表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/167

交渉班と爆破班

「ようこそおいでくださいました」


 女性とは思えない奇妙に太い声が、時代遅れなドレスを着た侯爵夫人から発せられました。


 巨人の血でも引いているのか、彼女の身長と体格は大柄な戦士どころか、ちょっとした巨人並です。


 大きめの部屋の中で椅子に座っていますが、上から夫人に覗き込まれるような形になって、気持ち悪いですね。


「お招きいただき光栄です。侯爵夫人」


 さらりと、完璧な作り笑顔で言ってのけたのはダンブルクを守る太守オリヴィエさま。


 彼女は優雅な手つきで、カップに入れられた紅茶っぽい液体を飲む、ふりをします。


 街の危機を利用して、というより、準備の良さからして、街に危機を起こして、領有権を奪おうとする。


 こんなことをしでかす者の出すお茶など、信用出来たものではありません。


 毒や睡眠薬ならかわいいもので、寄生虫や寄生植物などを植え付けられて洗脳でもされたら目も当てられないのです。


 万が一に備えて解毒薬や虫下しは用意してますし、聖女のわたしもついてますが、奇跡も魔法もお薬も、使わないに越したことはありません。


 傷や病は治せても、受けた苦痛や失った時間は取り戻せまんせんからね。


「お口に合いましたか?」


「ええ、とても良いお茶でした」


 2人とも表面だけはにこやかですが、場の空気は凍りついたままです。


 全てを飲み込むような暗い笑みを浮かべる侯爵夫人に、さわやかな麗人の如き笑みを浮かべる太守。


 完全に殺し合いの空気です。


 そもそも家臣も領地を失い、城を建築中の侯爵夫人には高価な紅茶を出す余裕などないはず。


 匂いもぜんっぜん違いますし、あれは間違いなく紅茶ではありません。もっとおぞましい何かです。後ろで突っ立っているわたしのところまで腐った匂いが届きますもの。


 太守はよく笑顔を保っていられるな、と感心してしまいます。流石は生まれついての政治家、開拓者の子孫です。


「ふふ、そうでしょう?」


 侯爵夫人は躊躇いなくそれを飲んでいます。彼女の手にかかると、普通のティーカップがまるで子供のおもちゃです。


 それでも侯爵夫人はあれを紅茶だと思っているのなら、それはもう彼女が狂っているということ。


 もはや亡者になる寸前で、理性はもちろん、嗅覚や味覚といった感覚がなくなっているということでしょう。


「あら、太守さま。そこの背の高い美男子はどちらかしら?」


「彼はエドガー、私の実弟で、この会談の書記を務めさせようと思います」


「では、ワタクシの方も書記を呼びましょう。両者で内容が食い違ってはいけませんからね」


「ええ、どうぞ。不幸な行き違いなどが起こっては困りますからね」


「ええ、ええ。近頃は会談の内容と異なる内容の書類を作らせたり、と不正が蔓延っていますからね」


「まあ、それは恐ろしいですね。私たちも気をつけなくてはいけません」


 ジャブの打ち合い、剣先を使った小手調べ。


 時間は街を守ろうとするわたしたちの敵、いざとなれば自分で竜の雛を差し出せば良い。


 侯爵夫人はそう思っているのでしょう。余裕の表情で、話を長引かせています。


 ですが、こちらも無策で話を長引かせているのではありません。


 こっちには、とっておきの彼がいるんですから!


(ね、ゆーじさん!)


 わたしは隣で、威圧するかのように聖剣を鞘ごと床に突き立ている騎士に目を向けました。


(むふふ、騎士たちのする普通の捧げ剣ですが、聖剣でやると、威圧感が違いますね)


 事実、帝国貴族じゃないゆーじさんや私を馬鹿にして、まともに話そうとしなかった傲慢な侯爵夫人も、この剣だけは恐れていましたからね。


 見せないように振る舞っていましたが、彼が背中の方に手を回した時、はっきりと目に恐れと焦りが浮かんでいました。


『当然です。わたしを凡百の武器と比べられては困ります』


『って、聞いてたんですか!? というか、勝手に心を読まないでください!?』


『あなたの内心が騒がしいのです。今は動揺を見せず、静かに堂々としていなさい』


『は、はいぃ』


 うう、怒られてしまいました……


 こういう時に頼りになるゆーじさんもいませんし、わたしはいつ魔法や変なものが飛び出しても良いように身構えながら、大人しく壁の花になるのでした。










『さーてと、オリヴィエさんたちが交渉してくれてる間に早いとこやっちまわねえとな』


『ええ、手早く人質を確保しましょう』


 巫女や呪術師の上位職『祭儀長』エルマさんに一人用の結界で覆って貰い、姿と生きたエーテルを隠してもらった俺は、城の攻略に乗り出していた。


 奴は聖剣を恐れても、使い手の俺のことは全然恐れてない。


 複雑怪奇な貴族社会を生き抜いてきた侯爵夫人の目が、俺がまるで鍛えられていないレベル1の騎士であることを見抜いたのだろう。


 貴族は目利きが出来なければならないからか、素性貴族は最初から見切りレベル1を持っている。順当に鍛えていけば、レベル2に上げることさえ可能だ。


(だけど、よく見える目だからこそ、騙される。魔王アーシェラでさえそうだった)


 この世界の人たちにレベルやスキル、スキルレベルという概念はない。あるのは強さと技、熟達しているか否かということだけ。


 というより、ゲームやスカウターじゃあるまいし、明確な基準もなく、強さを一律に数値化しようというのは、本来なら土台無理な話なのだ。


 俺が聖剣さんを通じて自分のステータスを数字で見れたのは、ゲーム脳の俺がそういう風にこの世界を認識していたから。いわば錯覚の産物だ。


 一般人からは「騎士の鎧を着ているから騎士かな?」がせいぜいで、見切りスキル持ちでも、「レベル1の騎士」ではなく、「だいたい新兵くらいの強さの騎士だな」と見抜かれる。


