表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メカヲタ転生して守護竜になる ~兵器の性能差が勝敗を分かつ絶対条件だと教えてやる!~新装版!  作者: ななよん
幼生体編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/74

第十話 西へ向かう夜(改訂版)

夜が、二度目に深くなった頃。


国境を越えた小さな丘の(ふもと)に、神聖国軍の残存兵は野営を張っていた。焚き火が、十数箇所。傷病兵の(うめ)き声が、夜気に細く混じる。正確な点呼はまだ済んでいなかったが、おおよその数は出ていた。出陣時の兵力の、ほぼ半数。


ドラゴノートの西門を抜け、そのまま神聖国領内へ——一度の停止もなく、半日駆け続けた末の野営だった。幸い、追撃は無かった。あの古代竜が攻撃に出なかったことと、ドラグロード騎士団が城内の制圧を優先したこと。それだけが、半数が生き残った理由だった。


ロロルは焚き火の一つから少し離れた場所で、副将ミカルと向かい合っていた。二人の間に、酒は無い。食料も乏しい。焚き火の僅かな炎が、ミカルの顔の片側だけを照らしている。


「ロロル」


ミカルが口を開いた。低い声だ。ドラゴノートで命令を下していた時のあの声とは、違っていた。何かを既に決めた、決意ある男の声。


「お前を、本国に推す」


ロロルの呼吸が、止まった。


「……副将殿」

「俺は責任を取る。それは確定だ。ドラゴノート喪失の責任者として、本国に戻り次第、何らかの処分が下るだろう。処刑にはなるまい。俺は古代竜を直視した数少ない指揮官の一人だ。連中は俺を、完全には捨てられん。だが、前線指揮官には戻れんだろう。良くて顧問役、悪ければ降格、引退もあるかもしれん」


ミカルは、一度言葉を切った。


「その時——お前を、王室派の眼として本国中枢に残す」


ロロルは、暫く言葉が出なかった。そして、首を振った。


「副将殿、お待ちください」


声が、震えていた。


「副将殿が前線を離れることは、神聖国の損失になります。あの古代竜と戦った経験を持つ指揮官は、貴方しかいない。ゴーレムという新しい戦争形態を見た者も、貴方を含めて数えるほどしかいません。教皇派の都合で副将殿が消えれば、本国は対竜戦の指針を失います。私を本国に推すよりも、副将殿が前線で指揮を執り続ける方が——」


「ロロル」


ミカルは、低く遮った。


「お前の言うことは、軍事的には正しい。だが、政治的には間違っている」


ロロルの口が、閉じた。


「教皇派は今、揺れている。あの召喚のこともあって、王室派の影響力を削ぎたがっている。俺がそのまま前線に残れば、連中はそれを『敗北を許した王室派の軟弱さ』として攻撃材料にする。俺一人が責任を取って降りることで、王室派全体が守られる。お前を本国に送り込めば、対竜情報は途切れない。王室派の発言力も、保たれる」


ミカルは、焚き火に目を落とした。


「軍事的合理性だけでは、神聖国は救えんのだ」


ロロルは唇を噛んだ。理解は出来た。だが、受け入れがたかった。


「……副将殿が居ない前線で、誰がゴーレム軍と戦うのですか」


ミカルは、長く息を吐いた。焚き火の炎が、揺れる。


「……それは、俺にも答えがない。だが、俺一人が前線にしがみついた所で、教皇派が指揮系統を握れば結局同じことだ。連中は神話で戦おうとする。古代竜には神話が通じる、と本気で信じている。俺がそれを止められない以上、いっそ俺は引き、お前を中枢に送る方がいい。お前なら、現実を伝えられる」


ロロルは、しばらく黙っていた。そして、低く言った。


「……承知しました」


その一言が、彼の運命を変えた。彼自身、その瞬間にそれを感じていた。


二人の間に、長い沈黙が落ちた。焚き火が、()ぜた。


「ロロル。お前は何を見た」


ロロルは顔を上げた。副将は、彼の見識を求めていた。


「……ゴーレム、です」


ロロルは、慎重に言葉を選んだ。


「あの空から降ってきた鉄の騎士。中身が無く、隙間から砂が漏れていました。倒されても止まらず、痛みも示さない。関節の動きも、人のそれではありませんでした」


ミカルは、頷いた。


「破城槌型の突撃車も、馬に引かれず、御者もいなかった。あれもゴーレム、もしくはその技術の応用と見ます」


ミカルは、また頷いた。


ロロルは、焚き火を見つめた。


「副将殿。問題は、あれが『ゴーレムだった』ということではありません。『ゴーレムを兵器に出来る』と、誰かが思い付いてしまった、ということです」


ミカルの目が、僅かに細くなった。


「兵は、育てねばなりません。10年、15年。家族も、訓練も、装備も。だがゴーレムは、設計が確立すれば、後は材料と時間だけの問題です。今夜、我々は100体のゴーレムを見ました。1年後、それは1000体かもしれません。3年後、1万体かもしれない。死を恐れない、士気が崩れない、給与も家族も要らない。——そして、神聖国は、この発想を持っていません。我々のゴーレムは儀礼用、装飾用、せいぜい個人の魔術師の従者です。軍事的に量産する、人型として戦列に並べる、突撃兵器に変える——その発想は、無かった」


