18話 そして決闘は決着へ
俺とウィオは仲良く手を繋ぎギルドの通路を歩いていく。すでに俺達の前に訓練場へ行った組の姿が見えないので俺達は相当遅れているらしい。
のんびりとそんな事を考えているとやがて広い場所に出た。そこには既にアナスタシアさんやノポン達小物三人衆、それとアナスタシアさんの色気にやられてホイホイついてきた男性冒険者達。若干名女性冒険者の姿も見えるが総じてアナスタシアさんを見る目が熱っぽいのが気になる。
「はっ、遅かったから逃げ出したのかと思ったぜ!」
広いなー。こんな広いもんが街のど真ん中にあるとかどんだけだよ……おまけに天井や観客席まである。こりゃ訓練場って言うよか闘技場って言った方が正しいな。訓練以外で何に使うか知りたいような知りたくないような……まあ今回の俺達の決闘を見ようって奴の為にあるのかね。てかノッポがなんか言ってる気がするけど……ま、いっか。
俺とウィオは共に周囲を物珍しそうにキョロキョロ見回す。セリフを完全にスルーされる形になったノポンは俺達に指を刺した体勢のまま顔を真っ赤にしてプルプル震えている。その様子が周囲の冒険者達の失笑を買っているのだが知らぬは本人ばかりなり。
「さあ少年、物珍しいのは分かったがそろそろ決闘の準備はいいかい?」
「ん? ああスマン。初めて見るもんだからつい、な。俺はいつでも戦えるぞ?」
「そうか。それならそこの幼い姫は私が預かろう。共に観客席で君の活躍を見ているよ。さ、お前達も観客席に上がるよ。ここは今から決闘の場になるんだからね」
アナスタシアの号令で野次馬の冒険者達がゾロゾロと観客席へ上がる階段へと向かっていく。観客席に上がった彼等は思い思いの場所に座り近くにいる仲間と喋っている。中には俺とノッポどちらが勝つか賭けを始めた奴もいた。そいつらは近くの冒険者達にも声を掛けていき、次第に野次馬全員が賭けに参加しているようだった。
「さ、君も行くよ。上で少年を応援してあげようじゃないか」
「はい。融お兄さん、頑張ってくださいね! 私、頑張って応援してますから!」
ああなんてウィオは可愛いんだ。こんな可愛い子をあんな小物ーズに渡すわけにはいかんよな。全力でやらねば!
「ああ任せとけ! 言ったろ? ワンパンでケリつけるってさ」
アナスタシアと共に階段を上がっていくウィオを眺めていると、観客席の賭けは俺の元まで聞こえる位ある意味でヒートアップしていた。
「誰かルーキーに賭けようって強者はいないのかー? 今なら倍率300倍だぞー! てか誰かがルーキーに賭けないと賭けが成立しないんだが―!」
そう俺に賭ける奴がいないのである。そりゃ俺はやって来たばかりのポッとでの新人だし? 服装だって長袖のシャツと長ズボンって一見して冒険者には見えない服装ですよ? それでも一人くらい俺に賭ける奴がいてもいいだろうに。ネタで。
「それなら私が少年に賭けようじゃないか」
「おお!? 強者が出たね――ってギルドマスター!? あんたが賭けるんですかい?」
「ああ、何か不服でもあるのかな? このままだと賭けが成立しないんだろう?」
「そりゃたしかにそうですが……」
流石にギルドのトップまで賭けに参加してくるとは欠片も考えていなかったのか胴元の冒険者はたじたじだ。あんな娼婦よろしく胸元を強調するドレスの絶世の美女に目の前で言われたら誰だってああなるだろうけど。
「なら問題はないだろう? 折角だ、少年が負けたらノポンに賭けている者達全員に金貨五枚支払おうじゃないか」
「「「「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」」」
アナスタシアさんの提案に訓練場が揺れた。揺れたと錯覚するぐらいに訓練場にいる冒険者達が怒号にも似た歓声を上げたのだ。この世界の通貨の価値はまだよく知らないが冒険者達の反応からして金貨は相当価値があるのだろう。それを一人につき五枚支払うって……俺を買っているのかそれとも支払っても問題ないくらい稼いでいるのか……両方なんだろうな。
そして金貨五枚という言葉に目が眩んだ冒険者達が一斉にノッポへと応援の言葉を投げかける。あんまり評判が良くないノッポらしいがこの時ばかりは勝ってもらわないと困るのだろう。なんせ金貨五枚だ。
「さて諸君、賭けは成立した。後は決闘の結果を見届けようじゃないか」
アナスタシアの言葉に冒険者達が席に座り俺とノッポを見守る。てか男共の目が金貨に眩んでいる所為か見た事の無い金貨の形になっているのが幻視できる。
「融お兄さーーん! 頑張ってくださいねーーー!」
