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第14話  仲間


 レイラがピーマンを取りに行く為に部屋を出てマキナは死んだように眠っている。

 だからこそジャサファは声をかけた。


「そろそろ姿を見せろファティマ」


「 配色同化(インビジブル) 解除」


 部屋の風景が歪に捻じ曲がり一人の男が姿を見せた。


「なにをしに来た?」

「ようやく反応見つけたら助けに来てやったのにその言い草は酷くないか?顔も半分抉れちまってるしまともに動けないだろ?クローン作ってやるから俺の手をとれよ」


 ファティマがジャサファに手を差し伸べた。

 当然の事だ。二人は友人ではない。しかし仲間なのだ。

 ファティマの手を取ればジャサファの傷は癒えるだろう。


 そして可能性として

 本来の美徳である勤勉の奇跡【悠久の知恵】が再び使用——最悪でも何故使用不可に陥った原因はわかる。


 しかしジャサファは手を伸ばさない。


「どうした?手を取れよ」

「……俺はもういい。ここで、この世界で朽ちていきたい」


 達観したような言葉にファティマが顔をしかめた。

 いったいなにが起こればジャサファは諦められるのか、

 何故こうも清々しい顔をしているのか、


「ジャサファ、ひょっとしてお前は操られているのか?」

「操られてる?……ふふ、確かにそうだ。俺は……俺たちは操られている。神などという幻想に苦悶を背負わされひたすらに罪を贖うだけの存在。そこに自らの意志などありはしない。神などこの世界にも存在しない——」


「神がいない根拠は何処だ?存在する証はある。俺が無敵だと言う事がその証明に他ならない」


「言い方を変えてやろう。お前を殺せる存在がこの世界にいた。なぜ純潔をひたすらに守り通したお前を殺す事が出来るのか——カムイを使わずともわかるだろう?」



 ジャサファの言葉に思わず笑ってしまった。

 半身を焼かれたせいなのか、このような状態を文字通り焼きが周ると言うのだろう。


「あの腐れビッチか、お前たちが殺してないせいで俺が直々に殺してやったよ」

「……そうか、この短期間で3人殺せるとは流石としか言いようがないな」



「  は?  3人……だと?  あんなクソビッチがあと二人もいやがるのか?」


「ロクシリーヌ・リンデは含まれてはいない。あの女はお前の奇跡を貫通し剥がせるだけだ。そのような存在が別に2人、もう1人は言葉通りお前を絶対に殺せる存在だ」



 ファティマが周囲を見渡した。

 警戒するべき人間を探すように。

 しかし、当然ながら周りにはファティマを屠れるどころか傷一つ負わす事の出来ない有象無象しかいない。




「思い当たる人間がいた。一番強い奴を探す時に嫌というほど耳についてきた。ブレドリパは手出し出来なくさせたから……アイシャ・ウィーンか?」


「ファティマの魂胆はわかっているから先に情報を出してやる。

一人はマスターDと呼ばれる存在だ。もう一人はディビット・ラウンジ……この二人はお前の奇跡を貫通させるぞ。そして最後はタウロス・カーターだ。——少なくともタウロスだけは神威、それとこの世界における奇跡なしでは倒せん」


 ファティマはこめかみを何度も小突きながら情報を叩き込んでいく。その三人に関して絶対に忘れないように、身体を失おうとも次は生かせるように。


「ジャサファの選択が本心だとしてもさ、やっぱり俺達にはまだジャサファが必要だよ。でもジャサファが導いた選択は尊重したい」


 ファティマが壁に向けて弓を絞るような仕草をした。

 光が矢を作り出し壁の先を穿たんとし始める。


 


「さっきまでお前と一緒にいた金髪の女の子……レイラだったな?あの子を殺したらジャサファの洗脳は解けないかなぁ?」

「……その考えに至らぬ為に俺は情報を先出ししたのだが?」


「リドヴィアから『理由が出来たらレイラちゃんにちょっかい出してみてよぉ』って言われてんだよ。都合が良いから洗脳されてるって事にしとこうぜ」


「仕方のない奴だ……好きにしろ」

「あぁ好きにするぜ。

 カムイ 対象補足 誤差修正、 ロックオン  」


「お前の崇めている神はどのような姿をしている?」


 ファティマは体制はそのままに視線だけをジャサファに向けた。

 ジャサファの口上は自身の罪業を解き放つ為の儀式、

 

「まさかとは思うけどよ、仲間である俺に怠惰の罪業

往生余生リミットワン】を放つつもりか?」

「仲間であるファティマに忠告も兼ねて……だ。お前が本気であるように……俺も本気でお前を足止めしてやろう」



「……どのぐらい効果が続く?」

「この世界は怠惰に塗れていない。それでも確実なのは発動は出来るという事だけだ。それ以上知りたくばカムイで答えを出してみるといい。予定よりも随分と早くこの世界に来たようだがカムイと共に永久機関も持ってこれたのか?」


 お互いがしばらく睨み合ったのちファティマが両手をあげた。


「——絶対に割に合わんからやめとこう。……だから正直に答えてくれよ。本当に洗脳されてないよな?」


「俺は常に正直であり勤勉であり続けている。俺が洗脳されているとしても俺は本心でここで朽ちたいんだ」

「お前が満足してそうならそれでいいさ。一番乗りってのはちょっとムカつくけどな」


「ファティマも見つかるといいな」

「どーだろうな?俺って最強じゃん?ってか案じてくれるならアレっとこうぜ」


「汝に——」

「……汝に——」



 ジャサファとファティマはお互い膝をつき静かに瞳を閉じた。

 遥かに遠い世界ではそれは毎日のように繰り返した儀式だった。 場所が変わろうとも変わらない信仰であり崇拝する言葉




 「「我ら捻れた信仰が神 ヘリックスの加護があらん事を」」




 


 その言葉は、その声は誰に届いたのだろうか。

 しかし、確かに届いたのだ。



 貴方を許す気はありません。残り一時間にも満たない最後をせめて有意義にお過ごしください。



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