1.
太陽の光を受けた金の髪を遊ばせ、蒼い瞳が遠くの空を映す。
地面を見ると、焼け焦げた臭いが鼻についた。
乾いた風の音と焼けた木と土と草を踏む音だけが、静かに響く。
「ここは、もうだめだね」
ぽつりと零れ落ちた声の主、リゼラは目の前に広がる悲惨な光景を受け入れていた。
ここは二柱の神によって創られた世界。
大地を支配する四つの国の一つオーリエント。
その片隅で起きた小さな災害。
木々は薙ぎ倒され、家畜は食い荒らされ、建物は崩壊している。
そして、恐らくは家事に使う火が燃えたのだろう。
何かが焼けたような酷い臭いがした。
"ゲルセフに襲われた村は破滅する"
それは世界の常識でもあった。
ここ数年で情勢も随分変わったが、その常識が確固として根付いたのが大きな変化だろう。
「ゲルセフ.....理を失った者」
昔は哀れと思うこともあった。
ただ、人は慣れてしまうのだ。悲しいことにも苦しいことにも。
ただ、黒いモヤモヤだけが胸のあたりに積もっていく。
「リゼラ」
馴染みの声に自分の名を呼ばれたが、振り返ることはせずにそのまま目の前の光景を見続ける。
そんな反応に慣れているのか文句を言われることもなく、ただ隣に並ぶ気配がした。
「ロイ様が向こうでお待ちだぞ」
「.....」
ここでは珍しい漆黒の髪を持つ男の名は、ウィルという。
赤い瞳は日光を嫌い、日中はフードを被っていることが多い。
聞けば絶対的に無理と言うわけでなく、人に見られることを避けたいという理由もあるらしいが、時折不審者に間違われることもあるのが困りものだ。
「.....ここも、酷い荒れようだな。見ていて気分の良いものではない」
「そう思うなら、あなたもロイとあっちに行ってていいよ。彼の護衛をしなくちゃいけないんでしょ?」
「.....そのつもりだったが、ロイ様に『ここはいい、リゼラ嬢についていてあげなさい』と、言われた」
「.....そう」
この青年の主は、相変わらず自由度が高い。
だいたい初対面のときから友好的だった。胡散臭いところもあるが。
護衛されるほど立場ある者なら、もっとそれらしい雰囲気が漂ってもおかしくはないはずだが、ロイという人物からは一見『眼鏡をかけた食えないじり貧学生』という雰囲気しか漂っていないのが現状である。古めいた服に使い古したボロボロの布をまとい、時折たそがれている姿はなんとも切ないものがある。
「それなら早めに終わらせないとね」
「.....この地を浄化するのか?」
「それが、私のやるべきことだろうから」
しょーがない、と問いに対して当然のように答えると、青年は微妙に眉をひそめた。
理に触れるためにありがちな代償を払い続けることに、疑問を感じているのだろう。
が、結局何も言うことなくただ、無理はするなよ、とだけ言った。
「はーい。.....ウィルってさ」
「なんだ?」
「本当に心配性だよね」
「..........いいから早く終わらせてくれ」
リゼラが珍しくからかうと、ウィルと呼ばれた青年は目をそらしてしまった。
が、照れ隠しなのはわかっているのでもう少しからかうか迷ったが、こんなことをしている場合ではないと気を引き締めた。