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8 ◆ 八百万 初期の小異が 線分かつ ◆

「お前、成長鈍いよなー」

「だっせー、のろま野郎」

「ぷぷっ。“おすすめ”設定から変えるとか、頭オカシイぜ」

「非効率の極み。存在が無駄」

「あの肌の色といい、頭も腐ってんじゃね?」


 さて、これ等は最近アレクが中々の頻度で投げ掛けられる言葉の一例である。


(つんつんトンガリわっほいの年頃だよねー、15~18歳と言ったら)


 同年代だったならばいざ知らず、倍近い年齢のアレクにとっては幼い子供の可愛い駄々っ子振りを眺めている感じだった。


 一点だけ、周囲の“同期”よりも成長が遅いのは事実である。アレク本人がのんびり構えているので全く問題ではないのだが、これに関しては素朴な疑問の一つではあった。ゲーム時間にして2年程(=現実で183日程)、現在のアレクのレベルは41。伝え聞く話では、既にレベル100まで行っている“同期や後輩”もいるのだとか……。


(どんだけ依存的に嵌りこんでやっとんの?)


 これは耳にした時の率直な感想である。アレクこと聖大自身は、睡眠時の6~7時間(=2日強)しかやらないし、それ以外の時間にやろうとも思わない。睡眠とゲームを同時に出来るからこそ、当初より一貫してのんびり楽しくやっている。



 ここらでアレクが覚えた魔法を列挙しておこう。


 ●攻撃魔法

   〈ボール系〉 :火水土木冷風重金雷光 

   〈アロー系〉 :火水土木冷風 金雷光聖

   〈ブラスト系〉:火水土木冷風重金雷光聖


 ●回復魔法

   単体:〈ヒール〉、〈ラージ・ヒル〉

   複数:〈ヒール・ブリーズ〉、〈ヒーリング・シャワー〉

   蘇生:〈リヴァイブ〉(1名)


 ●支援魔法

   〈ファイティング〉:攻撃力上昇(1名)

   〈ガード・ウォール〉:防御力上昇(1名)

   〈メタル・フォース〉:防御力上昇(1~12名)

   〈マジック・ウォール〉:魔法防御力上昇(1名)

   〈コンテンプレーション〉:闘気攻撃力上昇(1名)

   〈コンセントレーション〉:集中力上昇(1~6名)


 ●その他

   転移系:〈テレポート〉、〈リターン〉、〈トランジション〉

   道具類の分解:〈ディコンポーズ〉

   簡易の鑑定:〈アプレイズ〉

   計測・計量:〈スケール〉

   清掃:〈クリーン〉

   道具欄の所持量増加:〈ウェアハウス〉

   道具欄の盗難・盗視防止:〈セイフボックス〉

   明かり:〈トーチ〉



 魔法の数が増えて来たものの、のんびりやっている分アレクはどの魔法もきちんと使いこなせ、癖も把握していた。


(魔法は不安定やら、当てるのが難しいやらと言われているけど……全然そんなこと無いよな。まあ俺の場合、回復は強力な代わりに攻撃魔法の威力は大概低いけどさ)


 安定の回復支援屋ということで友人から重宝される反面、冒頭のような“トンガリー”も数多くいるという具合だ。




「今回も宜しくー。“Fe(鉄)”ばりに安定的な回復屋さんのアレク」


 陽気な調子でアレクに声を掛けて来たのは、熊蜂男の忍ことナハーラン・ミエール。


「へいよー。今回は他の連れは何人で?」

「あと3人来るよ。拳闘士と侍と召喚士」

「今日は【ロクワ】東部平原で“イノッシー”、“ウマウマ♪”、“お茶鋸切犀(ちゃのこさいさい)”、“ハネッシー”狩りで構わんかい?」

「平気平気。装備品を調達して金が苦しいから、迷宮(ダンジョン)でなければダイジョブ」

「資金足りたんだ」

「どうにか、まけて貰った……」

「それって、残金は……」

「ゼロでっす♪ 手持ちも口座もすっからかんっ!都市間移動の時空門すら使えなーい」


(なるほろ……)


 一つ目の時空門迷宮(ダンジョン)≪ミランゴ・ビーチ≫は都市【ミハーミ】に程近く、次元門迷宮(ダンジョン)≪森の遺跡≫は都市【トラッツェ】の近くにある。双方共にレベル40から入場可能であるものの、通行料が必要だ。前者は100ルブロ、後者は1000ルブロ。

 

 そして、都市間を瞬時に行き来可能な時空門は、行き先に依らず一回当たりの通行料が10ルブロ。本来大した額ではないのだが……文無しの者にとってはその額たるや、なんと高額なことかっ!



