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震える指先。  作者: 睦月 葵
2/4

2 残酷な人

 


 普段、回りにすごく気を使う高橋さんが、突然ぼんやりと何かを見ている時がある。

 あぁ、あれは榊さんだったのか、と納得した。


 納得すると、バラバラだったパズルのピースが突然ハマり出すように、いろんな事の意味を理解させられた。






 高橋さんが微妙な表情をしているな、と思った時がたまにあったから、あぁって。

 あれは切ない時だったのか、とか辛いときだったのかな、とか。


 そして思う。

 高橋さんの心を動かすことの出来る、榊さんがうらやましいって。









 しばらく心が痛かったから、仕事中も休憩中もテンションが上がらなくて、何だか調子も悪かった。


 仕事中に早川さんと榊さんを見かけると、特にテンションが下がって仕方がない。早川さんは関係ないのに、セットで気になってしまって。


 そして高橋さんは、いとも容易く私が不安定なことに気がついてしまう。




「どうした?何か悩みか」


 って、声をかけてくれる事がどれだけ嬉しいか。心配してくれる事が、どれだけ私の心を動かすのか。この人は何も分かってない。

 好きな人がすぐそばにいて、私を気にかけてくれる。けれど、そこには私が欲しい気持ちがなくて。優しい人は、残酷な人でもある。


「いえ、大丈夫です」


「そうか。まぁ話したくなったら言えよ」


 笑顔で返した私に、何か思うところがあったのか、高橋さんは眉を少し動かして苦笑いを浮かべた。











 巡り合わせが悪いことってあるよね。

 関わりたくないのに、なぜか関わってしまう。


 最初は、たまたま私の目の前で持っていた書類を落とした人がいて。自分の足元に書類ばらまかれたら、そりゃ、拾うでしょ?踏んだら悪いし。


 次はエレベーターで。乗ってきた人がコピー用紙をなん束か持っていたら、降りる階位聞いて、押してあげるでしょ?


 その次は、なんだったかな。あぁ、あれだ。名前入りのボールペン拾ったんだわ。


 で、今さっき。社内便で私宛に届いたA4の封筒の間に、多分展覧会かなんかのお知らせの小さなサイズの封筒が、紛れ込んでた。





 巡り合わせの悪い早川さん宛だった。




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