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25 ◆ 常闇に 春の暁 来たりけり ◆

 “休憩所”以降、フェルサは浮遊する松明とナマケモノーを伴い先陣を切っている。


「テキ3たい、10時ほーこー、距離20mくらーい♪」

「動かないテキー、ぜんぽー40m、いっぱーい♪」

「カニカニー♪」

「エビエビー♪」


 この緊張感が微塵も無い声にフェルサは不安になるのだが、ナマケモノーの優秀さには舌を巻くばかりだった。松明の光が届かない距離の敵や攻撃の察知をしてくれるため、射程30mの〈アロー系〉、射程15mの〈ブラスト系〉魔法の直撃は避けられる。掠る程度ならば削り取られる量も少なく、SPも然程減らない。


 動かない敵とは水辺にいる“ホタ鉄砲”や“大砲浅利”、“水玉イソギンチャク”、“アコヤガン”で、水属性を中心とした魔法攻撃を多用してくる。接近すると、持続時間が短く威力も低い毒攻撃も行ってくる。これらは“休憩所”までには遭遇しなかった魔物達だ。また、これまでにも出現している蟹や海老等も出現する。

 しかし魔法攻撃に滅法強いアレクには、“休憩所”以降の方がずっと楽だった。


「これしき、痛くも痒くもないっ!」

「普通はこれまでには無かった、この魔法攻撃の嵐に苦戦するんだけどな……」


 後ろでフェルサが呟く。魔導士が前衛と、俄かには信じられない状況となっている。あまりの堅牢さに、盾役が入れ替わっている事態なのだ。しかし、甲殻類や“サハギン”が出現した際には、無論通常の役割分担に戻る。


「うおっと、蟹と海老は無理! フェルサ、頼んだ」


 アレクは〈フリーズ・ブラスト〉を“ゑびんっ!”と“かたいカニ?”の足元に放ち、少し削ると同時に10秒ほど足止めをするや否や、脱兎の如く下がってフェルサと入れ替わる。フェルサ曰く、他の魔導士や召喚士でさえ、15発程度は敵の物理攻撃に耐えるのだが、アレクの場合は2~3撃。別にアレクの装備が劣っているわけではない。ギルドに所属していない者としては、恵まれ過ぎと言える程優れた装備・装飾品類である。




 二人と二体の一行は順調に奥へと進み、やがて中央に台座のある開けた部屋に到達した。もはや敵が出現しないため、二人は座り込んで一休みしてMP、OP、SPの回復させていた。ナマケモノーは、部屋をあちこち見て廻っている。アルマロンはアレクの頭上で大人しくしている。


「“休憩所”から楽々このボス部屋まで来れちまうって……アレク、お前って大分変わっているよな。物理攻撃には凄まじく弱いくせに、魔法はほぼ無傷。攻撃魔法の威力が恐ろしく低い分、発動や再使用の時間は短くほぼ連射みたいなもんだし、器用なことも出来るし、魔法に状態異常のような付加効果も付いているし」

「まあ変わっているだろうな。そういえば、他の人にも良く言われるんだが、攻撃魔法に状態異常のような付加効果って付かないのか?」

「見掛けなかったな、そういう魔法使いは。アレクって、魔法の適正がかなり特殊なんじゃないのか? 威力が通常の半分以下だし、属性が合ってないとか」

「合ってはいないだろうな、属性が闇の割には、闇属性の攻撃魔法が魔法欄に出てこないから困ったもんだ」


 これまでに出会った魔導士達にも散々指摘されたのだが、自身の属性の攻撃魔法が出現しないのは異常とも言えるそうだ。また平常心を失って動揺していたり、恐怖で尻込みしていたり、集中力を切らしたりすると、魔法が発動すらしなくなるらしい。アレクは現在までの所、威力や精度に難が出ても、発動すらしないということはない。



「あながち魔法職が不遇ってのは、間違いじゃないのかもしれないな。侍・忍・拳闘士・弓闘士は現実で武術をやる感覚に近いし、技も大概は素直に出現するからな。それに、獣奏士はペットの調教みたいなもんらしいな。あれはあれで、大変だ――」