「くっそー、都市間の移動や最初のダンジョンで金なんか取るなよなー」

「因みにどんな装備の新調を?」

「よくぞ聞いてくれたっ! 閃光貝の指輪2つと風切り刃! 欲しかったんだよなー」


(標準相場で14万×2個と8万程か……結構奮発したねえ)


「欲しかった物が手に入って良かったやん」

「うんうん、そうなんだよー♪」


 熊蜂の青年は非常に御満悦な様子で、小刀と指輪を見せてくれた。


「はっはー、浮かれモンが自慢してるぜー」


 後方から茶化す声が響く。やおら振り向くと、赤い鬼人の青年にトルコ石とアクアマリンが基調の岩晶人、それに桃色の人狼の女子がいた。


「うるせぇ。それにおっせーよ。今日は内輪以外の人がいるんだから、待たせんなよ。失礼だろーが」

「おっ、おっ? 痛い所を突かれたくなくて、強がってるねー。言っちゃおうかなー♪」

「うるせぇ、お前は暫く口を閉じてろ――」


(今日も平和に賑やかやねー)


<会話を楽しんでいる所悪いけど、そっちの三人を紹介して貰えると有難いかな>


 見た目は青年、中身は少年少女達の和気藹々とした言葉の応酬が止みそうにないので、アレクはナハーランに念話を飛ばす。


「おっと、ごめん。三人共後だ、後。この人はアレク、今回の回復支援役の魔導士だ。アレクは凄いんだぜ。何せ回復も支援魔法も外さないからな」

「えー、マジでー?ホントにー?」

「そりゃ心強いな」

「マジかよっ!?」


(中々に興味深い反応の割れ方で……)


「セレスにアル、お前等な、初対面の人に失礼じゃね?……まあ、こんな奴等だよ、アレク。それじゃ、3人もそれぞれ挨拶してくれ」

「じゃあ、俺から。鬼人族で侍の(たかつき)撒二三(まきふみ)だ。前衛としては外さない回復役の人は有難いね。宜しく」


(すんごい読み方すんのね……“豆撒き兄さん”か“豆撒き地蔵”って呼んだら、間違い無く『もう聞き飽きた』と拗ねるよね)


「俺は見ての通り岩晶人族、そして召喚士のアルトゥーグ・アケッサだ」

「私はセレス・ドゥノーラス、狼の拳闘士よ。で、あんたは?」

「ああ、申し遅れたが、魔人族の魔導士で名はアレク・ベリーロ。宜しく、元気なお三方」

「やっだー、固い固い。まるでおっさんじゃん」


 セレスの言葉に、呆けてしまう青年3人。 


(はは、現実の中身も君等からしたら、そうなるかな。こっちじゃ見た目年齢は37歳だし、尚更か)


「まっ、こんな見てくれだしね。見た目年齢37歳と来たもんだ。どうしよう、中年真っ盛り。返せ、青春。見た目はおっさん、中身は――」

「あっはは、面白いよー、あんたさー」


(絶賛勘違い中の様だけど……面白そうだから訂正せずに行こうか)


「それじゃ、早速狩りへ行きやっしょ」



 【ロクワ】から目的の狩場である東部の平原までの道すがら、彼等の戦い方を聴いたのだが、その内容にアレクはかなり驚いた。


 その一番の驚きは、召喚士のアルトゥーグが闘気法と体術を用いて最前線で戦うことだ。本来召喚士は後衛職で、往々にして“召喚と魔法が主”とにゃん吾郎から聞いていたのだが、武闘派召喚士がいるとは……。

 また、侍の撒二三(まきふみ)は剣術と魔法を用いる魔剣士であり、そして防御力は闘気法を用いる侍よりも劣るそうだ。

 ナハーランは何度も組んでいるが紹介しておくと、忍術と魔法を用いる中遠距離寄りの忍だ。此方も珍しいと言えよう。

 セレスは体術と闘気法を用いた戦い方をする、通常の拳闘士だ。


 従って、この面子ではセレスとアルトゥーグと撒二三(まきふみ)の3名が前衛ということになる。また、ナハーランと撒二三(まきふみ)は回復魔法が苦手であり、〈ヒール〉と〈ラージ・ヒル〉の単体回復魔法しか使えず、回復量も少なめで回復役としては非常に心許無いそうだ。




