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第22話  本領


 前回のあらすじ

 また殺害予告を受けた自殺願望旺盛な男タウロス。



 正座をして瞳を閉じて内なる俺と対峙する。

 どうやって俺を殺す気だ?

 俺はどうやって殺される?



 対策を練ろ。無策で待ち受けるは匹夫の勇。

 本当の勇気とは別のものだ。



「あ、もぞもぞしないで」


 これから屋敷で一歩も出ずに引きこもるのはどうだろうか?一応護衛って名目でマイストという頼れる……


 ダメだ。あいつは簡単に俺を売りやがる。

 他に……戦力……



 八重さんはどうだ?

 パンチで地面を割れる存在なんて八重さんだけだ。お酒を用意して事情を話せばお酒を飲んでる間は協力してくれる……か?


 ダメだ!八重さんは飽きっぽい。いつ俺を殺しにくる奴が現れるかわからないのにずっと拘束なんて無理だ。

 俺の命の前にこの世界から酒が尽きる可能性がある。



「くすぐったいからモゾモゾしないで」


 ……最終手段としてレイラ伝いでアイシャを呼んでもらうか?


 アイシャはレイラのお願いなら喜んで引き受けてくれて刺客なんていとも簡単に返り討ちにしてくれる。

 

 実際、返り討ちどころか自分から討ち入るな。

 

 そして何故か半年前から謎の雑草の束を毎月送りつけてくる。

 配送料金は俺名義の着払いで。

 レイラへの贈り物なのに受取人が俺ってなんだよ!?

 

 だからアイシャに全く貸しがない訳ではない。

 こんな時ぐらい借りを返してもらってもバチは当たらな——

 

 ダメだ!一緒にいるメイデンが怖すぎる。あの女はどんな悪行を重ねたのかってぐらい性格が悪い。

 メイデンに会うと俺の胃が死ぬ。

 

 なにより下手すればレイラを巻き込みかねないから却下だ。



 よし……なにもいい案なし!



 イズヴィとニーチェが俺の膝の上でモゾモゾするせいで全然考え事が纏まらない!


 

「ニーチェ、俺もう諦めたから帰ろう」


 ニーチェは俺の膝の上で寝息を立てていた。

 揺すって起こすのも気が引けるし取り分け急ぐこともない。


「……さっきの件、あっしなりに考えてたんすけど」


 イズヴィがむくりと起き上がってマジマジと決め事の紙を見つめた。

 ひょっとして何か妙案があるのかな?

 それともイズヴィが誤解を解いてくれるのかな?


「アサシンバグってこっちの行動を把握出来ないっすから仮にあっしかニーチェが告げ口しないと動けないっすよ」


「把握出来ない?いやいや、イズヴィの紙には俺がそっちの紙も見る事までお見通しだったぞ!?」

「それは——アサシンバグの手口っすよ。ニーチェが誰かに紙を見せるなんて有り得ないっすし、あっしもニーチェを連れたタウカス以外に見せる気なかった」


「そうなの?……でもなぁ」

「それにアサシンバグは此処には降りられないっす。誰かを寄越してもタウカスに手なんか出せっこない」


 う……なんかイズヴィは凄い安心感があるぞ。

 俺が一人あたふたしてるのが恥ずかしく思えるほどに。



「イズヴィは黙っててくれる?」

「黙っててあげてもいいっすけど……ん」


 イズヴィが手のひらを差し出してきた。

 これは賄賂の要求だ。俺の命がかかってるし背に腹は変えられない。


 貯金はたしか……金貨三百枚ぐらいあったかな?


「今手持ちがないから一回戻った後でいい?」

「手持ち?なに言ってるっすか?」


 イズヴィは俺の隣にちょこんと座り直して俺の手を握ってきた。


「前は事あるごとに手を握ってもらってたっすよ。ロストはいなくなっちゃったけど……温もりはたしかに此処にある。ロストが残してくれた世界はたしかに此処にある」


……



 どれぐらい時間が経ったのだろうか?

 未だにニーチェは起きない。素直なニーチェが眠る事なんて見た事なかったけど……やっぱりアレか?



「俺がニーチェの言う事聞かなかったのがマズかったかな?」

「だとしてもそんなの気にしてたらキリがないっすよ。言う事全部聞いてたらニーチェはどんどんつけ上がるっすよ」


 俺が二度目の殺害予告を受け放心状態のままイズヴィの三つ編みを終えた直後、ニーチェがおずおずと近づいて来て『お婆ちゃんが見てるから怒られる前に早く帰りたい』言ってきたのだが意味がわからなかったので俺はなにも考えずに断ってしまった。



「不貞腐れて寝ちゃったのかな?起きたら謝ろうかな」

「……次こいつが起きたら絶対性格違うっすよ」


「え?それってどう言う意味——」

「こいつはちょっとでも嫌な事があると全部投げ出して逃げ出すんすよ。……ここまで怯えるなんて、本当にシグ婆ちゃんが近くにいるんすね。散々悪口言ってもお咎め無いから流石に王都にはいないと思うっすけど」


 イズヴィが立ち上がると木の影に隠れ出した。

 でも残念ながら一番の目印であるトンガリ帽子がはみ出ている。

 あの行動になんの意味があるのか。



「あぅ〜タウカス〜」

「……起きたのか?」


「うん。ばっちり眠れたッス」



 今までは入れ替わる瞬間なんて見たことなかったけど……イズヴィの言葉を信じるなら何か違いがあるはずだ。


「あぅ〜。どうしたッスか?」


 まだだ。もう少し泳がせる。


「そろそろ帰ろうか。ニーチェお得意の魔法でバビュンと飛ばしてくれよ」

「あ?ここはどこ?あっしはニーチェ……あぅあぅ〜、今日はおにゃの子の日だから魔法は勘弁ッスよー。あっしは都合の良い女じゃないッスよ。あぅあぅー!」


 チッ!もう素が出てきやがったな。でもイントネーションは把握した。これからはお前のなりすましは俺には通じない。


 そしてイズヴィが隠れた理由もわかった。



「さっきの質問の続きだけどさ。答えてもらっていいかな?」

「質問?あぅ〜。あっし馬鹿だからわかんないッス〜」


「ニーチェよりイズヴィの方が凄いって本当?」


 うわっ。【イズヴィ】って単語にわかりやすいぐらい露骨に嫌そうな顔してる。

 そして空を360°見渡してフッと笑みを浮かべた。

 

「へっ!あんなのあっしの真似っこしてるだけの下位互換ッスよ。きっと今も世界中飛びながら嘘と見栄とパンチラを振り撒いてるンスね〜。あんなのが身内にいたらこっちが恥ずかしいッスよ。今時カボチャパンツって——恥を知ってほしいッスね!」


「じゃあイズヴィよりニーチェが強いって事でいいの?」

「おいおいおい。タウカスは何処まですっとボケるつまりッスか?あっしのみなぎる瞳で察しろッスよ。イズヴィなんて魔法が使えなくなった事によって手負いの虎と化したあっしの腹パンでダウンさせてやるッスよ!ガアオオォー!」



「へーそっかー。ニーチェは凄いんだなー」

「あたぼうッス!実際に見せてやりたいッスけどこの場にイズヴィが居ないのが残念で仕方ないッスね。ってかよくイズヴィとか知ってたッスね?」




「へー。ニーチェは凄いっすねー。その凄さの秘訣を教えてほしいっすねー」




「誰か知らんッスけど会話を横入りしてあっしの喋り方真似するなッスよ!今現在誰が喋ってるか混乱するじゃないッスか……え?

   お、お、おお おでぇぢゃん!?」



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