閑話 助けられた者達
ここは冒険者ギルドの中に併設されている居酒屋。
朝昼は冒険者達がクエストをこなす為に出払っていて利用者は少ないのだが、夜になるとクエストを完了させた冒険者達で溢れかえる。
給仕係も目まぐるしく動き回り、注文を取ったり料理や酒を運んだり、時折尻を触ってくるスケベな冒険者へ手に持ったトレイで強烈な反撃を行ったりと大忙しである。
そんな酔っ払いばかりで騒がしい店内の一席で、とあるパーティが夕食をとっていた。
彼等のパーティ名は“誓いの剣”。ここトレイズの街のダンジョンの第7階層で2匹のフルアーマーセンチピードから融たちに助けられた者達だ。
Cランクのパーティである“誓いの剣”はリーダーの大盾使いの大男、ジョッシュと剣士のアラン、白魔法使いのリリ、レンジャーのカナンの4人で構成されており、本来ならフルアーマーセンチピードとも対等に戦えるだけの実力を持っていた。あくまで相手が1体ならの話ではあるが。
融たちに助けられたとき相対していたのは2体。それだけでもかなり厳しい状況であるにもかかわらず、不意打ちで牽制役のカナンが戦闘不能状態にまでなってしまったのが痛かった。
ジョッシュが何とか1体を愛用している大盾で防いでも残った1体が動けなくなったカナンを喰おうと襲い掛かる。
アランが身を盾にして何とかカナンへの攻撃を防ぐが、アランも相応の傷を負ってしまう。
リリも必死で回復魔法をアランへと掛け続けるが、回復量よりも受けるダメージの方が多く、じわじわと状況は悪化していった。
やがてリリの魔力も尽き、アランも満身創痍、ジョッシュも攻撃を防ぐだけで精一杯、カナンは出血が止まらず死に瀕しており、大百足も獲物を弄ぶかのように死なない程度に攻撃を加え全員が多くの血を流し、誰もがもう駄目だと諦めかけたその時、目を疑うような光景が彼等の瞳に映った。
突如現れた少年が大百足を殴り飛ばしたのだ。ただ殴り飛ばすだけではなく、もう1体も巻き込んで吹き飛ばしていた。
いったいどれほどの威力なのかは彼等には分からなかったが、その拳の威力と駆けつけてきた少年の仲間達の姿を見てジョッシュは自分達が助かったということだけはすぐに理解できた。
その後は凄いとしか言いようが無かった。
多少の攻撃を受けてはいたがそれを意に介する事無く大百足と戦う少年と、少年との戦いによって生まれた隙を突いて攻撃を仕掛ける少年と同じ年頃の少女と貴族と思しき太った青年。
初撃こそ硬い装甲に阻まれたものの、2撃目は両者共に魔力を纏わせた剣戟によって一刀両断に斬り捨てていた。
そんな自分達にはまず出来ない戦いをジョッシュたちは自分達を癒してくれる淡い緑の光の中からただただ見つめていた。
そして共に自己紹介をした彼等は融たちに守られながら第7階層の転送陣へと送られ、街へと帰還し今に至る。
「凄かったな……」
「ああ、凄かった」
「確かにねぇ」
「ほんと、凄かったです」
普段ダンジョンから脱出した彼等は、この居酒屋で酒を飲みながら今回の探索の反省をしたり、手に入れた物の仕分けをするのが常なのだが今回は違った。
全員が融たちについて思い返していた。
「あの愛梨ちゃんの剣は凄いな。一撃が鋭いだけじゃなくて魔法を剣に纏わせることもできるなんて」
愛梨の戦いを思い返しているのは剣士のアラン。
彼自身そこまで弱いわけではない。中堅の冒険者としてそれなりに実力があるという自負はあった。
現にフルアーマーセンチピードとの戦闘に入る前は、パーティの前衛としてダンジョン内の魔物を斬り伏せてきたのだ。
フルアーマーセンチピードとは相性が悪かったが、それでも1体だけが相手ならば隙を見て装甲の隙間を斬りつける程度の芸当はできたはずだった。
