48 正しくない大人の倒し方
私は、試験のときと同じように、土魔法が得意なケイトに落とし穴作りをお願いした。
「校舎にこんなことしていいのかな……」
戸惑いながらも、作ってくれた教室入り口の落とし穴。
クラスメイトたちが水と電撃の魔法罠を穴の中に仕掛けてくれる。
敵が見回りに来るのを待つこと十数分。
扉を開けて教室に入ってきた兵士は落とし穴に落下して、作動した魔法罠にかかって失神した。
「本当にうまくいくなんて……」
驚くクラスメイトの声。
教室に落とし穴仕掛けるとか普通考えないからな。
正に盲点を突いた天才的作戦。
「手錠をかけて、と」
引き上げた彼を手錠で拘束してから、服を脱がして武器を回収する。
「ヴィンセント、聞こえる?」
『ご無事でしたか、ミーティア様……!』
「敵兵士が持っていた武器の型番を伝えるわ。多分南方諸国で作られたものだと思う」
『情報はありがたいですが、いったいどうやって……まさか、敵兵士を倒そうとしたりはしてませんよね』
「…………してないわ」
『してますよね! 絶対してますよねミーティア様!』
いつも冷静なプロフェッショナルであるヴィンセントの貴重な慌てた声だった。
『落ち着いて。落ち着いて冷静な対処をお願いします。ミーティア様の安全が我々にとっては何より大切で――』
「適当にぶっ倒してまた何かわかったら連絡するわ」
『お待ちくだ――』
最後まで聞かずに通信を切る。
「いいの? 何か言おうとしてたみたいだけど」
小声で言うケイトにうなずきを返す。
「いいのよ。あの人心配性だから」
「ミーティアがいいならいいけど」
再び落とし穴の準備をしてから、クラスメイトに言う。
「誰か、この人の声真似できる男子いる? 通信機で近くにいる仲間を呼んでほしいんだけど」
「声真似……」
怪訝な顔で言ったのはカミラだった。
「……そもそも、この人何か言ってた?」
「落とし穴に落ちるときに『あっ』とは言ってたわね」
「…………とりあえずクラスで一番声が低いグリシャにやらせましょう」
クラスで一番声が低いグリシャは「無理! 絶対無理!」と怯えながら言ったけど、クラスの怖い女子ツートップである私とカミラに圧をかけられてあえなく屈することになった。
「人質が泣きやまない。来てくれ」
涙目の彼が適当な用件を伝えてから、待つこと数分。
入って来た兵士は、落とし穴にはまって電撃を受けて失神した。
「は? 今、何が」
教室の入り口でもう一人の兵士が困惑した顔をしている。
(いけない! もう一人いた!)
予想外の事態に息ができなくなる。
しかし、次の瞬間火花のような光が散って、兵士は魂が抜けた人形のように崩れ落ちた。
ロイ・エドウィルドの指先から煙が立ち上っている。
彼が電撃魔法を起動したのだ。
「次、いきましょう」
機械のように淡々と言う。
(さすがSクラス最強……味方になるとすごく頼れるわ)
「グリシャ、次やりなさい」
「は、はいっ」
カミラに言われて涙目で通信をするグリシャくん。
同じやり方でもう一人倒してから、戦い方を切り替える。
「外に打って出るわ。私の指示に従って」
捕まる前に一人で偵察していたから、時計塔の状況は概ね把握している。
「武装してる大人相手に勝てるのか?」
「やめよう。リスクがありすぎる」
否定的な意見もあったので、好戦的で乗り気な子を選んで作戦を立てる。
「みんなでこの階段裏に待機。足音が一番下の階段を降りた瞬間、背後に向けて一斉攻撃よ。いいわね」
クラスメイト十人を配置して待ち伏せし、不意を打って一斉に魔法を集中する。
王国で最も優れた魔力と魔法技術を持つクラスメイトたちだ。
いくら武装していたとしても、そんな子供十人に背後から一斉に攻撃されて、適切に対応するのは難しい。
兵士は為す術無く戦闘不能状態になった。
「俺たち、強いかも……」
「いける……いけるよ、これ……!」
興奮の声に、にやりと口角を上げる。
士気は戦いの結果に大きく影響する。
自信を付けさせ、モチベーションを上げるのも大切な戦略だ。
気絶させた兵士は、拘束して装備を奪い取ってから、持ち物を点検して情報を抜き取る。
「ミーティア! この人何か持ってる」
名刺くらいの大きさに折りたたまれた紙片だった。
広げると、中には暗号化された文字らしき何かが並んでいた。
(もしかしたら、魔法障壁を解除するための暗号鍵かも)
「ヴィンセント。今から言う暗号を解読して」
『待機するようにと言ってるのに……わかりました』
ヴィンセントは深く息を吐いてから、私が伝えた暗号文字を書き写して解読してくれる。
『おそらく、何らかの位置情報だと思われます』
「この感じだとおそらく廃校舎ね」
『ミーティア様、お願いですから我々が行くまで――』
ヴィンセントの言葉を無視して通信を切る。
(大人の言いつけを破ったわ。正に悪……!)
また理想とする悪女に近づいてしまったと笑みを浮かべてから、みんなで廃校舎へと進軍する。
予感があった。
おそらくそこは、敵があらかじめ設定していた合流地点だ。
今回の標的であるクラリスとフェリクスもそこに捕らえられている。
見つからないように、敷地内にある森を利用して、遠回りして廃校舎の裏側に位置を取る。
廃校舎には厳重な警戒態勢が敷かれていた。
水魔法の薄壁を張りつつ外から様子をうかがったのだけど、明らかに他の場所とは人員の量と練度が違う。
(間違いなくここが本命……)
「どうするの? これじゃ不意は打てないし、今までみたいな手は使えない」
低い声で言うカミラ。
「大丈夫。策はあるわ」
「策?」
うなずきを返してから、私は後ろにいるその子を見る。
「私にはとびっきり優秀な切り札があるから」
クラスメイトの視線がその子に集中する。
彼女――ケイトは、戸惑った顔で周囲を見回してから言った。
「へ?」