「動物沢山で嬉しいじゃないかっ!」


 アレクがフェルサの言葉に被せて来た。思わずフェルサは座った姿勢で上体を少し引いた。


「……いや、動物とは限らないからな。昆虫だったり植物だったり、屍ってのもいたな。ありゃあ、正直気持ち悪かった」

「前言撤回、アルマロンやナマケモノーで俺は幸せ者だ」

「確かに可愛くて役立つお供だよな、召喚霊だけど。そいつらのおかげもあって随分楽だったよ、ここまで。まあ、ボスもアレク達となら楽勝だろうな。恐らくアレクにとっちゃ、≪森の遺跡≫や≪植物園≫よりも楽だぞ。なにせ魔法耐性が高いからな」


 ボスは“ガトリング浅利”と言い、後半部に出現した“大砲浅利”の巨大版らしい。魔法主体であり機関銃の様に魔法を連射してくる一方、物理攻撃はというと、これまでに出現した貝系の魔物を飛ばしてくるだけであり、アレクにとっては然程心配の必要はなさそうだ。


 やおら二人は立ち上がり、支援魔法やアルマロンの技を掛けた後、中央の台座に向かい、途中で手に入れた“水色の珠”を台座の穴に嵌め込む。すると、台座が眩い光を放ち始め、入り口が突如塞がると同時に、眼前に6m程の巨大な二枚貝が出現した。






「実質アレクが一人で倒したな……」

「いやー、蟹より弱いんじゃないか?」


 顔が引き攣るフェルサに対し、爽やかな笑顔を浮かべるアレク。

 アレクにとっては特筆することがない程、拍子抜けする弱さだった。ほぼ魔法を連発するだけのごり押し戦法で倒せてしまうとは! “休憩所”までの道中の方が余程大変に違いなかった。予想していたとはいえ、フェルサは半笑いを浮かべていた。少し前に来た際は、4人PTで相当苦戦したらしい。5~6人PTならば、苦戦はしないそうだが。


「さて、戦利品を分けるとするか」

「そうしよう」


 二人と二体は≪海岸洞窟≫内にて獲得した戦利品を床に広げ始める。


「おいおい、こんだけ獲得率が良いのは、始めてだな」

「そうか? いつもこれくらいだろ?」

「――!?」


 フェルサは目を見開く。そして目を閉じて肩を竦めながら首を左右に振る。


「いやいや、アレクさん、何を言いますやら……」


 それから首を振るのを止めたかと思うと、突如フェルサが声を張り上げる。


「まだ強運が続いているだとぉっ!? 普通はこの3割くらいだっ! そして、装備品の質が良さ気な雰囲気や装飾品が出ている辺り、更に真珠や貴石類がかなりあるのはどう考えてもオカシイっ! これが初期から継続したままどころか、更に強化されているなど納得出来るかぁああっ!」

「まあ、稀少品の獲得率は上がったんだよな、面白い称号を獲得してからというもの」

「称号? アレク、お前今のレベルで称号を獲得しているのかよ!?」

「フェルサも獲得していると思うけどな、【暗中模索】というやつを」


 フェルサは目を瞬かせ、そして称号欄を確認すると、下の方に確かにあった。


  【暗中模索】  <加護・効果・技能>:鋭い勘

  【続・暗中模索】  <加護・効果・技能>:危険察知

  【まだ続くよ・暗中模索】  <加護・効果・技能>:目利き

  【まだやるの? 暗中模索】  <加護・効果・技能>:克己

  【もう諦めようよ・暗中模索】  <加護・効果・技能>:折れない心


 称号とは土台思えない言葉が並んでいる。


「なんだぁ、こりゃあ?」

「面白いだろう? 俺は更に【負けたぜ・暗中模索】ってやつを獲得していて、付加効果が“たぐい稀な強運”なんだとさ。恐らくそれのおかげなんだろう」


 フェルサは暫し言葉が出て来なかった。


「よーし、どんどん分配していこう。欲しい物を互いに順番で選んで行くか。フェルサ、お前からだっ! それにさっきの赤柚子のこともあるから、先に10個選んでくれ」




 戦利品の分配も済んだ所で、思い出したようにフェルサが口を開いた。


「そういや、ここにも召喚霊がいるらしいぞ。海豹で、場所は確かこの部屋の奥だったかな」

「何っ!? 海豹だとっ! よし、行ってくる。ナマケモノー、お前フェルサに遊んでいて貰え。フェルサ頼んだぞ」

「はーい。ヤッター♪ フェルサ、ヨロシクー♪」

「ああ、任せろ」


 ナマケモノーは弾けるように、びょんびょん飛び跳ねる。

 アレクはアルマロンを頭上に乗せたまま、奥の部屋へと向かった。




 階段を下りて行くと、そこは全面が氷に覆われた部屋となっていた。棚田のように緩やかで広い段々状に氷の床があり、その一番上に、俵状の白いもこもこの物体がもぞもぞと蠢いていた。微かに音も聞こえる。

