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第ご話 ほころび


 メイデンが指示した風呂場はかなりの広さがあった。

 まずレイラ以外の人に用はないからそれ以外の人が入って来たら殺……気絶してもらおうかな。


 殺したらメイデンに何を言われるかわかった物ではない。


 ローブを着直して頭まで覆いかぶさる。

 この空間の魔力残滓は把握したから是が見えないように同化させる。



 忘れてたけど目を閉じてなきゃいけない。


 誰か入ってきても音や魔力量で推察出来る。

 だからレイラが近づいたら絶対わかる。


 だってレイラは魔力がまったくなかったのだから。

 インユリアも魔力がまったくなかったけど、それは彼女は魔力を必要としなかったからだ。


 レイラはいつ来るのかな?

 はやく——はやく——



 ……索敵をこの屋敷全部に広げよう。

 魔力を細い蜘蛛糸状に伸ばして屋敷を覆う。

 

 何人かの人間が糸に触れたけどレイラじゃない。

 ……おかしいな。


「……頭が痛い。待ってるの大変だし寝てようかな」


 その場でコロンと寝転がる。幸いな事に目は閉じているから後は意識を手放すだけだ。



ーーー

ーー


「フォーカードですわよー!」

「何も揃ってない。コレはまた是の負けなの?」


「さぁもう一勝負ですわよ」

「もういいよ。是は絶対勝てないからクリーヴァが来るまで大人しくしてようよ」



 なんの記憶だ?

 是がレイラとトランプで遊んでいる。


「次はわたくしが苦手な神経衰弱で遊びましょう。これならタナトスにもチャンスがありますわよ」

「負けたらもうやらないからね」



 是はそんな記憶持ってない。

 是はレイラと遊んだ記憶も夢も持ってない。


「……ハズレ。次いいよ」

「えっと、ハートの2はたしかここ——ハズレ」


「……またハズレ」

「……永遠に終わりませんわね」



 これは誰だ?是は——誰——



「だ、れ?」


「あら?目が覚めましたのね」


「……レイラ?」

「そうですわよ。さっき会ったばかりじゃありませんの」


 意識を取り戻すと目の前にはレイラがいた。


「違う」


 レイラじゃない。是が知っているレイラはもっと小さかった。骨格や肉の付き具合が幼かった。


 頭が痛い。


「汝はレイラじゃない。是が知ってるレイラじゃない」

「……何があればタナトスが知っているわたくしなのかしら?」


 

 そう言ってレイラは是の頭を少しだけ持ち上げた。

 気付いてなかったけど是はレイラに膝枕をされていたようだった。


 バスタオル一枚で身を包んでいるレイラが両手を広げた。

 その格好でいられるとなんだがモワモワする。


「とりあえず何か着たら?」

「わたくしは服を持ってませんわ。だからタナトスが服を貸してくださる?」


 しょうがないからローブを脱ぎレイラに着せる。是よりも身長が低いから全身を包めるはずだ。

 下もねだられたら貸すしかないけど。


「ふふ、頭までずっぽしですわね」

「……。なにか」


 このやり取りは初めてじゃない。

 ずっとずっと昔に経験した事がある。


 是の……悪魔になった是の初めての——


「是の——友達」

「そうですわよ。命を賭けてでもわたくしを守ってくれた優しいアクマさん」


 どうして忘れていた?

 どうして今思い出せる?


 そんな事は全部どうでもいい。是はバカなんだからわからなくていい。大事なのはレイラが生きててくれてる事だ。


「生きててくれて良かった。是はレイラを守れなくて……死んだ後もずっと心配だった」

「ありがとうタナトス、貴方がわたくしを守ってくれたから今がありますのよ。本当にありがとう」



 レイラに頭を撫でられている。その行為にどんな意味があるのが是は今まで知らなかった。マキナが必要以上になだってきたのも頷ける。


 レイラに抱きしめられて撫でられると、とても落ち着く。



……


「それじゃあ是は戻るから」

「ええ」


 是はここに居ていい存在じゃない。


 人には人の、是には是の生活がある。

 それでも、


「あの、さ。また——」


 レイラは是の言いたい事がわかったみたいでニッコリと笑ってくれた。

 

「今度はゆっくりお食事しましょう」

「……うん!」


 レイラは笑ってる。是も笑ってる。

 今日という日を絶対に忘れないようにしよう。


 そうすればいつか失っても絶対に思い出せる。

 記憶にも夢にもしまう。是の宝物として





「  首尾はどうでしたか?」


「うわぁあああ!?」


 忘れてた! 忘れてた! 忘れてた!

 メイデンに脅されてることをすっかり忘れてた!


「人を見るなり驚くとは失礼ですね。それでレイラお嬢様には嫌われましたか?」


 どどどどうしよう。

 是は嘘つくのにも苦手だし、何よりメイデンは簡単に見破ってきそうだ。


 もう本当の事を言おう。


「感触は良かったよ。でもまだ十分じゃないと是は思うよ」


 レイラはとても柔らかくていい匂いがして気持ちよかった。

 全部本当だけど、あとはメイデンがどう思うか、



「……当然ですね。お嬢様が一度の覗き行為ぐらいで嫌悪を示すようなら私はとうの昔に愛想を尽かされていますよ。まったく、レイラお嬢様の寛容さは有頂天に届き得ます」



 メイデンは何やら一人で納得してくれていると思ったら是を見ながら真面目な顔をした。


「私はレイラ嬢の泣き顔は大好きなんですが悲しむ顔は嫌いなんですよね。タナトスはどうですか?」


「是もレイラには悲しんでほしくないよ」


 メイデンが是の襟首を掴んで持ち上げそっと耳打ちした。


 そして先ほどの話が本命でこちらは思い出してしまったから。本当は至極どうでもいいという雰囲気がマシマシと感じとれた。


「だったらインユリアには金輪際関わるな。あいつはクソババァが唯一弟子にした女だけあって相当に頭が切れる」


 メイデンは知ってる。

 是たちが何をしようとしてるのか。


 それでもメイデンはインユリアが何をしたのか知らないはずだ。

 インユリアがした事は五百年たった今でも許されることじゃない。


 でも、それでも


「レイラが悲しむっていうならインユリアには関わらない。ジュデッカと八重がなんて言うかわからないけど……是はもう二度と大切な人は絶対に失くさない」



「殊勝な心意気は見事と言っておきましょう。代わりに何かあった時は一度だけ私を呼びなさい。暇だったら助けてあげますよ」

 


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