まで来て目的の人が居ないんだ。
誰だってそうなる。
ここでもう一言俺の考えを言おうとすると押し黙っていたウィルが突然口を開く。
「アルよ。お前は呪われている」
は? なんだそりゃ? ウィルの方を思わず向くとウィルの目が淡く輝いているように見えた。
「お前が魔法を使えない理由は呪いによって力を強く制限されているからだ」