 近付くにつれ、それは白い海豹の鳴き声であると判り、『キューン』やら『クーン』と鳴いているようだ。見た目はタテゴトアザラシの赤ん坊だろう。傍まで近付くと四肢を小刻みにバタつかせ、そして寝返りをうった。


「ぼく、召喚士の人が来るのをずっと待っていたよ」


 仰向け状態の真っ白いもこもこ体毛の海豹が、唐突に言葉を発した。


「お、おう、そうか」


 些か呆気に取られるアレク。アルマロンはアレクの頭上から覗き見るように下を見る。


「ぼくの名前は“玉ちゃん”っていうの。支援系の技を持つ精霊だよ」


 玉ちゃんは四肢をバタつかせたり、寝返りを打ったり、蠢いたり、鼻をひくひくさせたり、目をうるませて瞬きをしながら喋る。

 アレクは右眉をほんの僅かに上げ、やや左の口角を下げて目を三度瞬(まばた)く。


「そうか。どんな技なのか具体的に教えて貰えるか?」


 玉ちゃんは上体を反らしてアレクを見上げ、ゆっくりと何度も瞬きしつつ、か細い声で『キューン』と鳴いてから答えた。


「勿論だよ。尋ねてくれて嬉しいんだよ。ぼくの技能はね、味方の疲労を回復させることができるの。最大6人までいけるんだよ。回復の割合は、3割くらいなの」


 合間合間に『クーン』という鳴き声や細かな仕草を入れる玉ちゃん。

 暫し押し黙るアレク。


「そうか。教えてくれて、ありがとな」

「ぼくも一緒に連れて行って欲しいの。頑張るよ。役に立てると思うよ」


 一度瞬きをし、アレクは首を少し傾げる。


「お前を選んだ場合は、対のやつを選ぶことは出来なくなるんだよな?」


 玉ちゃんは首を捻り、目をうるませて瞬き、鼻をヒクヒクさせた。

アレクは暫く返事を待ってみたが、玉ちゃんは目をうるませて何度も開閉させ、鳴き声を発するだけだった。


「俺としては対の奴の技能も確認した後に選びたいから、ここはひとまず保留とさせてくれ」


 アレクは踵(きびす)を返し、振り替えることなく歩いて出口に向かう。



「あれ、いなかったのか?」


 ナマケモノーと玉遊びをしていたフェルサが、不思議そうな顔をしている。


「いたがアルマロンと能力がかぶるし、しかも性能が低いみたいでな。対のやつの技能を確認してから決めようかと……」


 アレクは右眉を微かに上げ、僅かにくぐもった声で答える。


「へえ、そうか。技能がかぶることもあるんだな。だが、対のいる場所に心当たりでもあるのか?」

「ああ」




 やって来たのは“休憩所”。

 参考までに、ボスを倒すと〈リターン〉が使えるようになるため、そのまま街に魔法で戻るのが普通だ。



「じゃあ俺はまたナマケモノーと遊んでいるから、行ってこいよ」


 “休憩所”の前でそうフェルサが言った。


「手間を掛けさせてすまんな。また暫くの間、ナマケモノーを頼む」


 一旦フェルサと別れ、アレクは“休憩所”の探索を開始する。


 やはり、そこは無駄に広い空間だった。魔人族であるアレクにとっては苦とならないものの“懐鳥灯”で探索する場合には気が遠くなるような広さと複雑な地形だった。


 探すこと30分。アレクは5m程先に、煙が立ち昇るように穴から気泡がぽつぽつと出てきているのを発見した。その30cm程の穴を覗くと、下にはタツノオトシゴのような生物が寝ていた。

 

