第50話 潜る意識
ブレドリパという名の老人に教えを乞う事が出来た。
人間なのだろうけど、常識では考えられない程に強かった。
私にもこの強さがあれば父の仇がうてる……
そう思っていたけど、
「んでミズーリちゃんはどんなふうに殺したいんじゃ?」
「どんなふう……とは?」
強い人特有の何処かおかしい所をこの老人も持っていた。
「暗殺なり一騎打ちなりあるじゃろう。常人狂人が思い付く程度の殺し方ならワシも可能じゃが、それは嫌なんじゃろ?」
コクリと頷いた。
ブレドリパさんにお願いすればアズタロサなんて楽に殺せるだろう。フェンリルさんよりも強いのかもしれない。
でも……
「私の手で殺せれば方法はどうでもいいです」
アズタロサを殺せるチャンスが巡ってきてるのに……私は自己満足を優先してしまっている。
私の力ではアズタロサに勝てるか分からない。あいつの側近達に歯が立たないのもわかっている。
所詮は私欲に駆られた高望みなのだ。
ブレドリパさんは私の答えに葉巻に火をつけて考え始めた。
「ふむ、斬魔よ——やれるか?相変わらずお前は血の気が多いのう。ミズーリちゃんや、この場でこの扇子を振れ。それで終わるぞ」
ブレドリパさんが扇を手渡そうとしてきた。
触れなくとも理解出来る。見た目以上に重さがある。
「斬魔って、これは……斬魔刀ですか?あれ?でもこれは扇子……」
「そうじゃ。シグちゃんから誕生日プレゼントとして貰った。二刀流は性に合わんので扇子にしてもらったんじゃよ。別に他人が使っちゃいかん理由もないし斬魔も快く承諾したから気にせんで刺し殺してええぞ?」
使えるわけがない。そんな勝手な事をして気に障ってしまったら消滅させられかねない。
そもそも……その方法で敵討ちをするのはなにか違う気がする。
私がたじろいているとブレドリパさんはニッコリと笑った。
「カッカッカッ!ミズーリちゃんはやりたい事は殺したいのではない。仇を完膚なきまでに屈服させたいのじゃな。一枚上手程度では屈服させられん。それは並大抵ではない。少なくともこちらは手加減せねばならんし……厳しく教えねばならんのう」
ブレドリパさんが小枝を手に持った。
一手指導してくれるのだろうと思い戦闘体制をとる。
「……」
「……」
こちらから仕掛けてもいいのだろうか?
ブレドリパさんの強さは知っているし本気ではやっても簡単にいなしてくれると思い——
「ほれ。お主は今死んだぞ?」
「——え……!?」
ブレドリパさんが私の後ろに立っている。
私の手には彼が持っていた小枝が握らされている。
見えなかった……違う。
彼は歩いていた。普通に……自然に……
それがあまりにも自然過ぎて……
町を歩いている一般人のようだと錯覚して、
私は漫然と彼の行動を見逃したのだ。
そしてブレドリパさんは私の背後を取り私のお尻を……
「〜〜!?キャッ!?」
振り向き様に平手をお見舞いしようとしたけど——
パチン と、快音が響いた。
「あ、よ、避けなかったのですか?」
音速の攻撃であろうとも簡単に捌いてしまうブレドリパさんがこんななんの変哲もない一撃を避ける事もいなす事もしないなんて……。
「ふぃー。中々に手痛い一撃じゃのう」
「あの……ごめんなさい。でもブレドリパさんが私のお尻をさわったのが悪いんですよ」
「ワシが悪いのはさて置きじゃ、本題はじゃの、ミズーリちゃんに一切を悟らせずに動ける技と、気付かれずにお尻を撫でる技、どちらを習得したいかのう?」
「……前者です。後者は必要ありません」
「ところがどっこい!ワシは女性の尻を撫でる為だけに先程の技、無拍子を編み出した。この意味がわかるかのう?」
「……少しだけ」
たぶん……だけど、技の境地に至るにはそれ以外の事を学ばなければならない。
「私は……強くなる為にお尻を触らなきゃダメって事ですよね?嫌だけど……頑張ります。その場合は同性のお尻を触るべきなんでしょうか?」
「全然ちゃうわい!」
あ、怒られた。と思ったらブレドリパさんは苦虫を噛み潰したような顔をしだした。
「く……こほん。目的を達成する為になにが必要かを常に考える。その方法を思い付けば次は実行する為に修行する。そして実行する前に手頃な相手で試す。そして試行錯誤を繰り返し——」
ブレドリパさんが喋る事をやめて町を歩いている人たちを見渡した。空を見上げてこの世界全員に届くかのように
「納得した頃には世界に敵などおらん事に気付く。むしろ敵は自分だけじゃ。」
「敵は私だけ……」
「左様じゃ」
「世界には自分と同じ姿をした人が三人いると聞いた事があります。私と同じ姿をした二人倒せばいいのですね!?」
「……ワシの言い回しが悪いのも認めるが……ミズーリちゃんは天然さんじゃのう」