 これは見切りスキルを持つ、エドガー(真)やラルドさんからも確認を取ったので、間違い無い。


 なので、俺はあの巨女から『聖なるオーラを放つ普通の剣を持った、新人騎士』に見えているはずだ。


『あなたもオリヴィエも考えましたね。聖剣を持った替え玉をあの場に置いてくるとは』


『ああ。俺が前にラルドさんの槍や、騎兵隊長に渡した剣を聖剣化したのを見て、思いついたらしい』


 聖剣憑依は1度に1つの武器にしか使えない。


 が、その聖剣化した武器は、別に俺が振るう必要はない。


 もちろん俺が振るった方が威力は上がるし、聖剣専用のスキルも使えるので強いのだが、普通に武器として使う分には、別の人が使っても良いのである。


 これを利用して、ラルドさんには魔王戦で戦ってもらったし、あの若い騎兵隊長にも狂い猪狩りに使ってもらった。


『聖剣の力は強いが、その分隠密には向いてない。置いてきたのは許してくれよ?』


『構いません。剣は容れ物。私は常にあなたと共にあるのですから』


 ……なんか、重い。重くない? 気のせいか?


 なんか、ゲーム時代より妙に好感度高くない? ゲーム時代のツンツンぶりというか、機械作業ぶりはいったい……


『ふふふ、焦らずともいずれ分かりますよ。いずれ、ね……』


『怖えよ! ていうか、心を読むな心を!』


 どうしてこの人は急に意味深なことを言うのか。いったい聖剣さんは俺に何を見出してる? 何を考えて尽くしてくれているんだ!?


『ふふふっ……』


 楽しそうだなこの人!? 


 もしかして、俺、遊ばれているのでは?


『おや、気づきましたか。少しは賢くなったようで何よりです』


『おのれ……ナビゲートよろしく……!』


『ええ。次の角を右です』


 ララベルに掛け直してもらった生命の探知によって、今の俺は壁を透過して、生命の位置が見えている。


 だから、光の大きさや強さ、数なんかから、流星群みたいな虫モンスターの群れや一等星みたいな大型モンスターなんかは察知して避けることは出来るんだが、二等星三等星くらいになると具体的にどれがどれなのかは分からない。


 不意の戦闘に備えてリキャスト時間が長いベオウルフは取っておきたい。


 なのでエーテル吸収能力の副産物として、多少は感知能力もある聖剣さんにナビゲートしてもらっていた。


『また建設中か……』


『このような未完成な城でよく竜や私たちに挑もうと思ったものです』


 廃城のマップは一応頭に入っているのでギミックとか前提条件とか無視して、ストレートにこのまで来てしまったが、ゲームでは崩壊して通れなくなってしまっている場所やまだ建設されていない場所なんかがある。


 今も目的地の尖塔へと続く橋が建設されておらず、周り道を強いられていた。


『どうします? 回り道をしますか?』


『姿隠しもいつまでも続くわけじゃない。戦闘したら一発でバレちまうし、ここは強行突破しよう』


 エルマさんにかけてもらったのは、クリスタル状の結界でエーテルの気配を抑え、光の屈折率とかを変えて周囲からは見えにくくなる魔法だ。


 あくまでも見えにくくなるだけなので、じっくり見られたり、剣で戦闘したらバレてしまう。


 また内側からの衝撃にも弱く、聖剣の力なんて解放したら、城のどこにいてもバレてしまうだろう。それくらい聖剣のオーラは強力で目立つ。


『じゃ、行くか』


 俺は全速力で走り出した。


 ララベルとオリヴィエ、エドガーの安全はラルド将軍とエルマ祭議長、その部下たちが守ってくれている。そもそもオリヴィエさんとエドガーはともかく、ララベルは本体も強い。


 割と万全な布陣なので、いつも以上に安心してガバガバダッシュが出来るのだ。


(居合斬り、直立)


 騎士は傭兵に防御力で勝るかわりに、スピードで劣る。


 壁蹴りや壁走りのようなアクロバット系スキルや、崖登りのようなクライムアクション系スキルも使えない。


 でも、そんなことはジェスチャーキャンセル移動には関係ないことだ。


 重力に囚われないこの技は、全力疾走からの高速の踏み込みのスピードを維持したままスィーっと音も立てずに空中を移動する。


 咄嗟の中断が出来ないから戦闘には向かないが、こういう時には便利なもんだよな、ジェスチャーエンジンは。


 だが、このままでは建設中の尖塔の壁に激突するだけ。目的のフレアは尖塔の天辺にいる。


 そんな時は……


(はい、太陽礼拝と)


 一瞬しゃがみ込んだ後、ぐーっと両手をあげて伸びをする。その動きに合わせて、俺の体も一瞬沈み込んだ後、急速に上へと向かい出した。


 塔の壁を滑るように上へ上へと向かっていく俺。居合斬りの突進スピードを維持しているため、あっという間に頂上へと辿り着いた。


(伸びーる、伸びーる、ストップ!)


 あんまりやっていると、のけぞっている影響で後ろに回ってしまい、バレルロールを始めてしまうので、ストレッチをやめる。


「スラッシュ!」


 すぐさま空中発動出来るスラッシュで剣を塔に突き立て、クサビとして俺ごと固定。


「回し蹴り!」


 踊るように蹴りつける回し蹴りで、体を捻って、窓をけり上げ、塔へと侵入した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