9.キャバクラ編 本入店
最寄り駅についた頃には完全に朝だった。
いつもなら乗って出勤していた反対側の車線に立っているのが不思議で不思議で仕方ない。
自宅につくと、まだ彼は眠っていた。
本当はお風呂に入りたかったが、起こしてしまうのも可哀想なのでこたつで寝た。
寝入ったと思った頃、騒がしくなった。
彼が起きて仕事に向かう準備をしていたのだ。
「おはよ・・・。」
「おはよう。昨日はどうだった?」
「・・・。」
「今日も行くでしょ?俺さ、今年も年末忙しいから気にしないで働きなね。」
「・・・。」
「まだ眠いのかな?お風呂はいるんだよ。行ってくるね。」
ガチャン。
そういって彼は仕事に向かってしまった。
怒こりたい気持ちが胸に広がったが、とにかく眠いという気持ちが勝ったのでそのままこたつで寝てしまった。
ピンコンッ♪
「・・・・・。」
ラインの音で目が冷めた私は目を細くして携帯を見た。
「今日はどんなかんじかな?」
と店長からラインが来ていた。
「今日も明日もずっと出勤できます。」
と送った。
「じゃ、今日から20時にはお店に来てね。」
とすぐに返事が帰ってきた。
ぼーっとしながら時間を見ると17時だった。
「え!?もうこんな時間!?」
私はこたつから勢いよくでて、お風呂にはいった。
髪の毛をスプレーでガチガチに固めていたので、とても痛かった。
家にあった残り物を食べて、化粧をして家を出た。
「行ってきます。」
と、彼にラインを送りながら駅まで歩いた。
「今日も頑張ってね。」
とすぐに返事が来たが無視した。
「おはようございます・・・。」
重たいドアをあけると、店内はまだ薄暗かった。
「あ、おはよー!」
もう夜なので、”おはよう”という挨拶でいいのか不思議だった。
「今日はさ、まず先に本入店ということで書類書いてほしいんだよね。」
「は、はい。」
そう言うと店長は私に手招きをして白いソファに座らせた。
「まあ、書類と言っても住所と名前と、源氏名書いてもらうだけでいいんだけどね。(笑)」
店長に渡された紙を見るとびっくりするほどシンプルな作りだった。
「みつきちゃんは、本名、住所、生年月日だけ書いてね。時給と源氏名は俺が書くから。」
「はい。」
店長に言われたとおり、本名、住所、生年月日を記入し店長に渡した。
「ありがとう。で、確認だけどスタートの時給は2000円で問題ないかな?」
「はい、問題ないです。」
「げんじなも”みつき”でいいね?」
「はい。」
「よし、これで本入店の手続き完了だよ。」
「結構、あっさりなんですね。」
「まあ、夜の世界だしこんなもんでしょ。それじゃ着替えとヘアメお願いね。あっ!大変なこと言うの忘れてた。」
「なんでしょう?」
「ドレスと靴は自由に使っていいんだけど、ヘアメイクは一回2000円かかるんだよ。」
「そうなんですね!わかりました。」
「言うの忘れてごめん、じゃ初日よろしくね。」
「はい。」
私は立ち上がるとバックヤードへと向かった。