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アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します  作者: 梅丸みかん
第二章 大魔女の遺産

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24, 王国の目的

 夕暮れ時の“まほろば亭”は、静かに揺れるランプの明かりの下、穏やかな話し声が店内に広がっていた。

 私はいつもの席で、湯気の立つスープをすくいながら、エレクさんと向かい合っていた。


「ねぇ、エレク、魔獣の森が再び封鎖されたって本当かい?」

 お茶を運んできたフィアさんが、ふいに声のトーンを落として問いかけた。


「魔獣の森」という言葉に反応した私はぴたりと手を止め、思わず二人のやりとりに耳を傾ける。

「ああ、本当だよ」

 エレクさんが短く頷きながら答えた。琥珀色の瞳に、わずかな緊張がにじんでいる。


「何か、新しい情報でも入ったんですか?」

 私がそう口を挟むと、エレクさんは私に目をやり、少し声を落とした。


「どうやら、ある程度の確証が得られたらしい。王国魔法騎士団が近いうちに正式な調査に乗り出すことになったそうだ。早ければ、来週にも動きがあるかもしれないな」

 

そう言って、エレクさんは湯気の立つお茶をひと口すすると、何気ない風に言葉を継いだ。

「え……魔法騎士団が?」

 私は、思わず聞き返してしまった。


 王国魔法騎士団。確か、王国の中でも選ばれた精鋭が所属しているエリート集団だったはず。いや、でもそれって……魔法師団の方じゃなかったっけ?


 戦うのが得意な人たちが騎士団の方で、魔法が得意なのが魔法師団? ううん、はっきり区別がつかない。考えれば考えるほどますます分からなくなってくる。


「エレクさん、えっと……魔法師団じゃなくて、今回動くのは魔法騎士団なんですか?」

 混乱する頭のまま、私は素直に尋ねた。


「ああ、そうだ」

 エレクさんはうなずきながら、椅子に背を預けた。


「魔法師団ってのは、魔法そのものの研究や戦術を専門にしている部隊なんだ。魔力の質や制御能力では確かに一枚上手だけど、実戦となると別の話だ」

 そこまで言って、彼は一度、窓の外に視線を投げる。夕暮れの光が差し込む店内に、どこか張りつめた空気が流れた。


「魔法騎士団は、その名の通り剣と魔法の両方を使いこなせる。戦場での判断力、機動力、それに経験――総合力で言えば、騎士団の方が前線向きだ。今回は、第二王子の命令で動くらしいから、ただの調査ってわけじゃなさそうだな。おそらく、政治的な意味合いも絡んでくるだろう」


 第二王子……

 その名前に、私は思わず身を乗り出した。


「じゃあ、その第二王子が……実際に魔獣の森に来る可能性も?」

「可能性は高い。今はまだ正式な通達は届いてないけど……魔獣の森に最も近い町はここだ。動くとしたら、きっとこの町を拠点にするだろうな」


「エレク、今の話……本当かい? アドニス様がこの町に来るの?」


 フィアさんが目を丸くしながら、エレクさんの肩をつかむ勢いで詰め寄ってきた。頬はほんのり赤く、うっとりとした表情を浮かべていた。


「ミカ、聞いた? あのアドニス様が来るんだよ。これは……急いで新しい服を用意しないと!」

「フィアさん、落ち着いて……」

 私が笑いながら言うと、エレクさんが口元をゆがめた。


「おいおい、フィア。いくら綺麗な服を着たところでお前なんか相手にしてもらえるわけないだろ?」

「エレク、乙女に対してあんたはなんて失礼なことを言うんだい? そんなの私だって分かってるさ。でも、憧れの人の前では少しでも綺麗にしたいっていう思いをあんたは全く分かってないね。だからいつまでも独身なんだよ」


「はいはい、わかったよ。俺が悪かった。ごめんなさい」

「まったく、心がこもってないね。まぁいいや。じゃあ、先週新しくできた大通りのお菓子屋さんのクッキーで手を打ってあげる」

 口元に笑みを浮かべながら言うフィアさんに、エレクさんは小さくため息をつきながらも「わかったよ」と頭をかいた。


 ふたりのやりとりは、まるで長年の家族みたいで、見ているとなんだか心が温まった。

 だけど、私の心の奥には、ずっと引っかかるものがあった。

 第二王子が、魔法騎士団を率いて魔獣の森に侵入しようとしてる。


 ……なぜ? どうして今?


 私はふと、以前冒険者たちが酒場で口にしていた言葉を思い出す。

 ――大魔女の遺産。


 私は以前冒険者たちが口にしていたその言葉を思い出した。


 師匠の遺産を狙っているの?

 でも、師匠の遺産ってそんなに価値があるとは思えないんだけど。


 金銀財宝はないし……壺預金はあるけど……魔導具だって、欠陥品ばかりだし。

 エレクさんに聞けば教えてくれるかなぁ?

 国家機密だったり……しないよね?


「エレクさん、その、王子様が魔獣の森を調査する目的って、やっぱり”大魔女の遺産”だったりするの?」


「まあ、そうだが、殿下は決して私利私欲のために調査しているのではないよ。帝國からこの国を護るためだ。なんせ、”大魔女の遺産”の中にはとんでもない魔道具が眠っているという話だからな。もしそれが国防に役立つなら、手に入れる価値はあると考えているのだろう」


 この国を護るため……

 確かに師匠の魔道具はとんでもないものが多いけど……そこまで期待されても、正直困る……

 全部を把握しているわけじゃないけど、国を護れる魔道具があるとは思えない。


 だって、師匠の魔道具は優秀どころか、とんでもない欠陥品ばかりなのだから。


『ふむ、これは面白くなりそうじゃな』

 私が悩む傍で念話で呟く師匠の言葉に、ウキウキ感が含まれているのは気のせいだと思いたい。

 私はこれから訪れる厄介ごとを予想して、そっと溜息を吐いたのだった。

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