「いいえ、確かに愛梨さんも凄かったですけどウィオちゃんの回復魔法の凄まじさと言ったらないですよ。あれだけ強力な範囲回復魔法なんて私にはとてもできません」
そう言ってアランに反論するのはパーティの回復役、白魔法使いのリリだ。
白魔法使いと言っても、某有名ゲームのように【白魔法】というスキルがあるわけではなく、【治癒魔法】などの回復及び補助系のスキルを持つもののことを言う。
彼女も中堅パーティの一員として回復から補助まで幅広くこなしてきた。しかし、彼女の回復魔法は単体ならばそれなりの傷も回復させることが可能だが、範囲となると途端に威力が落ちる。
彼等が負った傷をリリが回復させるとなると半日は掛け続けねばならず、そして半日も魔法を発動していられるだけの魔力の持ち合わせは無かった。
「確かにあの回復魔法は凄かった。あれだけの傷が即座に治ったからな」
「えー、でも愛梨ちゃんの魔法剣も凄かったよねぇ」
大盾使いのジョッシュがリリに賛同すればレンジャーのカナンが反論する。
議論は次第に白熱していき、普段の反省会(と言う名の飲み会)以上のテンションで行われていった。
「にしてもさ、可愛かったよなー愛梨ちゃん」
「あの可愛さであれだけ強いってのも反則よねぇ」
「俺はーウィオちゃんのほうが……」
「私もウィオちゃんのほうが可愛いと思います。小さくてほっぺぷにぷにしてそうですし……ジュルリ」
若干危ない方向へトリップしそうなリリがいるが、4人はそれぞれアランとカナンは愛梨派、ジョッシュとリリはウィオ派へと綺麗に2つに分かれていた。
「ああ? ジョッシュ、お前愛梨ちゃんの可愛さが分からないとか……。可哀想な奴め」
「なんだとアラン。ウィオちゃんの可憐な姿に惚れないとか、男としてどうなんだ」
「ああん?」
「なんだ?」
一触即発の雰囲気の男性陣2人。一方で女性陣の2人も同じ様な空気になっていた。
ジョッシュたちを中心に放たれるピリピリとした空気に彼等の周囲から人は離れて行き、彼等の座る席は絶海の孤島のような有様となっている。
そんな彼等から離れて、それでも興味深そうに眺めている群集の中から2人の男女が歩み寄っていく。
そして片方の男がアランに、女はジョッシュの傍によると、ポンと気安い感じで肩に手を置いた。
「おいおい、そんなに険悪な雰囲気出してたら周りの客に迷惑だぜ」
「そうよ、ここは楽しい場所なんだからね?」
「ああ? なんだよ」
突如置かれた手の主を見てアランが不機嫌さを隠そうともしない声を出す。
「そんな不機嫌そうな声を出すなって。同士じゃないか」
「なんで初めて見るお前と俺が同士なんだよ」
「いや同士さ。だって君たち2人は――」
耳元で囁かれた声にアランが目を見開く。一方でジョッシュも同じく何かを囁かれて驚きの表情で女の顔を見ている。
「さて、分かってくれたんなら君たち2人を俺たちの集会場へと案内しよう。きっと楽しめると思うぜ?」
「ああ、案内してくれ」
「OK、それじゃ2名様ご案内ーってな」
「はいはーい、2名様ご案内ね」
男女に誘われて迷う事無く席を立つ4人。
アランとカナンは男のほうへ、ジョッシュとリリは女のほうへとついて行く。
どちらも何を吹き込まれたのかとてもうきうきとした表情で、先ほどまでの険悪な雰囲気は何処へやらと言った感じである。
冒険者ギルドを出てそれぞれの方向へと誘われる“誓いの剣”の面々。
彼等を待っているのは一体なんなのか。それはもう少し先のお話。
それにしても一緒に戦っていたはずなのに話題にも上らなかった融とギュスターヴ……。哀れである。
更新が遅くなって申し訳ありません。妄想が捗らなかったんです(言い訳)。