声援の方へと向けるとウィオが手をメガホン代わりにして応援してくれているのが見える。女性冒険者達にマスコットやぬいぐるみの様に揉みくちゃにされながら。女性冒険者におもちゃにされながらも大きく息を吸っては俺に対して懸命に声援を送っている姿を、周囲の冒険者達は微笑ましそうに見ている。
あんなに頑張って応援されちゃ俺も負けるわけにはいかないな。まあ初めから負けるなんて選択肢は存在してないが。
ウィオの声援のおかげでいつも以上に力が漲っている。今の俺はあんな奴に負けるなんて事万に一つも無いと確信できるほどの力だ。
そして俺は訓練場の中央でノッポと対峙する。
「おい、今なら泣いて土下座して負けを認めれば痛い思いしなくて済むぜ?」
「ハッ、寝言は寝て言え。お前こそいいのか? 今土下座して謝ればギルド除名は無くなるかもしれないぞ?」
「テメェ……! そこまで言うならもう容赦しねぇ。泣いて謝っても許さねぇからな!」
「最初からそんな選択肢は存在してないさ。あるのはお前をブチのめすってのだけだ」
自分でやっておいてなんだが俺のやっすい挑発にノッポは面白いぐらい乗ってくれる。俺を油断させるためにワザとやってるんじゃないかって思えるぐらいだ。
「オラ掛かって来いよ! テメェみたいな冒険者成りたてのガキとDランクの力の差を思い知らせてやる!」
ノッポは両手に持った自分と同じくらい大きいバスターソードを難なく構える。どうやらDランクと言っているだけあってそれなりに力はあるのだろう。
対する俺はシャツの袖に隠れている右腕の肘から先、手首までを鉄へと変化させそのままバネへと形を変える。そして同じように右足の膝から下、足首までを腕と同じように鉄へと変化させ、これまた同じようにバネへと形を変えた。
「おいテメェ! 武器はどうした! まさかこの俺に丸腰で挑むつもりじゃねぇだろうな!」
「そのまさかだ。生憎俺はこの街に来たばかりでな、武器なんか持ってないんだよ」
「ナメやがって……!」
「ほら、構えないと負けちまうぞ?」
俺は右腕を限界まで引き絞り、左足を後ろに下げ左手を地面に着ける。丁度クラウチングスタートの姿勢に近い。違いは右手が地面についておらず、腰の近くにある事くらいだろう。
「なんだぁその姿勢は? まさか俺に首を落として下さいって言ってんのかぁ?」
「んなわけねーだろ」
「ケッどこまでも舐めたガキだ! 死ねやぁぁぁぁーー!!」
ノッポが俺目掛けて剣を振り上げ突進してくる。そこそこ早いがブレイドモンキーの方がよっぽど早かった。てかあんな風に剣振り上げて走ってくるとか腹撃ち貫いて下さいって言ってるようなもんだよな。素なのか俺を舐めてんのか……両方か?
俺は右足で溜めに溜めたバネの力を一気に開放する。俺の到底一歩目とは思えない速度にノッポは思わず目を剥き動きが止まってしまう。
「う、うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そして俺が目前まで迫った時、ようやく再起動したノッポが振り上げていた剣を俺目掛けて勢いよく振り下ろしたものの、振り下ろされた剣の軌跡は単純でしかも遅い。普段ならもう少し早いのだろうが今は焦りの所為で変に力んでいる。
剣が俺に届く寸前、沈み込むように体勢を低くするとそのままノッポに肉薄する。
「俺キャノン!!」
「がふっ!?」
拳を鉄に変え今の今まで溜め続けた右腕のバネの力を一気に開放しノッポの腹部を打ち上げる様に強かに打ち据える。
俺の拳はノッポの軽鎧の腹部を覆う金属を粉々に打ち砕き、そのままノッポの鎧によって守られていたはずの土手っ腹に強烈な打撃を与えた。
その一撃でノッポは肺の中の酸素を全て吐きだし、白目を剥いて訓練場の地面へと崩れ落ちた。
実況「融選手、サポーターのウィオさんに宣言したとおりのワンパンKOでした!
いやーそれにしても弱いですねーノポン選手。どうですか解説さん」
解説「ノポン選手は典型的な噛ませ犬キャラですからねー、仮にも物語の主人公に敵うはずが無いでしょう」
実況「ありがとうございます。おっとここで情報です。今回やられたノポン選手ですが、以外にもまだ出番はあるようです。いったいどんな出番になるんでしょうかねー」
解説「いやー、こういった小物キャラの出番といったらもう決まったようなものでしょう」
実況「なるほど、それでは皆さんノポン選手の次回登場をお楽しみにー」
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