不気味な転送陣が導く牢獄
洞窟内に静けさが戻り、一行はしばらくその場で息を整えていた。先ほどまでの激闘の余韻がまだ空気に漂う中、私はふとトンネルの奥から吹いてくる風を感じた。
「……なんか風が通ってる?」手元の槍を杖代わりにして立ち上がり、トンネルの奥を見つめる。
「アンナちゃん、どうしたの?」エマさんが問いかけてきた。
「この風……もしかして、この先に続いてるのかも」
一筋の冷たい空気を感じ取りながら、思わず呟いた。
「これ、もしかしてキール王国に繋がる近道なんじゃない?」
その言葉に、一人の兵士が思い出したように声を上げた。
「そういえば……昔、キール王国に繋がる近道があるという噂を聞いたことがあります。ただ、この洞窟がその場所かはわかりません。でも、確か洞窟にトンネルを整備したものの、そこに強力な魔物が棲みついたため、安全のために洞窟を崩して閉鎖したとか……そんな話だったと思います」
その情報に、一同の視線がトンネルの奥へと向けられる。
「いってみる価値はありそうじゃな」テオロフさんが頷きながら意見を述べる。
しかし、その言葉にエマさんは即座に顔をしかめた。「ちょっと待ってよぉ! またさっきみたいな魔物が出てきたらどうすんのよぉー! あんな怖いのはごめんよぉ!」
兵士が少し困ったように眉を下げた。「一応、魔物は一体だけと聞いていますが……まあ、それが確かかどうかは保証できませんが……」
エマさんの顔がさらに曇り、ぶつぶつと不満を漏らし始める。
「行ってみましょう!」私は槍を握りしめながら笑顔で言った。「大丈夫、もしまた出てきても、一緒にやっつければいいんですからっ! ね、エマさん!」
「やっつけるって、そんな軽いノリで言わないでよぉ!」エマさんは涙目で抗議する。
「なら、ここで待機じゃな」テオロフさんが軽く手を振りながら提案する。
「いやですっ! 絶対にいやぁぁー! 一人なんて無理ですから、置いて行かないでくださいよぉ!」エマさんは半べそをかきながら必死でその場に踏みとどまる。
「ほれ、行くぞ」テオロフさんが呆れたように言いながら先頭に立って歩き出した。
「もう、なんで危険なところに行かないといけないんですか……」ぶつぶつ文句を言いながらも、エマさんはしっかりと私の後ろにぴったりついてきた。
洞窟内の冷たい風が徐々に強くなる中、一行は足元を確かめながら慎重に進んでいった。岩肌には無数の裂け目があり、かすかに風の音が漏れ聞こえる。
「この風……まさか、本当に外に繋がっているのかもしれぞ」
テオロフさんが慎重に呟き、杖を頼りに足を進める。
「でも、その『外』がキール王国に繋がってる保証なんてどこにもないでしょ?」
エマさんが、なおも不安そうに声を上げる。
「まあ、確かにそうじゃが……戻って一からルートを確保して手探りで探すよりかは、まだ望みがあるじゃろう。それに、このトンネルは明らかに人の手で掘られたものじゃ。何か目的があって作られたに違いない」
「それにしても、この風、冷たすぎない?」エマさんが腕を抱きながら不安そうに声を漏らす。「なんか嫌な感じ……まさか、また魔物が出てきたりしないわよね?」
そんな小言を漏らすエマさんを横目に、一行は慎重に進んでいた。すると突然、目の前の空間が大きく開けた。狭かった通路は途切れ、広大な空間が広がっている。暗闇に覆われたその空間は天井が高く、冷たい風が肌を刺すように吹き抜けていた。
「なんじゃ、ここは……!」
テオロフさんが立ち止まり、杖を握りしめながら周囲を見回す。
そこには中央に光を放つ巨大な転送陣が浮かび上がっていた。その幾何学模様は不気味でありながらも、どこか荘厳な雰囲気を漂わせている。微かな振動が足元から伝わり、転送陣が生きているように脈動している。
「これって、もしかして……キール王国への転送陣……?」
私は槍を握りしめ、転送陣に近づいた。
「かもしれんが、どこに繋がるか確証はないぞ。気を引き締めていかねばならん」
「やだよぉ、こんなの怖すぎるじゃない……本当に大丈夫なの?」
エマさんは不安げに足を止めているが、私たちに置いていかれまいと渋々歩を進める。
「ほれ、行くぞ!」
テオロフさんが声を上げ、杖を掲げて一歩、転送陣に足を踏み入れる。それに続くように、私とエマさん、そして兵士たちも次々に光の中へと足を踏み入れた。
すると、眩い光が視界を覆い、足元の感覚が一瞬なくなる。次の瞬間、冷たい石の感触が靴底に伝わり、視界が開けた。
「ここって……もしや牢獄?」
「そのようじゃな……」
「静かにして……誰かに見つかったらまずいわ」
さっきまでとは打って変わって、エマさんは冷静な様子で手を振り、魔法で足音を消すと慎重に先導を始めた。
転送された先の横には階段があり、それを上がると、フロア全体が厳重な牢獄のような造りになっている。
「ちょっと待って……あれ……!」
エマさんが驚きに目を見開き、指を奥へ向けた。
牢の中、やつれた姿で座り込んでいる人物たち――それはガリレア王国の国王とその側近たちだった。




