3.
「君さえよければルステラにいかないかい?」
「ルステラ?隣国の?」
ルステラというのは魔法が盛んな国だ。魔術師や、气術士(世界に流れるといわれる気を操る者)が多く存在するオーリエントよりも精霊や妖精といった類いの者も生息している。
実を言うと、リゼラは气術士という称号をもっているため、魔法に関してもあまり抵抗はない。
なので意外な提案という訳ではなく、一応船も出ている。
だがもしかしたら騎士団が港で張っているかもしれない、というだけだ。
「そう。あそこは地域によって多少の差はあれど、魔法大国だからね。オーリエントもそう簡単に手は出せないと思うよ。追っ手は来るだろうが派手な騒ぎを起こすのは避けるだろう」
ルステラには、世界の心臓とされるレトビアの樹がある。
もしもあれに被害が及ぶことになれば、樹の守護たちが黙っていないのだ。
ロイは考えるリゼラを見て、少し眉尻をさげた。
「実は、レトビアの樹が少し気になっていてね。そろそろ見に行きたいと思っていたんだよ。.....ちょっと話が急だったね。ゆっくり考えて。時間はまだあるし」
「ロイ.....」
.....追われる回数もこの一年でだいぶ増えてきた。しかし、加えてゲルセフによる被害も国内では増えていた。
ゲルセフの被害へ対抗することのできる力を持つものは少ない。
だから、かつてはリゼラが所属していた協会がそういった人間を集めて対抗機関としての役割を果たしていたが、今は上層部に国の圧力がかかっているかもしれない。
他国にも支部はあるが、どのみち追われているリゼラでは逆に狙われてしまうだろう。
追っ手が増える以上もう潮時だ、とリゼラは考えていた。
なによりこの一年、共に過ごした二人にも情が湧いた。
本当は、逃げたときどこかで置いていかれても当然だった。彼らは彼らの目的があると言っていたから。
だが、箱の中で育ったも同然の自分に、この二人はずっと様々なことを教えてくれた。
情が移ったのは向こうも同じなのかもしれない。だからこそ、リゼラに提案した。
「.....二人は、私がどうするか考える時間を一年もくれていた」
これからも二人と一緒にいるのか。
もし国を出ることになっても。
「リゼラ.....」
「だから、あまり迷わないよ。.....私、ルステラに行く」
復讐をするにも、一度オーリエントを出て情報を集めたほうがいい、ともリゼラは思った。
もちろん、失った者との思いでの地を離れることに寂しさがないわけではないが、感傷的になるよりもするべきことがあった。
なにより、ここまでずっと一緒だった二人と別れるのは、心残りになる気がした。
「ロイ、ウィル。私を、一緒に連れていってください」
ロイとウィルは顔を見合わせて頷くと、そっと手を差し伸べた。
二人とも優しい顔をしている。
「もちろん!君がそう望むのなら、僕が導き手になるよ。君がどこに行き着くのかにも興味がある」
「仕方がない。ここまで来て、置いては行けないからな」
リゼラは二人の思いを受けて二人の手を取り、しっかりと握り返した。
「よろしくお願いします」
きっとリゼラにとって三回目の旅になるだろう。
一つ目は任務のために行った旅。
二つ目は追っ手から逃げる旅。
そして三回目の旅は.....追って追われる日々か、仲間と歩む旅か。
旅の終わりがくれば分かるだろう。それはまるで、人の一生のように。




