2 残酷な人
普段、回りにすごく気を使う高橋さんが、突然ぼんやりと何かを見ている時がある。
あぁ、あれは榊さんだったのか、と納得した。
納得すると、バラバラだったパズルのピースが突然ハマり出すように、いろんな事の意味を理解させられた。
高橋さんが微妙な表情をしているな、と思った時がたまにあったから、あぁって。
あれは切ない時だったのか、とか辛いときだったのかな、とか。
そして思う。
高橋さんの心を動かすことの出来る、榊さんがうらやましいって。
しばらく心が痛かったから、仕事中も休憩中もテンションが上がらなくて、何だか調子も悪かった。
仕事中に早川さんと榊さんを見かけると、特にテンションが下がって仕方がない。早川さんは関係ないのに、セットで気になってしまって。
そして高橋さんは、いとも容易く私が不安定なことに気がついてしまう。
「どうした?何か悩みか」
って、声をかけてくれる事がどれだけ嬉しいか。心配してくれる事が、どれだけ私の心を動かすのか。この人は何も分かってない。
好きな人がすぐそばにいて、私を気にかけてくれる。けれど、そこには私が欲しい気持ちがなくて。優しい人は、残酷な人でもある。
「いえ、大丈夫です」
「そうか。まぁ話したくなったら言えよ」
笑顔で返した私に、何か思うところがあったのか、高橋さんは眉を少し動かして苦笑いを浮かべた。
巡り合わせが悪いことってあるよね。
関わりたくないのに、なぜか関わってしまう。
最初は、たまたま私の目の前で持っていた書類を落とした人がいて。自分の足元に書類ばらまかれたら、そりゃ、拾うでしょ?踏んだら悪いし。
次はエレベーターで。乗ってきた人がコピー用紙をなん束か持っていたら、降りる階位聞いて、押してあげるでしょ?
その次は、なんだったかな。あぁ、あれだ。名前入りのボールペン拾ったんだわ。
で、今さっき。社内便で私宛に届いたA4の封筒の間に、多分展覧会かなんかのお知らせの小さなサイズの封筒が、紛れ込んでた。
巡り合わせの悪い早川さん宛だった。




