そして今へ
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バーバリアン、バルバロイ、バルバロッサ、色んな呼び名は数あれど、意味は一つしかない。
言葉の通じない野蛮人。
森を焼き、民を焼き、盾を構え、爆弾を投げつけ、銃後の民にさらにクロスボウを向ける。
え? 現代人とさほど変わらないやろって?
そりゃまあ現代人は周囲の野蛮人を駆逐したり、騙したりして生き残ってきた野蛮人of野蛮人だからね仕方ないね。普段はお行儀良くしておくことを学んだだけマシとも言える。
まあ、そんな野蛮な現代人は置いておいて、今は駄剣世界の野蛮人だ。
駄剣世界の野蛮人は主に2種類の判定があり、「言葉が通じない」または「野蛮な行為をする」から来ている。
この「言葉が通じない」が結構曲者で、狂人や亡者だから通じないのか、言語や文化が違うから通じないのか、がごっちゃになってるのだ。
これはバグとかではなく、自分たちの社会や共同体に属さない者をまとめてバルバロイ扱いしていた人類の歴史に忠実に則っているからだと公式アカウントで言われていた。そういうこと言うから、炎上するんですよ。
要はやってることは完全に海賊な古代ギリシャ人が、それでも他の周辺民族を野蛮人呼ばわりしていたのと同じである。
ドイルさんは狂人っぽい感じは例の女装を除けばしないので、たぶんコミュニティの外から来た人という意味の野蛮人なのだろう。この街の地理にも詳しくなかったし、話も通じるしな。
「よし、先を急ごう」
そんなことを思っている間に、落としたサラマンダーの首を生きたまま盾にしたとかいう、ダイナミック罰当たり武器で虫を焼き払ったドイルさんがそう言ってまた走り出す。
(くそっ、素の速さじゃついていけない……)
各種職業によって+補正のつく場所は違うが、野蛮人は素手、クロスボウ、火炎、爆発物、盾に補正がつき、ステータスでは生命力、体力、持久力、筋力に振られているはずだ。
(スピードはともかく、持久力高いなあ……)
大剣より重い大盾を二つも背負っているのに、全力ダッシュでまるで息が切れない。どんたけ体力やスタミナに振ってるんだよ。
(でも、こっちには直立がある!)
全力疾走中にステップで瞬間的に加速し、すぐさまジェスチャー直立を挟むことで、スタミナを回復させながら平原を高速移動出来る。なんだかルンバか艦娘にでもなった気分だ。
「ララベル、大丈夫か?」
この動きはRTA中に何度もやったことなので、今更間違えることもない。直立中ゆえに気をつけの姿勢のまま動けないが、ララベルに気を配る余裕さえあった。
「え、ええ、大丈夫です、よ……?」
「そうか? ならいいんだが、何か気になることでもあったか?」
別に息は上がっていないのに、戸惑った声を上げる彼女に問いを投げかける。
「いえ、何でもありません」
「そうか……気になることがあったら何でも言ってくれよな」
彼女は聖女ゆえに霊感に優れているので、意識外からの攻撃とか、見えない攻撃とかに強い。前は筋肉の壁、後ろはララベルの壁。完璧だな。
「…………」
『…………』
何だろう。
完璧な布陣のはずなのに、何故か背中の聖剣さんから哀愁というか、無言の労りというか、そういうのをララベルと交感している気がする。被害妄想かな?
