テロスは激怒した。
『テロス』は激怒した。
処刑場に着いたテロスを迎えたのは彼の妻。
の、死体だった。
爪は全て剥かれていた。全身には殴られた痕がある。周りの兵士たちが口々にまだ楽しみたかったと呟いている。狂王は丁寧にも彼女に施された拷問とその反応を読み上げる。
刑場の群衆は皆テロスを笑って居た。テロスと共に怒る事が出来るものは全て狂王に処刑されたからだ。今のこの王都には·····テロスとテロス以外の者しか居なかった。
「さてと、ではお前も死ぬがよい。」
狂王が合図を出し、兵士たちが迫ってくる。
「死ぬのは·····お前と·····お前達だぁぁぁあ!!!!」
テロスが咆哮する。その声を聞いた全ての者が震え上がる。
狂王はテロスよりも高い位置、バルコニー居る。テロスは1歩目で狂王の元へ跳躍する。
「なっ?!」 狂王は驚愕する。
2歩目は踏み込まず。バルコニーに突き刺す。体を固定する。そしてもう片方の足を振り上げる。
テロスは産まれて1度も喧嘩をした事の無い優しい青年だった。結果としてはテロスの蹴りは当たらなかった。だが成果としてはそれで十分だった。
ドォォォンンッッ!!、凄まじい速度の蹴りによって圧縮された大気が狂王の目の前で炸裂する。バルコニーは崩れ去り、取り巻きごと狂王を消し飛ばす·····
「狂王が死んだそ!」誰かが言った。もう恐怖政治に脅かされる事は無いと歓喜している。
「テロスは英雄だ!!」他の誰かが言った。しかし、テロスは英雄ではなくテロスだった。
「狂王は死んだ。そして、狂王の国も!!」
テロスは駆ける。何が英雄だ、何故狂王が死んだことを喜ぶ····· 奴は貴様らの王なのだろ?
「ギャァァ!」「ガッッ」 「イヤァァ」
様々な悲鳴を上げテロスに踏み潰される人々。今のテロスが本気を出せば彼に踏まれた人々は必ず絶命する。
「死ねぇぇえ!」 騎士が立ちはだかる。
テロスは一切減速せずに上半身に蹴りを入れる。
そのインパクトは人の許容量を遥かに上回り騎士の上半身が下半身とプツリと別れる。
テロスの足はズタズタだった。色んな物を踏んだからだ。だが不思議と地を踏みしめる毎に力が湧き上がり、それを繰り返すうちに足の傷は癒えていく。
テロスは王都を3日間走り続け、民を『全員』殺した。
睡眠も食事も必要ない。大地を踏みしめる。テロスが次の1歩を繰り出すのに必要なのはそれだけだった。
テロスの足はまるで地竜のような、黒く滑らかな肌をゴツゴツとした鱗で覆われた物になっていた。最早並の事で傷が付くことは無い。
民を殺し尽くした事に満足したテロスは城壁を突き破り走り続ける。3日間走り続けたテロスには時間とは距離と同義であり、止まることを考えなかった。
幼い頃からテロスは達成出来なかった事は達成出来るまで挑戦(殆どが走る関係)し続けて来た。
テロスは達成できなかった目標を思い返す。それはテロスの妻·····エイラにただいまと伝える事。
勿論その願いは達成されない。エイラは殺されたからだ。だがテロスは止まらない。
テロスが止まったのはそれから10年後の事だった。
女の魔法使いがある女性の姿に変身しテロスの気を引き。控えて居た剣士がその首を跳ねたらしい。女の魔法使いは莫大な富を得た。剣士はテロスの足を加工した具足、テロスの武脚を受け取った。
剣士はこれにより勇者となる。後に『轟脚の勇者』と呼ばれる勇者に。