7話 そしてスキルの詳細を
「お待たせしました」
トレイに乗せたカップとティーポットをテーブルの上に並べていく。物の値段なんか分からない俺でもこのカップとティーポットは高級品だと一目で分かる程に存在感が合った。
そして彼女が慣れた手つきでティーポットからカップにお茶を注ぐと、芳しい香りが周囲へと広がった。
飢えた俺の鼻腔を芳醇な香りが突き抜け、我慢できずカップを取ると注がれたお茶を飲みこんだ。口の中に広がった香りと仄かな甘みが乾いた俺を潤し幸福感を与えてくれる。人間飢えはある程度我慢出来るものだが渇きはそうはいかない。まあ、今の俺が人間と定義できるのか疑問が残るが……。
「美味い!」
「ありがとうございます。いつも一人で飲んでいるのでそう言ってももらえると嬉しいです」
ニコリと笑う彼女の笑顔に俺はつい見惚れてしまう。顔が赤くなっていくのを自覚しながら俺はそれを誤魔化すためにお茶を飲み干した。
「そ、そういえば! 自己紹介していなかったよね! 俺の名前は日嗣 融、十七歳。とりあえず人間のつもりだよ」
「私は【獣】の魔王ことウィオラ・フェンリルです。十歳です。ウィオって呼んでくれると嬉しいです。よろしくお願いしますね融お兄さん」
うっはぁぁぁぁぁぁぁぁ~~!! ヤバイ可愛すぎる! コテンと首を傾げながらの笑顔とか! もうね! あれだよ! さっきも思ったけどこの子は将来間違いなく可愛く美しい絶世の美女確定だね! もう傾国クラス! もし俺が余の権力者だったら他を滅ぼしてでも手に入れたいと思うもん!
「あの……大丈夫ですか? 融お兄さん」
ウィオのあまりの可愛さに一人悶絶している俺の姿に心配そうな表情で声を掛けてくるウィオ。うん、この子は天使です。【獣】の魔王チガウ、【獣】の天使。
「いや大丈夫、問題ないよ」
「融お兄さんは面白いですね。臭いも今まで嗅いだ事の無い複数の物が混ざり合った様な臭いです」
「!?」
可愛らしい鼻をヒクヒクと動かせて笑うウィオ。
「慌てなくても大丈夫ですよ融お兄さん。お兄さんが私に害意を持っていないのは分かっていますから。ただ、初めての臭いなのでその正体を知りたいだけなのです」
「正体って言われてもな……」
正直それは俺が一番知りたいんだよなー。魔石喰ってその魔石の元になった魔物に変身してる時点で人間とは思えないし……。
「それは俺もよく分かってないんだ。信じてもらえるかは分からないが俺はこの世界とは違う世界からやってきた。召喚されたらしいんだが俺は弱くてな、一緒に召喚されてきた奴に突き落とされてこの辺りを彷徨ってたんだ」
「なるほど……、融お兄さんはこの世界の人ではなかったんですね」
「驚かないんだね」
「いえ、驚いていますよ? でも異世界から人がやってくるのは滅多に無い事とはいえそれなりに存在しますからね。異世界からの訪問者のほとんどが融お兄さんと同じ黒髪黒目です。それで、融お兄さんは自分がどんなスキルを持っているか分からないんですね?」
「分からないというか、俺は召喚された時スキルを持っていなくてな……」
てか俺達以外にもこの世界に来た日本人がいるのか……。てことは稀にニュースで見かける神隠し事件の一部は異世界に召喚されてるって事か?
「分かりました少しお待ちください」
ウィオが部屋の机へと歩き、机の引き出しから何やら紙の様な物を取り出す。こっちに戻ってくるかと思いきやその足で本棚まで歩き、一冊の分厚い本を取り出すとこちらに戻ってきた。
「それでは融お兄さんこれをどうぞ」
「これは……鑑定紙?」
「はい、少し古いタイプですが問題なく使えますよ」
「ありがとう。使わせてもらうよ」
差し出された鑑定紙を手に取りきつく目を閉じると【鑑定】と強く念じる。頼む! スキル有ってくれ! 俺は愛梨を安倉の魔の手から助け出したいんだ!
