第11話 料理と合否とアイデンティティ
「何で料理なんだよ!?」
思わず素の口調になってしまう。
強さが重視される対峙ギルドに料理はあまり関係無いと俺は思う。
普通は戦闘能力を測るのが試練ではないのだろうか?
「あ? えーと、それは、なんだ……そうアレだアレ! 料理が出来なかったら遠征になると大変だからだな! 遠征中の楽しみとして飯は重要だしな! はは……はっはっは!」
途端しどろもどろになるオリヴァーさん。
なんか怪しいぞ。
「はぁ……すまないイズナ君……私はこういう展開になると予測していたからこの制度について話さなかったのだよ。…………ユリィ」
「ぎくっ。な、何の事でしょうかマ、マスター?」
いきなり謝ってきたガストさんは何かを知っているようだ。
ユリィさんは名前を呼ばれただけで非常に動揺している。
「大方君は私達を外で待たせている間にオリヴァーさんに全て話したのだろう。その上で「お父さん!女の子の手料理を食べたいの! だからお願い! 試練の内容を料理にして!」……とでも言ったのではないかね? 君の性格を鑑みるにね」
「しょ、証拠が無いのでその推理は無効です! 無罪です!」
「お、おいガスト。あまり俺の娘をいじめないでくれよ」
「む、オリヴァーさんもオリヴァーさんですよ。可愛い一人娘の為とは言え、本来このような事は真面目にして貰わなければ他のギルドのメンバーに示しがつきませんよ。貴方はいつもは人一倍義理と礼儀に厳しい方なんですから」
「め、面目無ぇ……」
「まぁ、イズナ君は実力は十分なようなので今回は良いでしょう」
「流石マスター! 太っ腹!」
「ユリィ……君は取り扱う書類を増やしてやるから覚悟しとけ……」
「すみませんでした!」
流石ギルドマスターってところなのか? 試練の内容が料理の理由は見事に的中させた。
ユリィさんがお父さんのオリヴァーさんに頼んだからみたいだ。
……って、結局料理するのは変わんないのかよ!
「よし、話が纏まったな! イズナのお嬢ちゃん。料理の内容だが、ハワードから聞いたぞ。ヒュージボアを手土産に持ってきたそうだな。今回はそれを料理して貰おうじゃねぇか! 内容は不問! 他の材料は家に有るものを好きに使ってくれ。おっと、試練だから他人の手伝いは無しだ。分かったか?」
「分かったよ……こうなったら美味い料理を皆にご馳走してみせる!」
「ならば試練開始!」
俺は手洗いうがいをしてキッチンに立つ。
『おい、イズナよ。お前は料理出来るのか?』
今まで黙りだったタマモが周りに人が居なくなったので話し掛けてくる。
「なんだタマモ? 心配なのか?」
『いや、お前の性格だと「うおー! 男の料理をみせやるー!」とか言って、思い切り毒物を生成しそうだと思ってな。悪いが私は料理はからっきしだぞ』
「えぇ……ちょっとそのイメージは酷く無いか?」
「お前は猪突猛進の気があるからな」
どうやらタマモは俺が完全に料理出来ない人だと決めつけているようだ。
ならば見せてやるぜ。俺の料理の腕前をな!