 暫く平原を駆けていると、一行の先には元気の良い猪が5体、漫才でもやっているかの様にじゃれ合っている。


「相変わらず変な魔物が多いよな。名前も“イノッシー”って」

「見てて楽しいよな。にしても、猪ってノリツッコミが出来る生き物なんだな」

 撒二三(まきふみ)の至って普通な感想にアルトゥーグが答える。


 アレクはアルトゥーグに視線を移し、彼に少々の不安を抱く。現実では多数の種の動物が絶滅しており、時々絶滅した動物がゲームに登場しているものの、猪は現実でも健在である。



「じゃあ、いつも通り頼むぜ!アル、セレス、撒二三(まきふみ)。アレクも援護宜しくっ!」


 3人が猪5頭へ向けて駆け出すと同時に、アレクは〈メタル・フォース〉と〈コンセントレーション〉を唱え、ナハーランが〈ファイア・アロー(4射)〉を放ち、その後少し遅れて3人に続く。〈ファイア・アロー〉は3人を追い抜き、先に猪達に襲い掛かる。


「だぁりゃあああー!」

 地を滑る様にしてセレスが2頭の猪の足を刈って転がし、そのまま付近の1頭へ蹴りを当てる。


「どっせいっ!」

 橙色の光を纏ったアルトゥーグが跳躍し、倒れた2頭を上から押し潰し、セレスに襲い掛かろうとしている2頭に体当たりをかます。


「てぇいっ!やぁっ!」

 起き上がろうとした2頭に、撒二三(まきふみ)が〈十字切り〉と〈弧月〉で追い討ちを掛ける。


(……アルは手数が少ない闘気法主体で、セレスが手数の多い体術主体か。撒二三(まきふみ)は魔法も使えるんだったな……)


 アレクは〈ファイティング〉をセレスに、〈コンテンプレーション〉をアルトゥーグに掛ける。

 ナハーランは小刀2刀で回転しつつ“イノッシー”に斬り掛かり、その勢いで戦いの場の中央付近まで滑り込み叫ぶ。


「離れろっ!」


 その言葉と共にセレス、アルトゥーグ、撒二三(まきふみ)が素早く飛び退(すさ)り、直後にナハーランを起点として、波紋の様に2m程の火柱が広がって行く。炎の波が“イノッシー”を飲み込み、4頭が消え失せる。


「どぇりゃあっ」

 耐え凌いだ1頭にセレスが飛び蹴りを叩き付け、“イノッシー”は勢い良く吹っ飛び消滅した。


「やっぱ豪快に蹴り飛ばすのって気持ちいいよねー。マジすっきりするわー」


 狼少女から凶暴な発言が飛び出しており、アレクは彼女の中身の性別を疑いたい衝動が湧き起こる。ゲーム内での性別は現実の性別とほぼ一致するらしいが……。


「支援魔法ってぇのは、すげえな。ナハルにマッキーは使えねぇのか?」

「俺は〈ファイティング〉と〈ガード・ウォール〉だけだから、自分用に使ってる」

「俺も撒二三(まきふみ)と同じだ。他の人に使うやつは出現してないぜ」

「っんだよ、もうちょっと仲間思いの魔法を覚えてくれよ」

「そーそー、協調性って大事じゃん」


 やや悪態を付く様にしてアルトゥーグが喚き、それにセレスが気だるそうに乗っかる。


(それを君が言っちゃうのか…)


 続けて何やら言葉が行き交っている。しかし、何か言うにしてももう少しこの4人の関係性が掴めずにいる内は、下手な横槍は余計に(こじ)れさせそうだとアレクは判断し、暫く見守ることにした。


「ほいよ、元気な皆さん。次の敵さんがあちらに御出座しでっせ」


 アレクの声に、4人はアレクが指し示す方を見る。視線の先には鋸の様な角を携えた犀が2頭いた。


「なにあのブッ細工なデブ。あっはは、マジうけるー。超蹴りたい」


(……がさつ過ぎやしない?あっ、先陣切って蹴りに行ったよ)


