3話 そして痛みは突然に
「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!」
イタイイタイイタイイタイイタイ!! 痛すぎる! なんだこれ体中余す事無く痛い! とにかく痛いしかいえないし! 昔愛梨の非公式ファンクラブの連中にボコられた時よりもずっとかなり1万倍ぐらい痛い! てか比べるのもイヤになる! ああーーーー!! 痛いーーー!!
俺は【融合】とかいうスキルが発動していこう全身を襲う猛烈な痛みにのた打ち回る。
全身がバラバラにされる様な痛みに加え、体を無理矢理、二つの粘土を捏ね繰り回して一つにしてるかの様な錯覚を覚える。てか【融合】って言ってたから間違いなく混ぜてはいるんだろうけど。
平和な日本社会に守られていた俺にとって感じた事も無い想像を絶する痛み。正直こんな痛みを覚えるぐらいならサルに輪切りにされていた方がまだマシだったかもしれない。だって死ねるし。
けどこの痛みは俺に死ぬ事も狂う事も許してはくれない。永遠とも感じる痛みの中俺はただただ絶叫しのた打ち回ることしか出来なかった。
そしてのた打ち回っている俺の視界にチラリと映り込んだサルは突如としてのた打ち回っている俺を見て呆然としているようにも見えた。
『【完全融合】の完了を確認。個体名日嗣 融の種族がヒューマンからヒューマノイドスライムへと変更されました。スキル【捕食】【変幻自在】【無限胃袋】【無限増殖】【物理無効】【状態異常無効】を取得しました』
謎のアナウンスと共に俺の体を襲っていた強烈すぎる痛みが潮のように引いていく。ムクリと起き上がって体の各所を確認するが地面をのた打ち回っていた為衣服に汚れが目立つものの、体に怪我等は見当たらない。
てか何!? 融合完了? アナウンス聞き逃しちゃったからもっかい言って!
シーン……
待てど暮らせどさっきのアナウンスは聞こえてこない。
「わかってたよ畜生めぇ!」
先程まで俺を襲っていた余りの激痛で筋肉が緊張し手放す事の出来なかった折れたロングソードを地面に叩きつける。俺の叫びと叩きつけられたロングソードだった物が甲高い音を周囲に響かせ消えていく。そして音が完全に消え去った後耳に痛い静寂だけが空間を支配し、さっきまで俺を襲っていたサルですら怪訝な者を見るような目で俺を見つめていた。
やめて……悲しくなるからその視線はやめて……。
つい両手で顔を覆って泣く振りをした瞬間、隙だらけの俺の姿にサルが好機とばかりに鋭い刃を煌めかせて跳びかかってきた。
ちょ、ここは可哀そうな者を見るような目で俺を見るパターンだろ!
そんな俺の心の叫びはガン無視してサルが甲高い鳴き声を上げながら俺に迫る。両手で視線を遮っていた俺はサルの放つ声で襲撃を察知できたものの時すでに遅く、サルの凶刃は目の前まで迫っていた。
どうするどうする! 横は無理! 前? 怖いから却下! なら悪手でも後ろに下がるしかない!
即座に決断して少しでも距離を取る為に後ろへ下がろうとした俺を待っていたのは、足元の出っ張りだった。
あ、終わった……。
バランスを崩した俺の胸元へとサルの鋭い刃が吸い込まれて行き……先程の岩よりも確実に柔らかい俺の胸はいとも容易く斬り裂かれた。
「ギャァァァァァァァァァーーーーー」
周囲に俺の絶叫が響き渡る。
「ァァァァァァァァーーーー……あれ?」
視線を下せばそこにあるのは俺の胸には四本の斬り裂かれた痕。
あれ? 痛くない? どう見ても深々と致命傷待ったなしの傷なんだけど……。あれー?
腕を組み頭を傾げる俺と同じタイミングでサルも腕を組んで首を傾げていた。てかその手で腕組んで自分の腕傷つけないんだろうか……。
「キキー!」
鳴き声を上げ再びサルが俺を手の鋭い刃で斬りつける。
「ギャァァァァァァァァァーーーー」
再び周囲に俺の絶叫が響き渡る。
「ァァァァァァァァァーーーー……あれ? やっぱり痛くない」
肩口から深々と切り裂かれた痕があるにも関わらず俺に痛みという感覚はいつまで経ってもやってこなかった。そして俺はふとある事に気が付く。
あれ? 胸の傷が無くなってる? もしかして斬られてなかった? でも服に斬られた跡は残ってるし……。どうなってんだ?