俺はヒュージボアの肉……面倒だから猪肉と呼ぼう。
俺は猪肉を適度な大きさに切って行く。
『その厚みと切り方はステーキか?』
「あぁ、こんなにデカイ肉はどうせならステーキにしたくてな」
次に俺は器に水と塩を入れ、肉を放り込んでもみ洗いしていく。
『な、何をしているんだ。やはりお前は料理が出来ないんじゃ……』
チッチッチ、ちゃんと意味があるんだな。コレが。
「血抜きだ。ヒュージボアは殺した後に直ぐ川にぶちこんだお陰で冷却、後は潰れた頭からある程度放血も出来ているが完全ではないからな。塩水で洗うことによって血を抜いて臭みを消すんだ」
刃物が有れば内蔵を抜いたりして川で血抜き出来たんだが、後から思ってももう遅い。
だからこその血抜き。
これを水が濁らなくなるまで繰り返す。
『お前……意外と料理に関してはしっかりしているな……』
「ま、全部母さんの受け売りだけどな」
後はシンプルに塩、コショウを振りかけて焼くだけだ。
後は適当にソースでも作るか。
調味料、調味料っと。
「なんだコレ?黒い液体があるぞ」
瓶に入った黒い液体を見つける。
匂いを嗅いでみると今まで嗅いだことの無い独特な匂いがした。
『あぁ醤油だな』
「ショーユ?なんだそれ?」
「バイアロス大陸発祥と言われてる調味料だ。大豆を発酵させたものらしい」
「ふーん。少し舐めてみるか。おっ、結構美味いな……コレをソースに使おう!」
俺は塩、コショウ、醤油、葡萄酒、すりおろした玉ねぎとニンニクと焼いたステーキの残った肉汁を鍋に入れて少し煮たたせる。
後は完成したステーキにソースを掛け、横に適当な野菜を添えてっと……出来た!
ヒュージボアのステーキ~醤油のソースを添えて~だ!
オリヴァーさん、ユリィさん、ガストさんにハワードさん。
序でに俺の分を含めて五人分のステーキを食卓に持っていく。
「ふむ、食べれそうで良かったです」
え"、ガストさんも俺が料理が出来ないと思っていたのか。
初対面なのに……普通に傷つく……
「召し上がれ!」
皆一斉に「いただきます」と挨拶してステーキを一切れ口に入れる。
お、醤油のソースは美味いな。
俺的には結構いい線行ってると思うんだけどな……皆のリアクションが気になり顔を上げて顔色を伺う。
「美味しい……美味しいよイズナちゃん!」
「そ、それは何よりデス」
ユリィさんは俺に抱きついて感想を伝えてくる。
む、胸が頭に当たっている。俺は体が硬直し、みるみる顔が赤面していく。
『ムッツリスケベめ』
イズナがボソッと呟く。
う、うるせぇ。
「ふむ、意外と脂はくどくないのですね」
「猪の肉は結構脂身がさっぱりしてるんですぜマスターさんよ。しかし嬢ちゃん、飯の時も面は外さないんだな」
行儀悪いかも知れないが許してくれハワードさん。変装代わりの認識阻害と髪の変色が掛かっているからな。
序でにタマモと会話が出来なくなる。
そうそう外す訳には行かないんだ。
皆口々に誉めてくれるのがこんなに嬉しいとは思わなかった。
母さんの料理の手伝いがこんな所で役に立つとは思わなかった……ありがとう母さん……
「イズナのお嬢ちゃん、これは醤油を使ったのか?」
「ん?あぁベースはほとんど葡萄酒と醤油だぜ」
「お嬢ちゃん。気に入ったらあの瓶やるよ。俺が作る料理のレパートリーにはあまり使わないからな。一応アルストでは滅多に出回らない高級品だぜ?」
「お、本当? ありがとうオリヴァーさん! 大切に使わせて貰うよ!」
オリヴァーさんが大きく頷く。
醤油、ゲットだぜ! オリヴァーさんはガストさんにアイコンタクトをする。
なんだろうか?
「マスター? 良いだろう?」
「えぇ。イズナ君、ようこそ対魔ギルドアルスト支部へ。君は合格です」
あ、料理食べていてすっかり忘れていたが、これは試練だったんだ。
「やったー! 女の子! 女の子のギルメンよー! 宜しくねイズナちゃん!」
「では改めて挨拶をお願い致しますイズナ君」
「名前はイズナ。ハワードさんと同じ遠征組、狩人希望! 後1つ絶対に言っておきたい事がある……」
俺は一つ気にしていた。
俺の確固たるアイデンティティに障る言葉を正さなければならない。
どいつもこいつも嬢ちゃん、お嬢ちゃんと……俺は思いだし怒りとでも言うのだろうか? ふつふつと感情が沸き立つ。
よし、言ってやる!
「俺は男だ!!」
これで一部はおわりです。幕間を何本か投稿し、二部に行きたいと思います。




