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第23話  イズヴィニーチェ



 どれぐらいの時か数えるのも馬鹿らしくなる程の時間の果て、ニーチェとイズヴィは感動の再開を果たした。


 ニーチェは青ざめてヨタヨタと後退り、

 イズヴィは青スジ立てながらツカツカと近づく。


「おで、おね、お姉ちゃん!なしてここにおると!?」

「ここはあっしのお家っすよ。ニーチェからあっしに会いに来たすよ」


 ちなみに此処はディヒト・ラウンジの屋敷でありイズヴィは食客というか居候です。



「いや嘘ッスよ!あのヨゴレがわざわざお姉ちゃんに会いに行く訳なかろうもんっ!」

「タウカスがあっしに会いたいって言うから付いて来たんすよ」



「お〜ま〜え タ〜ウ〜カスぅぅ!お姉ちゃんに迷惑かける最低最悪のクソカス野郎!オラァ!こっち来い!……お姉ちゃん、ちょっとタウカス叱ってくるけんね。また後でお話ししようね?」


 ニーチェがタウロスの腕を掴み、激しく怒鳴りながら遠のいて行く。


「なんだよ?お前に怒られる筋合いないぞ」

「ちょっち黙ってろ。このままイズヴィから離れるッスよ」


「は?なんで?」

「お前はイズヴィがどんだけ怖いか知らないんスよ!このまま済し崩し的にフェードアウトして

……

こんな感じでアルフィーの町から再スタートッス。タウカスへの説教はその後ッスよ!覚悟しとけ!」



 グイグイと腕を引っ張られつつもニーチェに合わせていたタウロスの足が止まった。

 そしてニーチェの肩を掴んで優しく語りかけた


「逃げるっすか?」


「あぁ?誰が逃げるッスかー?テメェほんといっぺん魂から叩き直して  お?おおおおでぇぢゃん!?先回りせんどってよ!」

「ニーチェが逃げようとするからじゃないっすか」


「……なんでわかったと?」

「なんかタウカスの目見てたら『逃げようとしてる』って教えてくれた。なんで逃げるっすか?」


 逃げ場がないと悟ったニーチェはタウロスをバンッと押し退けてイズヴィを手招きしたて二人の会話が聴こえない場所まで歩いていく。

 



「で?なんで逃げるんすか?」

「……だってお姉ちゃんすぐ怒るやん?怖いんよ」


「怖くたって別にニーチェに危害加えないから良いじゃないっすか?」

「はぁ?お姉ちゃんなんば言いよっとね!?あっしがお姉ちゃんにどんだけお尻叩かれたかわかっとーと?今も2つに割れとるんやけんね!」


「……本当にお前なんも聞いてないんすか?」

「なにがよ?」


「あっしはもう魔法使えないんすよ。やろうと思えばニーチェでもあっしに勝てるっすよ」

「……え?マジ?」


 ニーチェはすぐさま自分の身なりを確認した。

 移動手段である三角帽子、

 魔力を補充するローブ、

 魔法陣を形成する箒……


「くっ、使えそうなものがないッス……チャンスなのに」


 刃物がない。鋭く尖った……突き刺すだけで傷付けられる金属が望ましいが生憎とニーチェは持っていなかった。



「どうしたっすか?仕返ししていいんすよ?」

「……お姉ちゃんはなにか誤解してるけど、あっしは別にお姉ちゃんをズタボロにしてやりたいわけじゃないけんね」


「ニーチェ」

「——ちゃん!お姉ちゃん!」


 ニーチェが勢い抱きついた。

 それを優しく抱きとめるイズヴィ。



 なんとも美しい姉妹愛である。

 抱きつきながらもニーチェの視線は僅かに下を向いていた。


「にしてもお姉ちゃん、いくらなんでも盛り方下手すぎよ。あっしみたいに寄せてあげるのが嗜みってわからん?」


「なんのことっすか?」

「恥ずかしがらんでよかって!あっしも同じミスしたんやから」


 ニーチェがイズヴィの胸を鷲掴みにした。

 小馬鹿にする笑みは徐々に消え失せ顔面蒼白になるまで時間がかかる事もなく


「……え?都会の乳バンドってこんなにも柔らかなお胸ちゃんを再現出来ると?……ちょっといい?」


 イズヴィの胸元をガバッと開けて中を覗き込んだ。


「乳バンドしてない……なんこれ?なんでお姉ちゃん胸が大きくなっとるん?」

「あー、最近全然動いてないから太ったんじゃないっすかね」


「は は……はははこやつめ」



 突如ニーチェが馬乗りになってイズヴィの両肩を押さえた。


「今こそお姉ちゃんを越えてみせる!!刃物など不要!タウカスを殴り続ける事によって会得したベアナックルを喰らいやがれぇ!」


 

 天高く拳が振り上げられた。目一杯握りしめられた拳は躊躇なくイズヴィの顔目掛けて振り下ろされる。



「お姉ちゃんどんだけグータラしてるんスか!?ってか容姿が同じなんスから胸だけ格差つけたらいかんやろーもん!」



 顔面目掛けて振り下ろされる拳をイズヴィは咄嗟に避けた。拳はイズヴィには当たらずに地面に激しく打ち付けられた。


 グギィ、と、鈍く耳を覆いたくなるような音が響いた。

 地面かニーチェの拳か……より柔いものが砕ける。



「あ あぁ お姉ちゃんの嘘つき……魔法使えないって言ってたのに……あっしのお手々が」

「別に嘘ついてないっすよ。それにほら、今も全然怒ってないっすよ。ちゃんとお姉ちゃんしてるっすよ」


 右手を押さえながらイズヴィから距離を取った。

 全然怒らないイズヴィも怖いがいとも簡単に自身の鉄の拳を破壊した姉が恐ろしくてたまらない。



「 まだ……まだ終わってないけんね!タウカス!その刀貸せッスよ!これでお姉ちゃんの胸をバラバラにして千の風にしてやるッスから!」


「刀なんて危なっかしいの貸すわけないし。折れた手で頑張れ手負いの虎」

「こんのクソカス!……ちっ!タウカスは役に立たんッスね!クソっ!クソッ!こんなちっちゃい石じゃお姉ちゃんはやれないッスよ!」


 ニーチェが池の前に積み重ねられた小石を手に取った。

 途端に穏やかだったイズヴィの表情が目に見えて代わり始める。


「おま、おま、お前それに触るなっす!それは水切りで3回以上跳ねた石なんすから!」


 イズヴィが血相を変えて走ってくる。


「あぁあ!こっち来んどってよ!遠距離攻撃中に近接に持ち込もうとしないでーー!うわぁあ!」


 イズヴィの恐ろしい表情にがむしゃらに石を放り投げた。そのほとんどが音を立てて池に飲み込まれていった。


 

 

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