「見えたぞ、あれだ!」
「とっ、着いたか」
先頭を切って、モンスターが現れ次第盾で殴り倒しながら進んでいたドイルさんが、丘の向こうに見えた城を指差す。
そこまで大きな城ではない。というか大きな城を建設中のような感じだ。作りかけのシンデレラ城とでも言おうか。
うん、どう見ても後のドブ伯爵の城です。本当にありがとうございました。
ゲーム時代では、黒焦げた亡者兵士や吸血虫たちがわんさかいる廃城だったが、今はまだ建設中のお城である。
「ララベル、あれが例のドブ伯爵の城で間違いないか?」
「ドズル侯爵夫人の城です。この辺りに他に建設中の城があるとは聞いていませんので、間違いないかと思います」
「よしっ、じゃあ乗り込むか」
「うむ、片っ端から爆弾を仕掛け、一斉に起爆しよう」
「おっ、良いっすねー。爆薬は何にします?」
「この白と黒のフレイ・ボムを使おう。通常のものより効果的だ」
「おおっ、高級品じゃないですか! 俺が使ってもいいんですか?」
「ああ、娘と街を守るためだ。設置場所は……」
「ちょ、ちょっと! ドイルさんもゆーじさんも! なんでいきなり城を爆破しようとしてるんですか!?」
突然変なことを言いだしたララベルに、俺は首を傾げた。
「何言ってんだよ、ララベル。敵の拠点は爆破するものだろう?」
「えっ、ええっ!?」
俺が大真面目と分かり、大袈裟に困惑する彼女にドイルさんは言った。
「正面から行けば敵の待ち伏せを受ける。裏から回り込み、爆薬を仕掛け、一斉に爆破する。これが一番確実な方法だろう」
ドイルさんの言葉に俺も頷いた。
「街を救うためにはダンジョンを真面目に攻略している時間はない。最短コースを進んで、敵に何もさせずに、ことを終える」
「ええ……私がおかしいんですか、これ……?」
『いえ、単なる個性の問題でしょう。あなたはあなたのままでいてください』
「聖剣さん……」
珍しくララベルに優しい聖剣さんに、ララベルが声を滲ませている。
聖剣さんの言う通り、全ての職業にはそれ相応の個性がある。
身軽な傭兵や剣士なら、ジャンプアクションを駆使したアクロバット戦闘を。
鎧を着込んでガツガツと打ち合いたいなら、騎士や兵士を。
聖剣の真の輝きを解放したいなら勇者を。
ゲーム的なタブーを無視したいなら、野蛮人を!
異文化の人間である野蛮人は、街や城、教会といったプレイヤーが普段破壊することのできないオブジェクトを破壊することが出来る。
貴重な原生林を焼き払うことも、遺跡や神の像を爆薬で吹っ飛ばすことも、街を火の海にすることもできるぞ!
その代わり戦闘は、他の職と比べるとちょっと地味だ。なんせ、得意武器が盾と素手、クロスボウと投げ物だけだからね。
地味に炎魔法や爆発魔法にも適性があるので、そっちに進むのもありっちゃありだが。一応ステを魔力に振りまくれば、結構いける。
「では、俺は城の支柱に爆弾を仕掛けてくる」
「じゃあ俺は敵が逃げられないように、城壁を」
「交渉! 交渉することって大事だと思うんです!」
俺たちは胡乱な目で彼女を見た。
「必要なくないか?」
「この状況でこういうことをする連中は、交渉には応じない」
「でも、でもですよ! いきなり立場のある人や城を爆破するのは良くないと思うんです! 無関係の人とかいるかもしれませんし! そもそも人質の場所が分かってません!」
「……たしかにそうだ」
「大方、宝物庫か寝室あたりだと思うけど?」
「万が一もある。俺が侵入し、爆弾を仕掛けながら城内を確認しよう」
「じゃあ、俺とララベルが交渉しますか。あ、そうだ。ララベル、俺たちに生命の探知をかけて貰っていいか?」
「あ! なるほど、それなら、壁の外からでも近くなら人質の場所が分かりますね!」
彼女が嬉しそうに鈴を鳴らして奇跡を唱えると、視界がX線写真みたいになった。
「これはなんだ?」
自分の胸の中で燃える黄色い炎を不思議そうにつかもうとしているドイルさんに、ララベルは言った。
「命の火です。これは命ある者、魂ある者を見通すことが出来る奇跡なんです」
「なるほど……障害物越しにでも、誰がいるか分かるのか」
「ええ! これで潜入もやりやすくなりましたか?」
「ああ。助かるよ、お嬢さん」
「じゃあ、行きますか」
俺たちは二手に分かれて行動を開始した。
あとは知っての通りだ。
俺たちの必死の交渉は特に実を結ぶことはなく、奴は話にならんと太守を要求。
話にならんのはこっちだと、このまま叩き切ってやろうかと思いながらも、周囲の兵力と人質のことを考えて一時撤退。
太守に話をつけ、ここまでご足労いただき……
じゃあ、そろそろ話をクソッタレな現在に戻そうか。
「ようこそ、おいでくださいましたオリヴィエどの」
「ええ、お久しぶりです。夫人」
完璧な営業スマイルを見せる我らが麗しの太守と、身の丈3メートル半くらいはある巨大な夫人が相打つ会議場に、話はもつれ込むのであった。