ロロルは、ミカルの目を見た。


「副将殿。これは『古代竜が現れた』という話ではありません。『戦争の在り方そのものが変わる』という話です」


ミカルは、暫く動かなかった。焚き火の炎が、彼の顔の片側で揺れ続けている。そして、低く言った。


「……それを、本国に持って帰れ。それが、お前の最大の仕事だ。俺の代わりに本国に入って、それを上に伝えろ」


「は」


ミカルは、付け加えた。


「だが——伝わるかどうかは、別の問題だ」


ロロルは、目を伏せた。それは、彼自身も既に予感していたことだった。


「教皇派、ですか」

「連中は『古代竜』にしか興味がない。馬鹿馬鹿しい話だが、神話で勝てる物は神話で迎え撃てる、それが連中の論理だ。女神様の恩寵(おんちょう)とやらで、全て解決するつもりだ。だが『戦争の在り方が変わる』という話は、連中の論理に乗らない。ゴーレムは神話じゃない、技術だ。技術の前では、女神信仰は何もしてくれん。だから連中はその真実を直視しない。お前の報告も歪めるか、握りつぶすだろう」

「では、どうすれば」

「王室派にも伝えろ。連中なら、まだ現実を見る目を持っている」


焚き火が、また一つ爆ぜた。夜風が、二人の間を通り過ぎる。


ロロルは、しばらく言葉を探していた。そして、ようやく口を開いた。


「副将殿」

「ああ」

「あの召喚騒動のことですが」


ミカルは、答えなかった。ただ、目で先を促す。


「教皇庁は『成立した』としていますが——過去に、勇者召喚に失敗した例は無い」


短い沈黙。焚き火の音だけが、続いた。


「失敗、では無いのかもしれません」

「……かもしれんな」


二人は、それ以上語らなかった。お互いに、どこまで疑っているかが伝わっていた。


「収穫まで待つ、と本国は言っていた。ですが、あれは表向きの理由でしょう」

「ああ」

「真の理由は、別にある」

「……我々は、嘘の上に立っていた」


ミカルが、呟いた。ロロルは、頷くしか出来なかった。


そして、その嘘の上で——今夜、駐留軍は崩れた。本国は、二重の失策を抱えることになる。召喚に失敗し、駐留軍を失った。明日からの政争は、苛烈(かれつ)なものになるだろう。


長い沈黙の後、ミカルが低く言った。


「ロロル」

「は」

「あの方も、お前の帰りを待っておられるだろう」


ロロルの肩が、僅かに動いた。焚き火の光の加減で、それは見えたか、見えなかったか。ミカルは、それ以上何も言わなかった。ただ、自分の杯を持ち上げる仕草をして——だが杯は無かった——苦笑し、降ろした。


ロロルは、空を見上げた。雲が、少しずつ流れている。


その心が、一瞬だけ本国の方角へ向かった。聖都ゴッテスベフェールの、王宮の、奥の間。白い壁、長い廊下、図書室の窓辺。そこに、いつもの位置で本を開いているだろう、あの方の姿。


幼い頃、彼女は本ばかり読んでいた。ロロルも、その傍で護衛として控えていた。言葉は少なかったが、視線はいつも交わっていた。


彼女は、自分の運命を知っていた。勇者の妻となる、その定めを。そして、それを口にしたことは、一度も無かった。ロロルもまた、口にしたことは無かった。口にしてはならないことを、抱えていた。彼女もまた、抱えていただろうことを。


——あの召喚は、失敗した。


——それは、二人にとって、何を意味したか。


ロロルは、その問いから目を逸らした。答えてはならない問いだった。答えは、罪だった。


あの方の傍に、戻れる。


その想いが、心の片隅で、ほんの僅かに温かかった。そして、その温かさを抱いてしまう自分を、彼は許せなかった。神聖国の若き王女、勇者の伴侶となるべき方。その方の傍に「戻れる」と、自分が安堵してはならない。


ロロルは、目を閉じた。そして、短い祈りを捧げた。何に祈ったのか、自分でも分からなかった。ただ、許しを求めて。


ミカルは、何も言わなかった。全て察していた。若い士官が抱えているものを、そして、それを口にしないことこそが彼の誇りだということを。だから、ミカルも口にしなかった。代わりに、別のことを呟いた。


「……本国に戻ったら、変わるぞ、ロロル」

「は」

「お前は、もう若手士官じゃない。王室派の眼として、中枢に立つことになる。お前の言葉は、これからは重みを持つ。軽々しく口にするな、だが必要な時は躊躇するな。お前の判断が、神聖国を左右することになる」


ロロルは、深く頭を下げた。


「ご教導、忘れません」


ミカルは、ふっと笑った。最後の、苦い笑みだった。


「俺の代わりに、お前が、戦争の形を見続けろ。俺はもう、見られなくなる。お前が、俺の眼だ」

「……は」


焚き火が、また爆ぜた。東の空は、まだ暗い。夜明けまでは、まだ長い。


二人は、それ以上何も話さなかった。ただ、焚き火を見つめていた。


明日から、二人の道は別れる。ミカルは責任の道へ。ロロルは、本国中枢への道へ。そして、ロロルが本国に戻った時、彼を待っている人がいる。言葉に出来ない関係のまま、ただ、待っている人が。


夜が、深くなった。


第十話・了

読んで頂きありがとうございました!


「星評価」、「ブックマーク」、「いいね! 」


よろしくお願いします!!


感想やご意見有れば是非お聞かせくださいね!

(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