 セレスは意気揚々と“お茶鋸切犀(ちゃのこさいさい)”の土手っ腹を蹴飛ばす。慌ててアルトゥーグ、撒二三(まきふみ)が援護に向かおうと駆け出し、アレクは〈プラント・アロー(4射)〉、〈マグネティック・アロー(4射)〉を、ナハーランは〈フリーズ・アロー(4射)〉を放つ。


 魔法の飛来と共にセレスは飛び退(すさ)って溜めを作り、全弾魔法が命中すると同時に勢い良く跳躍し、1回宙返りをしつつ踵落としを叩き込む。地を舐めさせられた格好の犀に、アルトゥーグが赤い光を纏わせた拳で強打し、撒二三が回転するように斬り掛かって〈円月〉を当て、いつの間にか、ナハーランが滑る様に駆け抜けながら小刀で2頭を斬り付ける。更に機を見計らった様にアレクが〈グラビティ・ブラスト〉を命中させ、2頭の鋸角の犀は掻き消えた。


「結構行けるもんだなー」

「ここらはレベル38~45の敵みたいだしなー」

「なら、どんどん行こうぜっ!」


 一行のレベルはナハーランが44、撒二三(まきふみ)が43、アルトゥーグが45、セレスが45だ。魔物は群れで出現することが多いため、正に適正帯の狩場と言えよう。



 次は3頭の馬が目に入る。しかし、どうも様子が変だ。


「なんだ、あいつら……」


 軽快に体を動かし……



 ――愉快に踊っている。



 しかも3頭共に見事な動きと連携だ。非常に様になっているのが……何故か妙に気に障る。


(んん?……ありゃあ、踊りに挑発の効果でもあるのか?)


「マジむかつくんだけどー。うっざいから捻じ切りたいわー」

「ああ、なんか腹立つな」


 喧嘩っ早いセレスとアルトゥーグは、一気に噴火寸前の状態となっている。


(短気過ぎやしないかい、君等二人は……)


「腹立たしいにしても、考え無しに突進は勘弁してくれよ。返り討ちに遭って死なれちゃ、堪らんから」


 不満そうにセレスがアレクを見……猛烈に睨む。

 苦笑いを堪えながら、アレクは提案する。


「まずは遠距離から牽制して踊りを中断させ、その後張り切って殴り倒しに行くってのでどうだい?」

「へいへいっ!判ったよっ!」


 アルトゥーグが吐き捨てる様に言った。そのうち八つ当たりして来そうな雰囲気だ。


「もう無理っ!マジむかつくっ!」


 そう吐き捨てるや、セレスがわき目も振らずに踊る馬の元へ飛んで行く。


 イッヒヒーン♪

 ウッヒヒーン♪

 アッヒャヒャーン♪


 流麗な動作で、しかし、くどく鬱陶しく3頭の馬はセレスの攻撃を悉く避ける。

 離れた所から眺めているだけでも、鬱陶しく腹立たしいことこの上ない馬達だった。 


「な、なあ……まずいぜ。あれじゃ魔法や忍術で攻撃しようとすると、セレスが巻き添えを食らっちまう……」

「くっそー、狙いが定められん」


 忍術や魔法で援護しようと努めるナハーランに撒二三(まきふみ)


「ぬぐぉぉー!! 限界だーっ!!」


 噴火し始めたアルトゥーグ。セレスの攻撃を避ける傍ら、ちょくちょく此方を向いて腹立たしい笑顔を投げて来る馬の扇動に、ついに屈してしまったようだ。


(二人死なれると蘇生が間に合わないから、セレスを巻き添え覚悟で行くか)

 

 馬は回避し続ける傍らでセレスのHPを徐々に削っているため、このまま放置するとセレスとアルトゥーグの双方が死ぬだけのことだろう。

 しかしながら、蘇生魔法を使えるのはアレクだけであり、蘇生道具の“南無南無草”はかなり高価なため、アレク達のレベルで持ち合わせている者はそういない。


 アレクは追尾操作の自由が一番利く〈グラビティ・ショット(6弾)〉を1発目に、そして〈スパーク・ショット(6弾)〉、〈フリーズ・ブラスト〉、〈スパーク・ブラスト〉と矢継ぎ早に魔法を放つ。それと同時にナハーランと撒二三(まきふみ)に念話を飛ばす。


