変わった生活~前編
長くなりそうなので前後編にしました。
「ティニー…い、ティニー先生?」
名前が呼ばれた気がしてふと顔を上げると、視界に映るのは近年まれに見るような美形の少年だった。
王族の印である金の瞳に金の髪、それに加えて16、7歳くらいの少年といえば一人しかいないだろう。
彼の名前はエリクトン=アリヌバレット。
まあ、名前と姓の間に長々とミドルネームやらなんやらが入るのだけれども面倒くさいから正式なとき以外は略されている。
つい考え事にふけっていたから名前を呼ばれていたのに気づくのが遅れたけれど、それをあんじたのか心配そうな目で金の瞳がこちらを見てくる。優しげな雰囲気と、口調で正に王子の中の王子といったような彼に心配されるなど、たいていの女子ならここで顔を赤らめたりするのだろうが私はそうはいかなかった。
理由はなんてことない、おそらく私だけが彼について、いや、世界について知っているからだ。
私、ディスティニーは平民上がりの初の貴族専門学園の教師として『モンカスターム学園』で『ティニー』として名前と、性別を隠し働いていた。
~~~~~
10年前…。
あの事件の後私は変わった。一人残った私にできることなどほとんどなく、あまりいいたくはないが盗人のようなことをしてまでかろうじて生き延びてきた。
7歳を迎えたばかりの子供が親もなく生きていくことは普通はできないだろう。
事実私は一般的にスラム街と呼ばれるような治安の悪い中でくらしていくしかなかった。
だが、私を助けてくれたのは皮肉にも復讐の対象であるこの世界だった。
元々様々な『ルート』で性格や技術を変えて現れる存在だった私は、逆に言えば各『ルート』の技術を会得することができたのだ。
と、言ってもいわゆる努力は必要だし、恵まれた状況でもなかったため、そこまで技術を高めることはできなかったが、『賢者』ルートのエリートとしての存在と『騎士』ルートの女騎士という存在、『王子』ルートの有能な付き人という存在になる可能性があったおかげで、過酷な状況を生き延びるための『知恵』と悪い治安の中で自分を守るための『護身力』、最低な衛生面の中で病気にならないための『生活力』を手に入れることができたのだ。
最初のうちはスラム街の中にあるカースト制の最底辺にいたため周りからの暴力や暴言など到底生きていけるとは思えない生活を送っていた。
けれども先程も行ったように『ルート』ごとの自分の技術について気づいてからは着々とカースト制のなかで立場を整えていった。
まあ、なんとか一人でもやっていけるかなー?と思っていた時に転機はやってきた。
カースト制のトップにあたる人物カイン=コーラスに興味を持たれたのだ。
突然やってきてすぐ死ぬだろうと思っていたガキがまさか立場を上げていくとは思わなかったのだろう。彼はわざわざ私の縄張りとしている区域に顔を出しに来た。
復讐の事しか頭になかった私にとって今の状況は動こうにも権力一つ無いガキだった。
となれば考えることは簡単で『王様』ルートの愛人としての技術を使いカインに気に入られようとしたのだ。
初めて見たカインは綺麗な銀髪に緑の瞳をしている思ったよりも若い青年だった。
まるで、隠しキャラか何かではないのか等と馬鹿なことを考えるくらいには彼の切れ長の目や筋の通った鼻、偽善的な弧を描く口は魅力があった。
もしかしたら彼は隠れキャラなのではないか?
そう思った瞬間、彼はこびる相手から復讐の対象ではないのかとも思ったが、復讐、復讐といっても何をするのか考えてなかった私は、世界に操られているかもしれない存在に復讐しても意味はないのではないか、世界に復讐するのとは違うのではないかなどひなすら考えていた。
結果
なぜか私はカインの屋敷に住むことになっていた。
簡単に説明するとこうなる
キャラクターに対する復讐が正しいのかどうか悩む
↓
目の前のカインを放置する
↓
「私を前にして考え事をするなんで肝が坐っているね、気に入ったよ屋敷においで。」
↓
現在
ということだ。
こ ん な の で い い の か !?
と、私の心情はこうなったわけだが、当初の目的であるカインに取りこむというのは達成?できたためまあ目的達成としよう、というかしたい。
問題は今現在だ。
見たこともないような大きな屋敷に連れて来られてまず入ったのは小さな質素な部屋だった、簡単に言ってしまえば取締室のようなところだ。
机をはさみ向い合って座ると、最初に口を開いたのは偽善的な笑みを浮かべたままのカインだった。
「そんなに怖がることないよ、ここで聞くのはこの屋敷に住むためのテストみたいなものなんだからさ。」
「…テス卜?」
その言葉に見を固くする。なんたって今まで暮らしてきたのは田舎町とスラム街だ。
テストなんて受ける機会もなければ見る機会もなかった。言ってしまうところの初テストだ。
緊張しないわけがない。
そんな私を見かねたのか苦笑しながらカインが返事を返す。
「ほんとに、簡単なテストだから大丈夫だよ。ただ名前や将来の夢を聞いたりするだけさ。」
そういわれても、怖いものは怖いもしダメだったらまたスラム街に戻されるのだ。せっかく復讐に一歩近づけると思ったのに、リスタートなどとなれば悲しすぎる。
「じゃあ、まずは君の名前をきかせてもらおうかな?」
「…ぁ、ぇとティニーです…。」
「―嘘。」
冷たい声で一瞬にして否定される。
「これでも私の趣味は人間観察なんだ。多少の嘘とかは見分けられるつもりだよ。」
そう言った彼の顔は表情は変わってないのに冷たくてこれ以上の嘘をつくのはやばいと心が警告する。
私の名前は『ディスティニー』だ。前まではこの名前が好きだった。男っぽい名前だったけどお父さんもお母さんもこの名前を呼ぶときの声は普段の声よりも優しく感じることができたから。
けど、あの日以降それもない。それだけではなく『ディスティニー』この言葉の意味は『運命』なのだ。まるで世界の運命にとらわれているようで、一瞬にしてこの名前がきらいになった。
両親が『ディスティニー』とつけたのも全部『運命』だったとしたら、そう考えるだけで怖くなる。それ以降私は『ティニー』と名乗り続けた。
少しでも両親が死ぬ理由となったかもしれない運命なんて言葉と離れたかったのだ。
だから『ティニー』と名乗ったのに…。
一瞬にして見ぬかれた。つまり彼は私に名乗れというのだ『ディスティニー』と。
「ステファニー…。」
「それも、―嘘。」
なぜだろう、私の口から出てくるのは偽名ばかりだった。
「レイチェル、アリシス、サラー、パーパリー、キャロライン、エマ、アナ…。」
「また、嘘。その名前も嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、最後のも嘘だね。」
「ディスティニー。」
「―真実だ。」
笑みをいっそう濃くしてカインが笑った。
誤字脱字多いと思いますが、頑張って減らしていきますので、意見感想あったらバシバシ指摘してください。
打たれ強いのだけが長所なので(*゜▽゜*)