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33話 落札

「今回の入札の結果、三間槍は杉原七郎左衛門殿に発注させていただくことに決まりました。落札金額は350貫文です」


そう伝えた途端、下座に座っていた商人達がどよめく。


「詳細な点数につきましてはこちらの書面に記載しておりますので、各々ご確認ください」


全員の点数を書いた紙を個別に渡す。驚いたことに得点数は七郎左衛門がダントツで高かった。槍の品質も良いし、価格も安い。一体どうやってこんなに良い槍をこんなに安く卸せるのだろうか?俺も逆に知りたかった。


「では、最後に殿から一言頂いてもよろしいでしょうか」


一応、信長に締めをお願いする。


「うむ。皆の者、この度は大義であった。今回受注を取れなかった者も、この新しい試みに果敢に挑戦した気概は天晴れである。今後も尾張の発展に尽力してもらう為にも、そち達には全員今後清洲の城下町に優先的に店を構える権利と尾張国内の関所の関税免除の書状を発行する」


信長はいつものようにニヤリと笑ってそう言い放った。


これには俺も驚く。え?城下町に店を構えるは分かるけど、関税免除は大丈夫?まだ尾張統一出来てないけど、そんなことできるの?


「書面は後ほど各自に届ける。各々、ご苦労であった」


そう言ってから、下座の方に近付き、信長は義兄である大橋清兵衛に別で声を掛けた。


「義兄上もわざわざすまなかったな」

「いえいえ。当然のことです。大橋家はいつでも殿のご意向に従います故」


大橋清兵衛はにこやかに笑って答えた。


そして信長は隣に居た七郎左衛門にもニヤリと笑って声を掛ける。


「…杉原七郎左衛門とやら。よもや大橋家と加藤家を抑える者が出るとは思わなかったぞ。痛快であった!今後も期待しておるぞ」

「はは!」


七郎左衛門は信長に頭を下げた。信長はそのまま俺に「藤吉郎、ごくろうだった」と声を掛け、部屋を後にした。又左衞門も信長と一緒に部屋を出ていく。


「算盤あとで教えろよ」


又左衞門は小声で呟いて行った。…はいはい。結局何しに来たんだよ、コイツ。


「藤吉郎、良くやった。では後は任せるぞ」


具足奉行もそう言って、部屋を出て行く。結局、具足奉行は不正をしなくてもそれ以上に儲けた結果になったから文句は無いだろーな。


「皆様、今回はありがとうございました。また何かの折にはよろしくお願いいたします」


そう言って俺は商人達に頭を下げた。


「それにしても、この若造にはやられたなぁ。加藤殿の知り合いのようだが身内の者か?」


俺が顔を上げると大橋清兵衛がガハハと笑いながら言った。


「知り合いだが、身内では無いな。身内であれば俺を負かす等許さんのだが…この男は先ほども名は出ていたが杉原七郎左衛門と申す者。熱田で商売をやっておる新参者だ」


加藤と呼ばれた渋いおっさんが返事をする。


「いえいえ。今回は運が良かっただけです…。加藤様や大橋様の胸を貸していただけるとは一介の商人として望外の喜びです」


七郎左衛門は先輩格の商人相手に失礼にならぬよう控えめに答えた。


「ふふ。望外の喜びか。相変わらずお主は世辞がうまいのう」


渋いおっさん(加藤)がそう言って、七郎左衛門をからかう。


「ああ、藤吉郎殿。改めて紹介しよう。こちらの方が加藤家現当主の加藤又八郎殿だ」


七郎左衛門は俺の目線に気付くと、渋いおっさん(加藤)を紹介してくれた


「改めまして、木下藤吉郎と申します。この度は入札にご参加いただきありがとうございました」


感謝の気持ちも込めて丁寧に挨拶をする。


「いや。私もこの度は良い勉強をさせてもらった。聞けばこの入札と言う制度は木下殿の発案とのこと…良く設計されておると感心した」


加藤又八郎はそう言った。いや発案っていうか、過去の記憶と言うか…。


「ありがとうございます」


とだけ言っておこう。変に否定するのもおかしいし。


「藤吉郎殿。そろそろ発注の手続きを…」


話し込んでいた俺達の様子をしばらく見ていた勘定係がしびれを切らして俺に耳打ちする。


「ああ、そうだった。それでは七郎左衛門殿、別室で手続をお願いいたします」


そう言って、最後に再度商人達にお礼を述べて、入札会場の大部屋を後にする。

その後は勘定係が事務的な処理をしてくれた。


全ての手続きが終わった後、七郎左衛門は俺に話しかけた。


「今日は清洲の妹の嫁ぎ先に泊っていくから、明日また会う時間ないか?」

「妹?」

「ああ、寧々の家だよ。詳しく話してなかったかもしれないけど、俺、妹が二人いてさ。上の妹の娘が寧々で、その寧々を養女として引き取ってるのが下の妹なんだ」


ほほう。なるほど。


「おお、大丈夫だ。じゃあ明日、浅野家(寧々の家)に迎えに行くよ。外に茶でも飲みに行こう」


「わかった。じゃあな」


そう言って七郎左衛門は城を後にした。



ふー。とりあえず入札を無事に終わらせることが出来て良かった…。

良い三間槍も安く手に入ったし、具足奉行の悪巧みも阻止できたし、大橋家と加藤家の当主と知り合いになれたし、七郎左衛門は信長に名を売れたし…万々歳だな。


信長と智の件をはまだ内密だそうだし、特に俺が何か動くことも無いだろう。


ひとまずは一段落ということで。…貯まってる仕事片付けなきゃな…。






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