<最後に敵の動きを少しの間止めるから、追撃を宜しく>

<あ、ああ、判った>

<巻き添えは……しょうがねぇか>


 最後の〈スパーク・ブラスト〉だけはセレスを巻き込んでしまい、踊る馬3頭とセレスは感電し、痺れて倒れる。そこへ頭に血が上ったアルトゥーグが、全開にふかした突撃をかまし、セレスもろとも吹っ飛ばす。


(容赦無さ過ぎだ……)


 アレクは威力を抑えた〈アクア・ボール(2弾)〉を後方からアルトゥーグに当てる。


「冷てぇっ! 何すんだよ……って、おいっ! セレスっ! 大丈夫かっ!?」


 どうやら正気に戻ったらしい。しかし、今度は非常に動揺しているようだ。

 瀕死のセレスにアレクは〈ラージ・ヒル〉、続けて〈ヒール・ブリーズ〉をセレスだけを対象に定めて掛ける。その間、痺れ中の馬こと“ウマウマ♪”を撒二三(まきふみ)とナハーランが容易(たやす)く倒す。


「いってぇなー、何すんだっ!」

「はあっ!? 何言ってんだよ」

 セレスとアルトゥーグが罵り合い出す。


(はぁ……元気が宜しいことで)


「はいはい、二人共そこまで。まずアルトゥーグ、セレスを巻き添えにして、“ウマウマ♪”に体当たりしたことは覚えているか?」

「何言ってんだ? 俺がそんなことするわけねぇだろ」


 やや離れた場所で頭を抱えるナハーランと撒二三(まきふみ)


「じゃあ、倒れているセレスを発見する直前のことで、覚えていることは?」

「鋸角の犀を2頭倒したこと……だな」


 アレクは左眉を吊り上げる。


「それならば、セレス、ウマウマ♪ に突撃しに行ったことは覚えているか?」

「はあっ? ばっかじゃないの! 何でそんなことすんのよ、私が」

「……君等2人共ね、“ウマウマ♪”の踊りを見てから、憤慨して暴走し出したんだよ」


 顔を見合わせるセレスとアルトゥーグ。


「あっははっ、何言っちゃってんの、アレク。あんたホント冗談がウマイよねー」

「俺がキレて暴走って、ないない」


 共に噴き出しながらアレクの体をバンバンと叩く。

 アレクは目を閉じ、心の中で大きく溜息をつく。


「あのな、アルにセレス。アレクの言った通り暴走していたからな、お前等」

「そうそう。やめてくれよ」

「「はあっ!?」」


 ナハーランと撒二三(まきふみ)の言葉により、みるみる険悪な表情へと変貌する二人。


「はい、待った、待った。君等元気なのは結構なことだけど、仲間同士でいがみ合っても仕方無いからね。

 それで、セレスにアルトゥーグ、二人共頼りになる壁役かつ攻撃役なんだから、このPTの攻撃と防御の要だね。二人が死ねば全滅に繋がっちゃうわけだ。ではここで質問、危なそうな敵や大群を発見した時はどうする?」

「そりゃ、近付かないか、誘き寄せて有利な条件となるような場所で戦うとかだろうな」

「そんなの、相手にしないに決まってんじゃん」


「なら次の質問。同等レベルの複数の敵と遭遇した場合は、一人で相手にするのかな?」

「敵のレベルの上昇につれて単独は厳しくなっているから、基本的にPT討伐だな。効率の面でもそっちの方がいい」

「判り切ったこと聞かないでよ、相手にするわけないじゃん」


「では、そのPTを組んだ相方が手当たり次第に敵の方へ突っ込んで行ってしまったら?」

「それは――」

「見捨てるに決まってんじゃん、そんなの当然でしょー。協調性のない奴ってマジうざいよねー」


(あのね……君の言う協調性の意味を問い質したい)


「それじゃあ、セレスとアルトゥーグのことは見捨てれば良かったという話でいいのかい?」


 アルトゥーグの顔は一層曇り模様と成るのに対し、セレスの顔は紅潮して行く。


「はい、爆発する前に、まずは聴いてくれ。さっきも言った通り、二人が攻撃と防御の要なんだから死なれたら後衛職は困るのさ。特に俺なんて、1撃か2撃で死んじゃうからね。前衛の二人にしても、支援・回復・蘇生役に死なれたら困るでしょ? お互いに大事な役割が有り、相互に支え合いつつPTは成り立っているんだから、敵に突っ込む前に、ちゃんと作戦を立てるようにしよう。そうしないと全滅しちゃうで」