「おーい、そこの。悪いが起きてくれないか?」

「……ん? んー……んー……Zzz」

「おいっ! 寝るんじゃない。だめだ、ここで寝たらいかんぞ」

「んー、ん? ん? ――!? わっ、誰?」


 全身が黒いタツノオトシゴが、穴からゆっくりと出て来た。明らかに浮いている。


「俺の名はアレク。こっちが幻獣のアルマロン。お前の名前は?」

「オイラ、すいすい」


 アレクは思わず微笑んだ。


「寝ていたところを悪いが、すいすい、お前に訊きたいことがあるんだが、構わないか?」

「いいよー。暇でずーっと寝ていたしー」

「すいすいは召喚霊だよな?」

「うん、オイラ魔霊だよ。見ての通り、タツノオトシゴ」


 喋っている最中も、すいすいは小さな気泡をぷくぷくと吐き続ける。


「なるほど。それで、すいすいの能力を教えて貰えないか?」

「オイラの能力? それは、アレクに必要かなぁ」


 すいすいが斜めに傾く。それに合わせたようにして、アレクは首を傾げた。


「いやいや、必要かどうかは聴いてみないと判らんさ。だから、まずは教えてくれよ」

「オイラは暗闇でも見えるように出来る能力だよー」


 確かにアレクには無用の能力だ。アレクは左手で顎をさする。


「それって召喚者のみにしか効果がないのか?」

「んーん、12人まで掛けられるよ。時間は60分くらい、かな?」


 アレクは顎さすりを止めた。


「よし、決めた! すいすい、お前俺と一緒に来てくれ」

「え? オイラ、アレクの役に立てるー?」

「十分に役立ってくれると補償するよ」

「やったー……」


 喜んだのも束の間、すいすいの声は尻すぼみとなる。


「おいおい、どうした?」

「オイラを選ぶと、疲労回復能力を持つ海豹の精霊は選べないけど、いいの? アレクって魔人族だから、暗闇は平気でしょー?」

「ははは、あの海豹はいいや。俺には海豹よりも強力な、このアルマロンがいるし、すいすいの能力は仲間にとっちゃあ、非常に有り難いものになること請け合いだからな」

「ほんとっ!? やったー、やっと退屈じゃなくなるよー♪」


 すいすいは宙を跳ね廻って喜びを顕にする。アレクは左眉を吊り上げた。


「なあ、すいすい、誰かお前を選んだ召喚士っていたのか?」

「んー、いないよー。誰も来ないから、暇で寝てたし」

「まさかそれは……これまでの全召喚使いの中で、お前に会いに来たのは俺が初ってことは、ないよな?」

「そのとーりー。初、初ー♪」


 ぼよーん、ぷくーんと大きく泡を膨らまし、すいすいはポコッ、ポコッその大きな泡を吐く。

 アレクは吹き出しそうになりながら、アレクは宙に浮かぶ気泡をぽんっと指で爪弾いた。


「じゃあ、早速お前の技を試してみたいんだが、やってくれるか? 向こうに仲間がいるんだ」

「やるやるー。初の出番、暢気に行くよー」


 アレクは左眉を少しだけ上げてすいすいを眺めた。




 フェルサとナマケモノーであるが、今度は『叩いて 守って じゃんけんぽん』に夢中になっていた。アレクは片手を腰に当て首を傾げつつ、その様子を眺める。

 暫くしてから、フェルサとナマケモノーにすいすいを紹介した。


「二人とも、新しい連れのすいすいだ。じゃあ早速頼むぞ」

「へーい」


 すると、すいすいが黒い泡を凄まじい勢いで吐き出した。辺り一帯が黒い泡で覆われて何も見えなくなる。アレクは少々不安を抱く。


(おい、張り切り過ぎじゃないのか)


「うお、何だ? この泡は。ん……んん?」


 フェルサが“懐鳥灯”を消した。


「すげー! うっほぉー、暗闇でも良く見えるぜ! なあアレク、お前っていつもこんな感じだったのかよっ!」


 フェルサが大はしゃぎする。その横で一緒にナマケモノーも飛び跳ねている。すいすいも楽しげにくるくると宙を泳いでいた。




 【召喚霊】すいすい(魔霊)

   技名:ロドっぷー

   効果:真っ暗闇でも昼間の屋外に準ずる視認性を得られるようになる

       ※魔人族や吸血鬼族ほど優れた状態にはならない

   持続時間:60分

   人数制限:12名

   再使用時間:80分

   最低消費MP:580 ・ 最低消費SP:39


 お読み下さっている方には申し訳ありませんが、大筋を変えずに改稿をしたいので、続きの投稿を一旦停止致します。6話までは再度行いましたが、風景描写を増やし会話や独白を削る方向で改稿をしてみております。

 1週間程時間を頂くことになりますが、宜しくお願い致します。

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