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偽り王女

凪いだ水面のように澄切った晴空が広がり、頭上には太陽が照っている。

降り注ぐ日差しと犇めき合う人々の熱気が交じり合い陽炎のように立ち上っていた。

太陽が顔を出し雲が流れる合間に天の恵みが降っていく。

雨だ。

この国では水が非常に重要視されている。

雨もその一つで聖母神からの贈り物として尊ばれている。

その為、聖母神も今日この日を祝福しているのだと人々は嬉々とした。


細かい水の粒子は霧というには曖昧で俄雨にしては小雨だったから直ぐに止んだ。

天気雨が注がれた大神殿の一郭の頭上に薄っすらと虹が出来上がる。

人々は興奮した面持ちで話を交わしている。

その面を期待の色に染めて頻繁に神殿のある場所へと目を向けている。

集まった人々の視線を一心に集めるのは大神殿の正面階段だ。

聖母神が祀られている神殿は幾つもあるが、その中でもこの大神殿は普段市民が立ち入る事は許されない。

大祭や国家儀式の時のみ正門が開けられて正面広場が開放されるのだ。

今日は大祭日でも通例の儀式が執り行われる日でもなかったが特別な日には違いない。

大理石で造られた大神殿の巨大な正面柱には国花である睡蓮が刺繍された旗が掲げられ、神殿内から続いている赤絨毯は段数のある大きな正面階段にまで敷かれて長い道を作りながら広場中央へと広がっている。

もうすぐ儀式を終えたこの国の王女が彼らの前へと姿を現すはずだ。

その瞬間を見ようと国中から人々が集まってきたのである。

正面広場は途轍もなく広かったが人の波は納まりきらず、正門から溢れかえって神殿前の大理石通りまで続いていた。


その中で人々の視線を集める一団があった。

周囲からの不躾な視線を受けても彼らはびくともしなかった。

隊伍をなして整然としている彼らは見るからにこの国の国民ではない。

まず肌の色が違う。

小柄でやや黄色を帯びた肌を持つこの国の民に比べて、彼らはよく日に焼けた褐色肌と大柄で長身な体躯の者が多かった。

一団は黒い甲冑に身を包んだ兵士と緋色の武具を身に着けた兵士たちで形成されていた。

どちらも一糸乱れぬ統制がとれており、指揮する者の統率力が垣間見える。

広場の中で彼らだけが異様で目立っていた。

民衆たちは衛兵たちによって規制の敷かれた場所から出ることは出来ないが、その一団は広場中央に陣取っていた。

ただし儀仗兵たちがその周りを囲んでいる。

人々は複雑な面持ちでその一団をちらちらと伺っていたが、やはり彼らが一番気になるのは今日その姿を現す王女だった。


聖母神の娘と謳われるこの国の王女は今日正式に〈聖王女〉の名を冠しこの国の和平の為に他国へと嫁ぐ。

祭儀が終了した後にこの大神殿の正面へと現れる予定だ。

今ではその偉業が世間に広く知られているこの国の王女だったが、離宮で育てられたという彼女のその姿を民衆は見たことがなかった。

だが今日というこの日、王女は始めてその身を衆目に触れる。

とはいっても高貴な身分の女性が衆目に晒されるのだから、当然ベールをかぶって出てくるだろう。

しかし人々にはそんなこと関係なかった。

王女がやってくるその瞬間を今か今かと熱心に待っていた。


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