「ああ、確かにそうだな」

「……わかった」


  素直に頷くアルトゥーグに対し、セレスはまだ“ぶーたれた様子”なのだが、一応納得はしたのだろう。


<アレクって度胸あるんだな……>

<どーいうこと?>

<いや、セレスにあんなことを言えるなんて……>

<だよね。俺も怖くて言えねえ>


 ナハーランの言葉に頷く撒二三(まきふみ)


<そりゃ歳も倍近いんだから、諭すことすらしなくてどうすんの>

<えっ!?>

<三十路なの!?>

<まあ、そんくらい>


 驚愕から目を瞬いて暫し固まる二人。


<同い歳だと思ってた……>

<それが普通よね。まあ、気にしなさんな>


(思い込みや慣例やら当然ってやつは、時に認識を歪ませ、盲目的にさせるよなあ。予想だにしない事態には弱いというか)




 その後も“イノッシー”や“ウマウマ♪”、“お茶鋸切犀”の群れを順調に狩って行く。“ウマウマ♪”と遭遇した際も、今度はセレスやアルトゥーグもぐっと堪え、アレクやナハーランが魔法で撹乱してから攻撃するようになった。



「おい……また別の変な奴がいるぞ……」


 アルトゥーグが左方を指差す。その方向、50mの所に軽快に跳ね回る猪が4頭いた。


「なんか……楽しそうに跳んでんな」

「それより、今日出会った中では一番素早くないか?」

「えー、それって攻撃当てんのムズイじゃん。マジだるい」

「俺が……あいつらを暫く動けなくするぜ」


 アルトゥーグに何やら策があるようだ。


「マンドラナスっ!」


 アルトゥーグの呼び掛けと共にどこからか、煙草を銜えた70cm程の茄子が出現する。


「ああ?何の用だよ」


(……ふてぶてしいやっちゃな……そして目つきも柄も悪い。とんだお化け茄子っ!)


「あの跳び回っている猪の動きを止めてくれ」

「へーいへい、だっりぃーな」


 露骨な迄に煩わしいという感情を前面に出しながら、手足の生えた茄子が“ハネッシー”へ向かって歩いて行く。

 20m程迄近付いた所で、茄子が変な仕草をして……


(うが……なんか不快な感情を誘起させるような……超音波か?)


 マンドラナスは歴史的な絵画のような姿勢で、さながら叫び――いや奇声を発するが如く目と口を大きく開けている。すると、“ハネッシー”が唐突に動きを止めて硬直する。


「今だっ!」


 アルトゥーグの掛け声と共に、4人は一斉に“ハネッシー”へと襲い掛かる。無防備となっているハネッシーは、一斉攻撃を食らって瞬く間に沈んで行く。


「アル、今の茄子は何だ?」


 いつの間にかマンドラナスの姿は掻き消えており、アレクが辺りを見回しつつ問い掛ける。


「ああ、あいつは召喚霊のマンドラナスだよ。≪森の遺跡≫で手に入れたんだ」

「何なんだよ、あの気味の悪い仕草は……」


 少し不快そうに撒二三(まきふみ)が吐く。


「あれな、技名が〈無音の叫び〉ってやつで、効果は敵複数の動きを止めるんだ」

「へえ……便利だな、そいつは」


 ナハーランが相槌を打つ。


「ただ、再使用時間が5分だから、連発は出来ないがな」

「何にしても役に立つじゃん。それにきもカワイイし」


 朗らかな声を発するセレス。


(……あれが、可愛いのか?)


 セレスに対し、色々な意味で疑問符が噴出するアレクだった。



 その後も快調順調大量に魔物を狩って行き、6時間程してから彼等とは別れた。別れ際に戦利品を再分配した際に、ナハーランに閃光貝の指輪1つを渡した時の表情といったら、忘れ難かった。


「……嬉しくて嬉しくて堪らないけど……なんか微妙な気分だ」

「質も格も良さそうだから、銀行か商店の鑑定士にしっかりと鑑定して貰ういい」


 それを聞くや少し満足そうな表情へと変化し、軽い足取りで去って行くのだった。

●標準相場:質と格が共に“0”の場合の金額


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