恐る恐る目を開け鑑定紙を覗き込むと文字が浮かび上がっている。そして俺はその内容に目を剥いた。
日嗣 融 種族:ヒューマノイドスライム 男 レベル22
物理戦闘力EX 魔法戦闘力F
称号
【融合者】
スキル
【融合】【捕食】【変幻自在】【無限胃袋】【無限増殖】【物理無効】【状態異常無効】
【変幻自在】リスト
【ブレイドモンキー】【オーガスパイダー】【シャドウバイパー】
【ジャイアントバット】【フライングブレイド】【アシッドトード】
うおぉぉぉぉぉぉぉ!! 俺にスキルがある! いや、あるのは分かってたんだがこうして実際に見れるとかなり嬉しい! レベルも22ってかなり上がってるし! 物理戦闘力はEXって変わってんのに魔法戦闘力は依然としてFとか……。
「私にも見せてください融お兄さん」
「ん? ああ、いいよ」
「ありがとうございます。へぇ~凄いですね、この称号は初めて見ました。というか融お兄さん種族がヒューマンじゃないですね、ヒューマノイドスライムなんて私初めて見ました。だからなんですね、ヒューマンが覚えるはずの無いスキルが有るのは」
「そうなのか?」
え? スキルに目が行ってて見てなかったけど俺やっぱり人間やめてたんだ……。ちょっとショックだ……。
「はい、【融合】は始めてみますけど恐らく称号スキルですね。けど他の【捕食】【変幻自在】【無限胃袋】【無限増殖】【物理無効】【状態異常無効】の五つはヒューマンでは覚えない魔物のスキルです」
そういってウィオが分厚い本を開く。俺にはまったく読めない文字で書かれているがウィオは普通に読めるらしい。今開いたという事は恐らくスキルの詳細が載っているって事だろう。
「ええとですね――」
ウィオの説明によるとこうだ。
【捕食】:無機物有機物問わず胃袋へと収める能力。因みに生物は死んでいなければダメらしい。何でも食べるスライムだが、魔物を食べる場合は死んでいる個体を食べたり自らの体で覆って窒息死させてから食べるのだとか。
【変幻自在】:スライム等の不定形魔物が持っている事があるスキル。これ単体では体の形を自由に変える事が出来るだけなのだが、【捕食】によって魔石を取り込んだ場合は前述に加えてその取り込んだ魔石の主の魔物に姿を変える事が出来るらしい。見た目だけだが……。因みに体の一部だけを変える事もできるんだとか。恐らくだが魔物に変化させた上で形を変える事も出来ると思われる。
【無限胃袋】:俺と融合したインフィニティスライムが持っているスキル。捕食した物を異空間に近い無限に広がる胃袋へ入れる事が出来る。胃袋の中は時間が止まっており、インフィニティスライムは溜め込んだ食料をいつでも好きな時に食べる事ができるんだとか。因みに取り出す事もできるらしい。
【無限増殖】:スライム等の不定形魔物が持っている【増殖】の上位スキル。インフィニティスライムのみが持っている。体の細胞を無限に増やすことが出来る。
【物理無効】:スライム等の不定形魔物が持っている事があるスキル。不定形の体を利用して一切の物理攻撃を無効化する。分かりやすく言えばワン○ースの自○系の能○者。
【状態異常無効】:毒麻痺混乱等の全ての状態異常を無効化する。なにげにこれが一番ありがたい。
「以上です。何か分からない事ありますか?」
「【融合】は載ってないのか?」
「すいません、【融合】はよっぽど珍しいスキルなのかこのスキル大百科には載ってないんです。スキル【鑑定】があれば分かるのですが、私は持ってないんです」
「いや、他のスキルの事が分かっただけでも十分すぎるよ。ありがとう」
うん、【融合】は恐らく【変幻自在】の能力を補完しているんだろう。【変幻自在】だけでは見た目しか変えられない。つまり【オーガスパイダー】の魔石を取り込んでも糸を吐けないって事だ。それを【融合】が補完する事によってその魔物の能力も使うことが出来るのだろう。まあなんで俺がヒューマンからヒューマノイドスライムになったのかは不明だが、これはいずれ【鑑定】を持っている人に見てもらえば分かると思う。分かるといいな。
主人公のステータスがついに明らかになりました。ついにと言うほど待ってはいないんですけどね。
【捕食】のスキルは基本なんでも食べます。生物のみ死んでいなければなりませんが……。魔物はどのような形であれ生きていれば生物扱いです。
物理戦闘力EXは規格外という意味で、実質Sよりも上になりますね。




