8話 そして魔王の詳細を
「ところでウィオちゃん、君は【獣】の魔王なんだよね?」
「そうです。あ、刻印見ます?」
そう言ってウィオがおもむろにワンピースの襟を引っ張り胸元を見せてくる。胸の中心部分には確かに狼らしき獣が正面を向いている刻印ががががががががが!
見える……! あと少しで見える……! ウィオの全く持って膨らんでいない胸の先端にある二つの……ってダメだーー!! それ以上はダメだ俺! 信頼して刻印を見せてくれているウィオを穢すんじゃない! 今の光景だって他所様が見たら速攻警察沙汰だ! 俺だって通報する! ダメだ! 見るな! 見ちゃダメだ! なのにどうして俺の視線は勝手に……!
「融お兄さん?」
「はっ!? ん、んん! いや、何でも無いよ? 刻印見せてくれてありがとうウィオ。そういえばウィオは【獣】のって言ってたけど、他に魔王っているの?」
あぶねー! あと少しで後戻りできない道に堕ちるとこだった……! 見ていないとはいえ……ウィオの心配そうに俺を覗き込んでくる視線に罪悪感が……。とりあえず話題を変えねば……!
「いますよ? たくさん」
「え? たくさんいるの?」
「はい、ええとですね――」
どうやら魔王はたくさんいるらしい。ウィオによると、この世界の魔王とは人間で言う所の王様という意味合いが強いらしい。ゲームに出てくるような世界絶対滅ぼすマンみたいな魔王ではなく、それぞれの種族の国を治めているんだとか。まあ、一部国を持たない魔王もいるらしいが……。
【獣】の魔王:獣人族を統括する魔王。
【森】の魔王:エルフ族を統括する魔王。
【鳥】の魔王:鳥人族を統括する魔王。
【土】の魔王:ドワーフ族を統括する魔王。
【鬼】の魔王:鬼人族を統括する魔王。
【竜】の魔王:竜人族を統括する魔王。
【海】の魔王:魚人族を統括する魔王。
【妖】の魔王:小人族や妖精族を統括する魔王。
【魔】の魔王:魔人族を統括する魔王。
【機】の魔王:機人族を統括する魔王。
この総勢十の魔王がこの世界における魔王なのだそうだ。そして十の魔王の中で【獣】を冠した魔王様は俺の目の前にいる絶世の美幼女ことウィオだ。確かにこの可愛さは魔王級だ! そして【機】の魔王率いる機人族は他の種族とは毛色が違うらしい。なんでも他の全種族と完全に敵対してるんだとか。
「なるほどな。それで各魔王達はどんな国を持ってるんだ?」
「そうですねー、私はあまり外に出たことが無いので本で読んだ程度の知識しかありませんが、私達獣人族の国はグシャリンドと言います。ただ、この国では魔王は大した力を持ちません。各部族の族長達による合議制によって運営されています。魔王はその強大な戦闘能力で攻め込まれた際の先陣を切るのが主な役割ですね」
んー、【獣】の魔王は鉄砲玉か何かなのか……?
「魔王が統治してるわけじゃないんだな」
「はい、基本的に【獣】の魔王は政が余り好きではないんです。何代か前の魔王は特に血の気の多い方だったようで……。執務が面倒だからと当時の族長達に丸投げして自分は最前線で戦っていたようです。それから【獣】の魔王は戦う力だけを求められているのです」
「それで魔王が死んじゃったらどうなるんだ?」
魔王だったウィオの父親が死んだからウィオに魔王の刻印が継承された。世襲制って言ってたから血縁がいなくなったらどうなるんだろうか……。
「私がそうだったように魔王に子供がいればその子に魔王の刻印は引き継がれます。いなかった場合は一番近い血縁、それもいなかった時は我々【獣】の場合もっとも戦闘能力に長けている人が刻印を引き継ぎます」
「【獣】の場合はって事は他の魔王は違うのか?」
「【土】の魔王はもっとも鍛冶に長けている者がなるそうなのですが、他はよく分かりません」
なるほど、そうやって魔王の血縁が途絶えても自分達の特徴的な力をもっとも引き出せている者が新たな魔王となっていくのか。確かに効率的と言えば効率的だわな。いちいち選挙なんてまだるっこしい真似しなくて済むんだからな。
「なるほどな。てことはだ、【獣】の魔王は力だけしか求められていないとはいえなりたい奴とかいるんじゃないか?」
「多分いると思います。だから父が私をここに閉じ込めたのでしょうし」
「てことはウィオのお父さんは同族に?」
「それはないと思います。父は身内贔屓で見ても獣人族で最強の男でしたから。けどそんな父が殺されて、新しく魔王になったのが私では恐らく獣人族は黙っていないでしょう」
「なんでまた」
「私は獣人族ですが、獣人族は物理戦闘力が高いのを是としています。しかし私は物理戦闘力には全く恵まれていなかったんですよ」
そう言ってウィオが俺に一枚の紙を差し出してくる。さっき手渡された物と同じと言う事は恐らく鑑定紙なんだろう。それもウィオのステータスが記載された。
差し出された鑑定紙を手に取り内容を見た俺はその内容に驚いた。
ウィオラ・フェンリル 種族:獣人 女 レベル1
物理戦闘力C 魔法戦闘力S+
称号
【魔王】【治癒師】
スキル
【魔王(獣)】【治癒魔法】【魔力消費軽減】
強っ! 物理戦闘力はCってこっちの世界に来た時の俺よりもずっと強いし、それに何より魔法戦闘力が愛梨と同じS+て……、これで弱いとか言ったらこの世界の奴等は虫けら以下になるんじゃないか?
俺が鑑定紙の内容に目に見えて驚いているのを見てウィオが苦笑する。恐らく初めてだったのだろう。ウィオの口振りから今までは獣人族の魔王の娘であるにも拘らず物理戦闘力が低いと言うだけで心無い言葉を浴びせられてきたのだろう事が容易く想像できる。
「見ての通り私は魔法戦闘力に恵まれてしまったんですよ。そして攻撃系の魔法が使えればまだ話は違ったのかもしれませんが私が使えるのは【治癒魔法】だけでした」
「けど【魔力消費軽減】もあるし、十分すぎる才能じゃないのか?」
「そう言ってくれたのは両親以来融お兄さんが初めてです……」
獣人族ってのはほんとに見る目が無いのかただ単に脳筋なのか……、戦闘において治癒の力がどれだけ重要な物なのか理解できてないのか? それとも理解できててそれなのか……、後者だったら救いようがないな……。
目尻に涙を浮かべながら微笑むウィオ曰く、本来のウィオの能力は物理戦闘力がEで魔法戦闘力がAだったらしい。【魔王(獣)】のスキルによって両方の戦闘力が二段階上がったのだとか。それに加え、【魔王(獣)】は速度にも補正が掛かるらしい。【魔王(獣)】のスキルが無くても元の魔法戦闘力がAなら十分すぎるほどに強いのだが。
それにしてもウィオは唯一の味方だった両親がもういないんだよな……。まあその両親から理由があるとはいえ閉じ込められている訳なのだが……。
「なあウィオ、もし、もしウィオさえ良ければここを出て俺と一緒に行かないか?」
「え?」
他の魔王達は後々登場していきます。中々話が進展しなくて申し訳ありません。