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震える指先。  作者: 睦月 葵
1/4

1 優しい人

 


 いつからか、と聞かれれば多分最初からなんだと思う。

 一目惚れと言っていいのかどうか。


 挨拶を交わした時に、無意識なのかネクタイの結び目を触ったその手が気になって。ずっと見てしまった。




「おい、高木。高木って」




 そう。声も好みだったから余計に興味を引いた。

 紙を丸めたもので軽く頭を叩かれてハッとする。


「おいおい、もうすぐプレゼンだっていうのに余裕だな」


「あ、高橋さん」


 と言ってから、ここが会議室でプレゼンの為の準備中だったことを思い出して、


「わぁ、スミマセン。ちょっとボンヤリして」


 手に持ったままの資料を慌ててテーブルに置いた。高橋さんは私が資料を見直してたと思ったみたいで、口元だけで少し笑うと紙を丸めたものでポンポンともう一度私の頭を叩いた。


「高木が作成した資料はなかなかだったし、練習も大分したろう?そんなに緊張しなくても、人間出来ること以上のものは出せないから、大丈夫だよ」


 そう言って、私にコンビニのビニールを突きつける。


「ん」


 って、ト◯ロに出てくる少年かよって、高橋さんが何かを差し入れしてくれる時いつも思う。

 それだけ色々と差し入れてもらってるんだけど、ね。


「しっかり休憩とって、笑顔の練習でもしとけ」


「ありがとうございます。頑張ります」


 袋の中身を見れば、私の好きなものばかりで。完全に高橋さんに餌付けされてるな、と思ってにやけてしまった。





 私が入社した年の教育担当だった高橋さん。何から何までお世話になった。すごく空気を読む人だったから、私の不安にも早めに気がついて指導してくれて。男気のあるところや、きめ細かいフォロー、なのに少し天然入る時があって、面白可愛いところも、中身を知れば知るほど惹かれていく気持ちは止められようもなかった。


 ただ、社内恋愛なんて面倒でしかないと思っていたから、私の気持ちを悟られないようにと、ずっと気を付けていたんだけど。




 本当、恋心ってままならない。








「ねぇ、さっきの見た?」


「あぁ、榊さんでしょ?よくまぁ、平気で声かけるわよねぇ」


「本当よね。私なら無理だわぁ」


 昼休みの食堂で、一緒にご飯を食べている同期と先輩たちが話している内容が分からない私は首を傾げた。


「高木ちゃんは知らなかった?高木ちゃんの教育担当の高橋さんの話」


「すごい噂になったって聞きましたよ」


 と、私の同期が言うと、先輩たちは少し興奮しながら高橋さんの噂を話始めた。


 要約するとこうだ。

 隣の課の榊さんは高橋さんと1年くらい付き合っていて、結婚まであと少しってところで高橋さんを振って、早川さんと言う高橋さんの同期の男性社員と結婚したということだった。

 しかも出来ちゃった結婚で。


 同期で仲良かった相手だからと、高橋さんは結婚式で受付まで務めたらしく、皆から不憫だと同情を集めたそうだ。


 男の友情は周りからえらく好意的に受け入れられたからか、高橋さんと同期の早川さんには今現在、悪い印象はないようだった。

 ただ、榊さんはなぜか女性たちからの印象が悪いようで、午前中に高橋さんと話していた時も、皆が注目してたらしい。



「なんて言うか、距離感がねぇ」


「分かる、近いのよね。それを高橋くんも許してるってとこがね」


 先輩たちの話はまだまだ終わらないようで、私はドキドキしている胸を少し押さえた。

 その頃私は新人教育が終わったばかりで、余裕がなく、周りがまったく見えていなかったから、噂があったことすら知らなかった。

 お世話になった先輩のことだと言うのに。なんてこった。でも、


「そっか」


 府に落ちるって、こういうことかと思った。





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