腕を組み不可解な現状に首を傾げる俺。そしてやっぱりサルもなぜ攻撃が俺に効いていないのか分からず首を傾げていた。
てかそんな事よりも! 何でか知らないけど相手の攻撃が効かない今が有利!
「喰らえやーーーー!!」
地面に転がっている折れたロングソードを手に持ちサルへと飛びかかる。突然の俺の襲撃に困惑したサルは驚愕の表情を浮かべたまま硬直して動けない。俺は動けないサルの顔面へと折れたロングソードの断面を叩き込んだ。
手に伝わる頭蓋を砕いて突き進む感触が不快感を加速させる。それでも俺は大きくなる不快感を無理矢理捻じ伏せ折れたロングソードをサルの顔に捻じ込んでいく。こっちだって死にたくないし!
一方サルも両手の鋭い刃を一心不乱に動かし俺を斬りつける。しかし何度斬りつけようとも俺に痛みを与えることができず、斬られた痕もすぐに何事も無かったかのように元に戻っていく。
早く死ね! 死んでくれ!
心の中で叫びながらより一層捻じ込む力を強くすると、途端にサルの体がビクンと痙攣した。そして一瞬の痙攣の後サルの腕から力が抜けだらりと垂れ下がる。動かなくなったサルの体を見てようやく俺はサルが死んだ事を理解した。
「お、終わった~」
目の前の脅威を倒す事が出来て安心したのか俺の体から力が抜けていく。立っている事も儘ならない俺はそのまま地面へとへたり込んだ。
危なかった。この世界に来て初めてのソロバトル。普通もっと弱い相手と戦うもんじゃないの? それにしてもこの俺の体はいったいどうなってんだ? あんな斬撃喰らったら普通の人間なら死んでるぞ?
俺は自分の体を見回す。いたる所をサルに斬りつけられた所為で服がその役目を果たせていない。詰まる所ボロボロの襤褸切れを纏っているにも似た状態だった。
かと言って替えの服なんか持って来てないしなー。どーしよ。あ、そういえば……。
ふと思い出して俺はサルの死体の下へと歩いていく。初めてダンジョンに潜る前に教えられた剥ぎ取りを行っていない事を思い出したのだ。
ナイフ……は無いから仕方ない、こいつで代用するか。
サルの顔面に捻じ込まれたままの折れたロングソードを引き抜く。その際脳味噌等が一緒に飛び出て来てモザイク必至の状態になったが気にしない事にした。ええ、気にしませんともさ。
「さて、このタイプの魔物の魔石は心臓の位置にある事がほとんどだったっけか」
俺はサルの首に折れたロングソードを差し込みそのまま下へと引っ張り力ずくでサルの胸を斬り開いていく。なんとかサルの胸を切り開く事に成功し、その開いた胸の中へと手を突っ込んだ。
ええと、確かこの辺にあるはず……と在った!
目当ての物を掴み引き抜くと、そこには血に塗れた俺の手に目当ての物である真紅の球体、サルの魔石が握られていた。因みにどんな魔物でも魔石の大きさは同じでだいたいピンポン玉ぐらいだ。
「へぇ~、もう何度も魔石は見たけどこんなに綺麗なのは初めてだな。よっぽど上の階にいた魔物は弱かったんだろうな~。そしてそんな雑魚にすら苦戦して愛梨の補助なしで倒せなかった俺っていったい……」
落ち込むわー。ほんと落ち込むわー。まあとりあえずこいつにもう用はないし、さっさと移動するか――あ。
魔石を手に立ち上がろうとした俺はサルの体から流れ出した大量の血に足を滑らせた。前のめりに倒れ込む俺、驚きに開かれた口、そして手を離れ中を舞う魔石。開かれた俺の口は中を舞う魔石を目指し、一方の魔石も俺の口を目指して中を舞っていた。
スポッゴクン!
口の中にものの見事にダイブを成功させた魔石を俺は弾みで呑み込んでしまう。そして魔石を飲み込み呆然としている俺の耳にさっきと同じ声のアナウンスが聞こえてきた。
『魔石の摂取を確認。【融合】を実行します』
ファッツ?