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第11話  都合の良い助け


 クリーヴァが走り馬車へと回り込んだ。

 スピードを出している訳でもなかったので足を止める事だけは簡単に出来たのだが、


「おい止まれオラァ!」


「なんだお前は!この馬車はカーター卿の乗る馬車と知っての狼藉か!?」


 クリーヴァは先の事など考えてはいなかった。

 ただあの馬車を止めればよいと思っての行動だ。


 そして馬車を止めたのならばその先はなにが正解なのかもわからない。



「あ、あぁ、あれだ。あんたどっかのお偉いさんだろぉ?俺様とそこのツレ二人を中に入れるようにしてくれよぉ?」


 クリーヴァに敵意のようなものは感じられないと踏んだ騎兵は馬車の扉を開け事情を話した。

 そして顔だけを出したウィルがクリーヴァを一瞥した。


「誰かは知らんが分別のある大人がなにをやっているのかね?中に入りたいのなら正式に許可を取る。取れないのなら諦める。私に頼めば全てなんとかなると思われても心外だ。それに私の力では君だけに特例を設けるなど到底出来んよ」


 ウィルは至極真っ当な言葉を言って窓を閉めた。


「怖くなかったかいレイラ?」

「……怖くないですわよ」


 王都を出て1分も経過せずにアクシデントに見舞われたが相手は強盗などではなさそうだった。


 強盗だとしたら馬鹿すぎる。

 急遽カーター卿の場所が止まったことにより今も王都から褒美目的の兵士がワラワラと集まってきている。

 


 そんな中レイラは馬車からスタッと降り立った。

 

「レイラ!?危ないからまだ出てはいけないよ」


 レイラに続いてウィルも馬車から降りた。



「わたくしの知っているパパは困ってる人を見過ごしませんわ」


「……つまり……そこにいる人に許可証を出してあげろと?出来なくはないが時期が時期だ。レイラとのお出かけが流れてしまってもいいのかい?」


「構いませんわ「私が構うよお!!!やだよおお!レイラとピクニックに行きたいよー!」ぴえ!?」


「あ 思わず声に出してしまっていたね……はぁ。レイラの頼みだからね……仕方ないね」


 あからさまなため息を吐きながら御者の老人に向かって手を挙げた。クリーヴァが中に入れるよう手配するためなのだろう。しかしその嫌々すぎる光景に


「……やっぱり放っておいていいですわよ」

「そ、そうかね!だったら気を取り直してピクニックに——」


「行きませんわよ!プンッ!わたくしがなんとか中に入れてあげますわ」


 レイラがクリーヴァの手を取り少し離れた場所で蹲るマキナの手を取った。

 しかし掴むという行為ではなくあくまで支えるように、

 そして自らの服を脱ぎマキナの顔を覆った。



「アタシの顔……気持ち悪いの?」

「その程度は大した事ないですわね。自慢じゃありませんけどわたくしなんて全身黒焦げになって両方お目目が破裂した事ありますのよ」


 

「レイラ!なにをやっている!?」


 貴族の娘が突然下着姿になったのだ。当然ウィルは叱りつけるよう怒鳴り周りの兵士は号令も無しに綺麗に回れ右をした。


「なにって……パパはわたくしが何をしてるように見えますの?」

「とにかく服を着なさい。そんな恥ずかしい格好で——」


「恥ずかしいのはパパですわよ!今目の前で困っている人がいて見て見ぬふり?嫌々助ける?パパは何の為に生きてますの?娘が大事なのは結構ですけど少しは周りにも目を向けなさい!そしてパパの視野が広がれば助かる人は五万といるって事を肝に銘じなさい!」


 レイラの凛とした説教にウィルはしゅんと項垂れてしまった。いい歳した男が11歳の娘に正論で怒られたのだ。

 しかも周りには大勢の兵士達に見られている。


 兵士の中には『よく言った』と心の中で思った者もいただろう。実際ウィルはレイラが産まれてから人としてダメになっていた。特にレイラがいる前では他にとって害悪でしかない存在だった。




「  貴方たちもですわよ!  」



 しかしレイラの怒りは収まらない。飛び火したかの如く周りの兵士を怒鳴りつける。


「貴方達は本来王都の中を守る人のはず。それが規律を破ってどうして外に出てますの!?」


「……御言葉ですがカーター卿の馬車が急に停止しましたのでなにかあってからでは遅いと思い」


「なにか起こってるのはこの女性ですわよ!それを全員が全員無視して挙げ句の果てには曇った正当性を振りかざすなんて恥ずかしいって思いませんの!?パパが安全だと思ったのなら次はこの人に駆け寄りなさい!誰かを守るはずの仕事が自分だけしか……いいえ、自分の誇りすらも守れてないって事にいい加減気付きなさい!」


 兵士達はしゅんと項垂れてしまった。

 大の大人達が11歳の女の子にマジ説教を喰らったのだ。

 これが貴族の娘特有の言い掛かりならまだ救いもあるが完全に正論。



 誰もレイラに近寄らないなか一頭の馬だけがレイラに近づき腰を下ろした。


「この人を運んでくださいますの?スレイプニルは良い子ですわ」

 


 そしてこの場で唯一本来の役割を果たしていた者、

 門兵とレイラが対峙した。


 ゆっくりと近づく前に門兵は必死に答えを探していた。

『通していいものなのか』


 しかし間違った選択肢などしようものなら、



「お、おおおとお通、どうぞ、お通りください」

「通行証は馬車の中ですから持ってませんわよ。勿論スレイプニルに乗っているこの女性の分なんてありませんわ。それでも良しとした貴方の判断基準は何処にありますの?」


 やはりレイラの冷たい言葉が飛んできた。

 こうならないように門兵はカーター卿や兵士の偉い人に向けてどうすれば良いのか身振り手振りで合図を送っていた。


 しかし全員がしゅんと項垂れていた。


「わたくしが居なければこの女性は門前払いしてますわよね?言っておきますけどわたくし達を通して罪に問われたのなら責任は全て貴方が背負いなさい。他ならぬ貴方が通したのですもの」

「あ、あの……少々お待ちくださ——」


「貴方は周りの顔色を伺って意見を変える生き方をしてきましたのね。それ自体は否定しませんわ。この女性は見た目は病気かもしれませんけど貴方は心が醜い病いに侵されてますわよ。人の顔色を伺うよりも自分の無くした恥でも探しなさい!わかったら門を開けなさい!」



 門兵はしゅんとなりながら正門の隣の小さな門を開ける合図を送った。


 ちなみにこればかりは正論でもなんでもない。

 世間一般では『言いくるめ』などと呼ばれる。



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