第8話 遇を頼る者
王宮内に二人の人物が呼び出された。一人はよく王宮に呼び出されるがもう一人は違う。そして二人同時に呼び出されるのは2年ぶりになる。
その二人は廊下で鉢合わせた。互いが互いに笑みを必死に隠しているつもりが釣り上がる口角は抑えきれない。上擦る声は抑えきれない。
「あらぁ〜ウィルさん、家以外で会えるのは久しいですね」
「ライラ、今回の呼び出しはわかっているのだろう?」
「勿論ですとも。わたしは……わたし達はこの時を」
「「待ち続けていた」」
二人は玉座の間に入る。玉座に座る威厳のある初老の男。左右に初老の男を守るように兵士が2人。
顎髭を蓄えウィルとライラを睨みつける男。
「国王様、今回はどういったご要件でしょうか?私どもも緊急事態故に手短に済ませていただけると助かります」
「相変わらず手厳しいの〜ウィル、今回の件は本当にすまないと思っている」
王と呼ばれた初老の男はウィルとライラに軽く頭を下げた。一国の王が簡単に頭を下げるなど許されることではない。それを諌めるように顎髭の男が声を荒げた。
「王様!威厳を保っていただけなければ困ります!」
「ディヒト.ラウンジ君、王様は君の失態を被ってくれているのだぞ、その気持ちも汲めないのか?君はそんなことすらわからないまでに馬鹿なのか?」
「なん……だと!口を慎め!平民の分際で!」
「今は平民ではないのだが?」
「くっ!金で位を買った卑しい奴め!」
ラウンジは怒りの眼でウィルを睨みつけた。元平民が王と対等に話している。そして生まれながら貴族の自分を下に見ているその顔が気に食わなかった。
「金貨1万枚……」
「――!?」
「レイラに贈る誕生日プレゼントの額だ。私とライラの私兵を護衛に付けたかったが王国の……君の顔を立てて魔導士に依頼したんだぞ。その結果が積荷を紛失しなにも覚えていないと言う低堕落だ」
ウィルの怒気のこもった1言にラウンジは顔をしかめた。ウィルとライラ。カーター夫妻がなにか企てている事は明白だ。その中心にいるのが実の娘であるレイラ。
娘との手紙のやり取りは許可しているが直接会わすのは不味い。国家転覆を企てている噂まで広がっている。
「ラウンジ君、なんとか言ったらどうなんだい?君が私と国王様との話しを遮ったんだぞ。なにも考えず発言したのならば退席したまえ」
「私が損失を……負担」
できる訳がない。金貨1万枚の補填など国庫を開けなければならない。そのような権限はたかが貴族のディヒト.ラウンジにはない
「金ですむ問題ではないのだよ。娘は金に執着がなくてね。私達は娘が喜ぶ物を選りすぐった。それを紛失させたのは君だ。たかが金貨1万枚で事が済むのなら私達は慌てていないんだよ。なんなら金貨1万枚を君に預けるから娘を喜ばせてみたまえよ」
娘へと贈られるはずの贈り物は喪失した。100人以上の魔導士を護衛につかせ万全を期して送り届けられるはずが
道の真ん中で全員が意識を失っていた。気がついた時には積み荷はなくなり記憶も全員が曖昧な状態。
「ラウンジ君を疑うつもりはないのだが……そんなに私が憎いかね?」
「なんだと〜?どういう意味だ!」
「私達に嫌がらせするつもりで積み荷を紛失したのではないのかね?道中で一昼夜意識を失って誰一人怪我をしていないなんてあり得るのかね?積荷以外はなにも取られず麻袋?が僅かに湿っているという訳のわからん報告だけ。売り捌くルートは確保しているのかい?」
「ウィル……そのぐらいで勘弁してやってくれぬかの?」
怒りに打ち震えるラウンジに見兼ねた国王が口を開いた。2人はすぐさま向き直り国王に頭を下げる。
「失礼しました。娘の悲しむ顔を想像すると……ラウンジ君。すまなかった。私も妻も気が気でないのだよ。娘が……レイラが泣いてしまう。それをわかってほしい」
「いえ、カーター……卿のご心痛お察し致します」
心にもないことを吐くラウンジ。国王が呆れるように懐から上質の紙を差し出した。家名だけが書かれた書類。
《外出許可証 .カーター》
「2人同時は無理だが……どちらか1人、娘の誕生日を祝ってあげなさい……これくらいしか出来んが余からの誠意と思ってほしい」
「…………国王様、ありがとうございます」
「……ありがとうございます。レイラちゃんもきっとわかってもらえます」
…………
…………………………
2人は王国首都にある屋敷に戻り、互いに注がれたワイングラスを傾け小気味よい音を鳴らした。
「まずは乾杯……かしらね」
「まだここからが本番だがな」
「そうですね。許可証は1枚。わたくしか……ウィルさんか……どうやって決めましょうか?」
「ポーカーでどうだ?」
「あらやだ。ウィルさんはそんなにも勝ちたいの?勝ち負けの決まった不公平な勝負をお望み?」
「当然だ。私はレイラに会いたい。やっと巡ってきたチャンスは絶対にものにしたい」
いつか来るかと思っていた。国は絶対に失態を犯すと信じていた。その為に大量の金品をレイラの誕生日に合わせて贈っていた。
まるで喜ばれなかった。こんな物よりもなぜ会いに来てくれないのかと何度も手紙が届いた。それでも送り続けた。誕生日より早く届くように、奪われても、国が責任を取りレイラの誕生日を自分達が祝えるように。
ようやく首都出る許可を得た。千載一遇のチャンス。レイラに会えるチャンス。どちらか1名。神に愛された者、違う!
「ねぇウィルさん、ポーカーなんて貴方が勝つに決まっている不公平な勝負よりももっと不公平な勝負をしましょう」
「聞くだけ聞こうか」
「レイラちゃんから何通手紙が届いたか……運や実力の入り込む余地なんてない。よりレイラちゃんに愛された者がレイラちゃんに会いに行ける。どうかしら?」
「望むところだ!宝庫へ行くぞ!」
「ウフフ、ウィルさんの悔しがる顔が……レイラちゃんがわたくしに会えて喜ぶ顔が目に浮かびますね」
「恨み言はなしだぞ!」
まだエイジスの名を持つ悪魔を滅ぼした報告をきく以前。
まだブイの名を持つ悪魔を捕縛した偉業を義理の息子タウロスが果たしたことを知る以前の平和な1日。
ジル&メイデンの感謝とおまけ
「ブクマしてくれた読者様ありがとうございました。評価ポイントも下がりましたが、たかが肺に針を刺された程度。気にせずやっていきましょう」
「レイラちゃんって誕生日に金貨1万枚も貰ってるの?一生遊んで暮らせるじゃない!」
「価値がそのくらいなだけで現金ではありませんよ。毎年一通り目を通したら旦那様達に返却してますよ」
「金持ちって感覚狂うのかしら?私だったら売っちゃいたいのに」
「去年ミシェル様が贈られた竜のぬいぐるみやジル様が贈られたメリケンサックは今も大事にしてますね」
「そんなもの贈るわけないでしょ!」
「え?では当時ご学友だったジル様はなにを贈ったのですか?」
「お母さんが焼いたケーキ」
「ジル様……おいくつですか?」
「メイデンと同じよ。21歳」
「今年はなにを贈るのですか?」
「お母さんには言ってるから多分お母さんが作ったクッキーかな?」
「メリケンサックの方がいくらかマシでしたね」




