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第九話 滅亡の足音


 レイラは馬車に乗っている。リドヴィアの荷馬車と違って人を運搬する為の馬車であり快適さも段違いだ。


 しかしレイラには快適さなど微塵もない。

 どういう訳か誰も自分のことを知らない様子だったのだ。

 

 何の冗談かはわからないが本人にとっては冗談では済まされない。王都では自分が知っている人物はそう多くはないのでいち早くアルフィーの町まで向かうことにした。


 本当ならば両親に会うのが先決だったが両親はいつ帰ってくるかわからない。

 それに門兵が覚えてないのなら屋敷に入る方法もありはしない。


 なにより、両親すらも覚えていなければ冗談はいよいよ現実に侵食しきってしまう。


 不安な気持ちは振り払えない。

 それはアルフィーの町に着いた時からますます大きくなっていった。



「……お、おはようございますわ」


 普段なら声をかけない町の住人に恐る恐る挨拶をする。


「おはようお嬢さん。いい天気だね」

「——」


 その後も道行く人に挨拶をしてまわる。

 誰もがレイラの挨拶に対して快くかえしてくれる。


 だがそれだけだ。

 町の住人達はレイラではなく、名も知らぬ年の若い娘へ挨拶をしているに過ぎない。


 そうこうしているうちに慣れ親しんだ家へとたどり着いた。

 王都の屋敷と同じで門兵はいるがあちらはウィル・カーターが雇った門兵であり、


 こちらはレイアの為に雇われた門兵だ。


「失礼、ご用件をお伺い致します」


 門の前に着くと当然のように止められるが、


「……小人はピンクのしっぽとネズミのしっぽを欲してますわ」


 レイラの意味不明な言葉に門兵は一瞬たじろいたがそれだけだ。


「……何を言っているのですか?」

「何でもありませんわ」


 半分は期待してなかったがもう半分、ささやかな自分の証しがなかった気がしてレイラは俯いた。


 用心深いタウロスが何かレイラに何かあった場合に備えて合言葉を設定していたのだ。

 それが何の意味もない、有事の際には効果などまるで無い事に今更焦りもしなかった。


 町の様子を散々伺って知っていた。

 トボトボと門から離れて門から執務室が微かに見える場所へと移動した。


「すぅぅぅ」


 思い切り息を吸い込んだ。

 自分の声などどれくらいの届くかはわからないが大声を出さなければ伝わらない。だから——


「お兄様ー!!出てきてほしいですわーー!」


 精一杯の声でレイラは叫んだ。

 しかし声に反応はない。


 沸々とレイラの身体の奥底からなにかが湧き上がっている。

 その感情は怒りでも悲しみでもない。



 

 ただ茫然と自分は失くしてしまったのだと受け入れてしまった。

 そんな悲壮感をムンムン出すレイラに門兵が声をかけた。


「よければタウロス様に言伝を預かりましょうか?」

「……レイラが来たって言ってほしいですわ。わたくしの事を知らなかったら別にいいですわ」



 レイラはその日のうちに御者にお金を払い王都へと戻った。

 両親に会おう。覚えていなければその時に考えよう。

 ただ今は何も考える気力も起きないので泥のように眠ろうと、




ーー

ーーー


 数分後タウロスが門兵に話しかけた。

 自宅の庭でも二本差しをするという怪しすぎる男だ。


「すっごい金切り声が聴こえたけど誰か来たの?」


「そこまで大声でもなかった気がしますが町の子供でしょうか?タウロスさんにレイラが来たと言ってましたが知り合いですか?」


 タウロスは軽く頭を掻いた。

 町の住人の名前ぐらいは全員頭に入っているつもりだったがレイラなどと言った名前は聞いたことが——


「それと変な言葉を言ってましたよ。シッポがどうとか」

「もしかして小人はピンクのしっぽとネズミのしっぽを欲している——ってセリフ?」


「それですそれ!何か有名な言葉ですか?」


「……随分昔に作った合言葉だよ。あまりに穴だらけだったから検討もなく廃止したけどさ。誰にも伝えてないのに……その子はどんな風貌?」




「年はお嬢様に近かったように思います。服装も——あれ?」


 門兵がレイラの服を思い出そうとしていると妙な違和感に襲われた。しかしタウロスは別の事態に慄いていた。


「幎、宵闇?」


 タウロスが両方の刀を押さえて震えている。

 側から見ればもの凄く痛いヤツなのだが、本当は震える二本の刀をタウロスが抑えている。


 やっぱり痛い奴だった。

 タウロスの痛ましさは留まる所を知らない。


「……なに?斬られてる?……『永別』で存在を——。あり得ないって、いや、ちょっと俺もわかんないから二人とも殺気抑えてよ」


 門兵は目に涙を浮かべた。

 龍神を殺した後遺症だ。いくら最強の男と言えども東邦連邦の神を殺して無事で済む訳がない。


 独り言ぐらい言ってもいいではないか。

 刀と喋るフリをしても誰が咎められようか。


 門兵は優しい眼差しでタウロスを見つめるしか出来な——


「俺は正気だからやめろよ!今更だからいいけどさ。それじゃあ留守をよろしく」


「おお!いよいよ龍神を殺したタウロスさんに女神様から直々に力を与えられるのですね。俺もその場に立ち会いたかったなぁ」


「……あはは。まぁ、期待しないでね」




 






 

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