第11話「信者からの手紙」
フォロワーが20万を超えてから、DM欄の数がえらいことになっていた。
「入会できますか?」「研究員になりたいです!」「マダニの論文を読んで人生変わりました」——毎日こういうのが来る。コメント欄がバズるたびに10件単位で増える。浅井は最初は全部読んでいたが、今は流し読みするようになっていた。
ある夜の23時頃、ひとつのDMで止まった。
@asahi_a03。アイコンは空の写真だった。明け方みたいな、薄い青だった。
「突然すみません。WBRCのアカウントをずっと見ています。マダニの話を読んで、なんか救われた気がしました。感知するものを減らせばいいんだなって、初めて思えました。
ヴィラ・ナチュラーレって今も入れますか。そこに行けたら、少し楽になれる気がしています」
浅井は読んで、もう一度読んだ。
「入会できますか?」「研究員になりたい!」とは、何かが違った。あっちは、WBRCに近づきたいという話だった。こっちは、「楽になりたい」という話だった。
うーん、と思った。なんか違う。うまく言えなかったけど。
「藤代」とLINEした。「DM見て!ちょっと違うやつ来た」
しばらくして「見た」と返ってきた。
「なんか違くない?」と浅井は打った。
少し間があった。いつもより長かった。
「大丈夫かな」と藤代が返した。
浅井は「え」と思った。「大丈夫?」って、藤代が言うの珍しかった。「バズった」とか「面白い」とか「次どうする?」とか、そういうことしか言わないやつなのに。
「何が」と打った。
「なんか、ちょっといつもと違う感じがして」と来た。
「俺も思った」と浅井は返した。「「楽になれる気がしてる」ってところが、なんか」
「うん」
「大丈夫じゃないのかな、この人」
「……わかんない」と藤代が返した。
しばらく、二人とも黙っていた。浅井は画面を見たまま何も打たなかった。
「なんかさ、俺たちが何かしたわけじゃないんだけどな」と浅井は打った。
「そうだね」と来た。「でも来てる」
「続けていいのかな、これ。ちょっと不安になってきた笑」
「浅井がやめたいならやめていいよ」と藤代が言った。「俺は別にどっちでも」
浅井は少し考えた。部屋の電気を消したまま、スマホの光だけだった。やめてもいいと言われると、なぜかやめたくなかった。
「いや、続けたい」と打った。「なんでかわかんないけど笑」
「そっか!」と返ってきた。「じゃあ続けよう」
「これ、どう返す?」
「WBRCのスタイルで返した方が良くない?」と藤代が言った。「あのアカウントに来たDMだから、あのアカウントとして返す方が自然だと思う」
「直接返信じゃなくて?」
「そっちのほうがいいかな」と藤代が言った。「明日一緒に考えよう!」
「わかった」と浅井は返した。「明日な」
「おやすみ」
「おやすみ!」
スマホを置いた。
「そこに行けたら、少し楽になれる気がしています」という文章が頭に残っていた。
朝日、という名前だけがわかった。アイコンの薄い青が、なんとなく頭にこびりついた。




