第5話 壊す
「ゆりのために決まってるやん。高校でスカウトされたら、そのままプロになってゆりにプロポーズしようと思ってたんやで。なれんかったけど」
「そうなん?」
なによそれ、いつからそんなこと考えてたん?
「小学校入って、サッカー始めてからずっと思ってたんやで? まあ、幼稚園のときに毎日プロポーズしてたのに、相手にされんくてへこんでたけど」
「そんなんしてくれてたっけ?」
「俺のことなんか見向きもせえへんかったやん」
「そんなことなかったよ……わたしもずっと類斗が好きやったし」
服を着て、お金を払って車に再び乗り込んだ。
「ほんまに?」
「うん」
「俺ずーっと奏也やと思ってたんやで?」
「そんな訳ないやん」
「でも奏也とばっかり仲良くしてるし」
「だって……恥ずかしいし、好きやから」
「えーまじかよ。でも嬉しい」
車が発進する。少しだけ遠回りして一度帰って、また夕方辺りに再会することになっている。類斗は今から出勤だ。甘い時間が一旦終わりになる。
車が赤信号で止まるたびにまたキスされる。類斗からいいにおいがする。おそらく洗剤だろう、奥さんが洗濯するときに使った。わたしがおとなしくしていれば、身を引けばだれも傷付かずに済む。颯太を出産し、育てることでなおのこと思う。この子の母親は父親以外との愛を重ねているんだと、たとえ会えない日々であっても。
だけど、類斗とつながらない世界にはもう戻ることができない。たとえ、一緒の戸籍に入れなくても。他に家族がいたとしても。最高に愛している。
車が実家近くに戻ってくる。「じゃ」ってお互い言うのに離れがたくて、手を離せなくて苦笑いする。
「ありがとう」
「こちらこそ」
「またあとで」
「うん」
類斗がまた助手席に回ってくる。
「いちいちいいのに……」
「俺がやりたいだけやから。できなかったことやらせてー」
それから、頭を撫でられる。
「あほみたいに愛おしいわ」
運転席に回って乗り込み、類斗が車を発進させて行ってしまう。心が一気に満たされた時間だった。
この関係の名前は……そんなのいらないか。
わたしがいて、類斗が生きてくれている。
もしでも、プロポーズされていて結婚していたら……毎日一緒か……と思うだけでにやける。
わたしは実家に向かって歩く。明斗くん、咲良さん。わたしたちは家庭を壊していっている。わたしたちが近づけば近づくほどに。わたしたちが離れていれば離れているほどに。




