神竜の婚約者と森人と精霊の国
「おお……」
オカリナの涼やかな音色によって開かれた扉の先には、淡い緑で彩られた幻想的な世界が存在していた。
建物自体は特にサクラ王国との違いなどは感じられないが、なんとなくこちらの方が緑にあふれていて、自然をより近くに感じるような気持になってくる。そんな感じだ。
「ふふっ、私たちの国はとても素敵な場所でしょ?」
これまでそれなりに大人っぽい雰囲気だったソフィア姫も、自分の国に関してそれなりに誇りを持っているのか、どことなく自慢したい子供のような態度になっている。
俺はその様子に苦笑しながらも、素直に答えた。
「ええ、綺麗な場所ですね」
これは素直な感想だった。
周りは森で囲まれていて、その内部にある家はどれもがどこか自然の力を感じさせる。
町の中央には白と緑をベースとしたそれほど大きいわけではなく、されどかなりの存在感を感じさせる美しい城があり、さらには街のいたるところで淡く光る緑色の球体がぽわぽわと浮かんでいるところなどはまさにファンタジー世界の街と言ってもいいような場所だった。
この反応にソフィア姫も「ええそうでしょう! そうでしょう!」と自慢の街を褒められてうれしそうに胸を張っている。
残念なことに張るほどのそれはないのだが……
「なにか?」
「いえ、何でもないですよ?」
実はさっきまでは気にしないようにしていたのだが、どうやら本人にとってもあまり触れてほしくないところらしい。
あそこが小さいことについてはまあ……あれだ、気にするなと言われても結構気になるところだったりするのがコンプレックスというものだからな。
……今後ソフィア姫の前で女性特有の膨らみに関する話は避けることとしよう。
「では、わがエルフィーノ森皇国の城へと案内させていただきましょう」
なんとなくこちらに冷たい目線を向けていたソフィア姫が気を取り直してといった様子で先に進んでいく。傍らには執事であるメアが寄り添う。
……こっちは大きいのな。
「な・に・か?」
「う、うん? どうかしたの?」
何だろうか、女性ってやっぱりそう言う視線には気がつくものなの? ソフィア姫が俺のそっち系の思考に関してめっちゃ敏感で恐ろしいのですが。
俺はとりあえずソフィアの視線から逃れるために視線を周りへと移す。
ポワポワ、ふわふわ
……うーん、あの緑色のやつはやっぱり精霊だよな。
「──それでですね、あの店が……って聞いてますか?」
「え、あ、ごめん。全然聞いてなかった」
「はあ、カズトさんは随分と抜けたところかおありなのですね」
「こらメア! 確かにその通りだけど失礼でしょ!」
ソフィアさんや、あんたも十分失礼ですよ。
とりあえず反論しよう。
「うーん、そうかな? 俺はあの緑色のやつを見てただけなんだけど」
「「!」」
うん? 二人が固まったぞ? 何かまずかったか?
「カズトさん……あなたには精霊が見えているのですか?」
「うん? 精霊って今ここにいるこいつのこと?」
「……どうやら、私たちは予想以上の人物を連れてきたようですね」
「そうですね、姫様」
「?」
何を言っているんだ二人とも。
「申し訳ありませんが、坊ちゃんが困っております。どういうことか説明してください」
今まで黙って俺の三歩後ろを付いてきていたハクがフォローしてくれた。ナイスだ。
「失礼しました。お話はとりあえず城についてからにしましょう」
そう言ってソフィアが歩き始めた。
そういえば、街の人たちは俺たちに見向きもしないな。
「あの、街の方達がこっちを見ないのってなんでですか?」
俺なんて白髪に緑と紫のオッドアイで、全身紺色の服装に、後ろには純白の、俺には少し大きすぎる長剣を背負ってるから絶対注目集めると思うんだけど。
そういえば、背負っている純白の長剣なんだけど、どうしようかと思ったらいきなり鞘が現れたんだよね、しかも背負えるようにもなっていたし。
不思議な現象だ。
「それはメアの能力です。認識を阻害する効果があるといった感じで認識してください」
ふうん、まあ相手の能力を無闇に詮索するのはナンセンスだからな、その辺りはいいだろう。
……のどかだなぁ。
俺はこの、エルフとふわふわ浮かぶ精霊たちの住まう街を見てそう思った。
こんな街が今、悪しき魔物とやらの影響で侵されているというのなら、俺のできる範囲で頑張るとしますかね。




