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第9話 手紙の価値


 ウィルとライラは互いの宝物庫へと向かった。常に10人を配置した厳重な警備。中にある宝は一部の人間しか知らない。


「折角ですから何通か読んでみませんこと?」

「……そうだな。早馬の準備はしているがまだ時間がある」


 箱に収められた手紙を手に取り古い順に目を通していく二人。



《レイラに変わりメイン.トゥリーが代筆させていただきます。

 パパ、プレゼントありがとうございましたわ!大事にしますわ!いつ会えますの?わたくし待ってますわ》


「…………」


《レイラに変わりメイデン.トゥリーが代筆させていただきます。

 ママ、わたくしは良い子ですごしてます。嫌いなピーマンも頑張って食べました。わたくしは良い子です。会いに来てください》


「…………レイラちゃん」



《レイラに変わりメイデン.トゥリーが代筆させていただきます。

 お父様、メイ[滲んでいて読めない]   メイデンの家庭教師をやめさせてください。お願いします。わたくしは魔法が使えるように毎日頑張っています。あの人はわたくしがなにもできないと決めつけてます。あの人が側にいるだけで毎日が嫌でしかたありません。お願いします》



「メイデン君には悪いことをしている」


 ウィルが手紙を読みながらポツリと呟いた。メイデンはレイラの為に全てを捨てている。レイラの魔法適正を偽り世界を渡り歩くことを止めてレイラだけに尽くしてくれている。


 そこまで尽してくれたメイデンに対する報酬は自らの筆で側にいることを止めさせてくれと書かなければならない苦痛。どれほどの葛藤があるのかは夫妻には計り知れない。


「ウィルさん。楽しい手紙を読みませんこと?」

「そうだな。これ以降は……何年も来なかったからな」


 メイデンを自分から離すことを願った手紙。結果として両親はレイラを呼び出した。そして激しく叱りつけた。本人にはわからないがレイラはメイデンなしでは生きられない。魔法適正を測る機会など何度もある。

 メイデンなしで魔法適正を測れば最悪のG……その瞬間レイラは処刑される。


 レイラの涙ながらの訴えに両親は耳を傾けなかった。同時にレイラは両親を信用しなくなった。


 その件以降は夫婦が何通手紙を送ろうと返事はなかった。


 一年前までは



 それはとても汚い文字。初めて目にした時は解読を依頼しようかとも思った。しかし今にして思えば自分で理解できて良かったと思っている。


 愛娘が初めて自分で書いた手紙。


《お母様 ワガママ言ってごめんなさい。》

《お父様 ワガママ言ってごめんなさい。》


 とても短い文章だった。しかし娘から送られた心のこもった手紙。


 それからは毎日手紙のやり取りをするようになった。常に大人数の飛脚を雇い続け一秒でも早く手紙が届くように。一秒でも早く娘からの手紙が届くように。


 内容はシノブ.ヒイラギと言う謎の人物がほとんど。こちらでも調べたが収穫はなし。

 メイデンに調べてもらった次第では『私よりも信用出来る人物です。詮索し過ぎると破滅しますので程々にお願いします』とのことだった。


 彼女が言うのなら間違いはないのだろう。現にシノブヒイラギの言葉を受けてレイラは両親との文通をしているのだから。


 無関係だが、昨年カーター商会は未曾有の大安売りを行った。民衆はカーター家が何らかの根回しを行っていると訝しんだが真相は不明。


 娘との文通が幸せすぎて少しでも幸福を分け与えたくて安売りをおこなったなどと言った滑稽無糖な噂はすぐに消え去った。


 

「……これも読まなきゃダメかしら?」

「手に取ったのならば読むべきとは思うが母と娘の筆談だ。無理は言わんよ」


《ママへ 試験は落ちました。色々と皆様に迷惑をかけてしまいました。わたくしを想ってやってくれたのだと諭されました。期待してくれていたのにごめんなさい。》


 その手紙は初級魔法使いの認定試験の件だった。


「……ライラ、何かしらやったな?」

「えぇ……レイラちゃんが受かるように手を打ったわ。でも……わたくしのせいでレイラちゃんは傷ついてしまったわ」


 その後の手紙の内容はシノブヒイラギが何処かに行ってしまって寂しいが、以前よりも友達ができて楽しく過ごしているという内容だった。


 

「今更だが……レイラからお互いに毎日届くから同じ枚数ではないのかね?」

「あら?本当に今更ですわね」


 二人が笑い合って酒の入ったグラスを傾けた。会えない日々は続くが今のレイラは幸せに過ごしている。それで十分だった。


 あとは……今幸せならばその幸福が続くように手を打つ。それが自分達の幸福に他ならないのだから。




 「旦那様。客人です」

「急用ですね。呼吸が乱れきっている」


 互いの護衛が同時に声を発した。


 ウィルはため息を大きくついた。折角の大事な時間が潰されようとしている。しかし……


「私かライラは外出をする準備をしていることは国王様も知っているはず……それもこんな夜中に?」



「旦那様……大変でございます」

「爺やか……何があった?」


「悪魔の捕縛に成功しました」


 取り次ぎをすませたと思わしき年老いた老人は声を震わせながら事実を告げた。


「悪魔の捕縛?そんなものは私の管轄ではないだろう」

「捕縛した人物は義息子タウロス様です。聞くところによると『悪魔封印など生ぬるい!2ヶ月も待っていられるか!』とおっしゃっていたようで……それで王様が褒美を直々に取らせると……」


 老人はそこで言葉をきった。言わずともこの夫妻はそれがどのような意味を持っているかわかったからだ


「……ハハハハ!凄いなタウロス君は!

ライラ!きみがレイラに会いに行ってくれ!私は準備を整える!」

「わたくしよりもウィルさんの方が口が達者ですものね。お言葉に甘えようかしら」


「ああ!今年は4年ぶりにレイラの誕生日を祝おうではないか!盛大に!」




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