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63.試食会

「こんにちは、お兄さん達、アリーちゃん」

「本日はお招きいただいてありがとうございます、バルトス様、レイヤード様、アリー嬢。

アボット商会会長のウィンス=アボットです。

ウィンスとお呼び下さい」

「いらっしゃい、カイヤさん、ウィンスさん」

「久しぶりだな、カイヤ殿。

ウィンス殿は初めまして」

「こんにちは、皆さん。

僕と兄上は今回は付き添いで、主はアリーだから、会話には入らないけど気にしないで」


 あれからペルジアさんが仲介してウィンスさんとカイヤさんとで交流を持ったようだ。

2人での訪問を打診されたので、喜んで受け入れた。

ウィンスさんは他の商会の見学とパイプ繋ぎ。


 義兄様達は僕の付き添い。

僕の体調を心配してくれてるみたい。

そろそろフェルの加護も切れてきたのか、あれから少し体調は崩したけど1週間ほどで持ち直した。

といっても、寒くなる季節の変わり目は注意が必要なのだけど。


「早速だけど、話を聞かせてくれるかい」

「はい、まずはこちらを試食、試飲してもらえますか」


 カイヤさんの言葉に僕はニーアに目配せして3種類の茶葉とミルク、蜂蜜、ジャム、お湯、卓上コンロを持ってきてもらい皆の目の前でミィを淹れる。


 まずはカイヤさんのブースでも飲んだミィ。


「うーん、やっぱり苦いね」

「獣人さんには特に苦味を強く感じるみたいですね」


 少し薄めに淹れたけど、ウィンスさんは難色を示す。


「お口直しに、この緑のパウンドケーキをどうぞ」


 僕の並べた緑と茶色のパウンドケーキのうち、緑を勧める。

お好みでコリンていう果物とうちの特産品で1番質の落ちる蜂蜜で作ったジャムを勧める。

コリンはうちの領内でよくなってる大人の握りこぶしくらいの大きさの赤い木の実。

あっちの世界の林檎によく似たフルーティーで豊潤な香りでシャリシャリした食感なんだけど、こちらの物はとにかくすぐに傷がつくから果物そのもの形での出荷は滅多にしてない。

1番質の落ちる蜂蜜を使ったのはコリンの風味を際立たせる為だよ。

ていっても養蜂を極めてるうちの領内の蜂蜜基準でのお話だから、他領と比べればそこそこの質なんだ。


「これ、ミィが入ってるね!

こうすると苦味がなくなってミィの風味が香る焼き菓子になるのか!」

「本当だ。

ミィの風味が甘さをまろやかにしてくれて、甘いのが苦手な人も食べられそう。

このジャムとも合う」


 ミィのパウンドケーキはお口に合ったようだ。

甘いの苦手な義兄様達もミィのパウンドケーキは食べてるね。


「ではお口直しにミィを一口どうぞ」

「食後のミィならまだ苦味が抑えられるけど、やっぱり苦いかな」


 やっぱりそのままの緑茶は味覚が敏感な獣人さんには苦かったみたい。


「ふふ、ではこちらのお茶をどうぞ」

「これ、美味しいね。

でも紅茶とも違う」

「ずいぶん茶色いね。

でも香ばしい風味で甘味がある。

何の茶葉を使ってるんだい?」


 やっぱりこっちがお気に召したか。

バルトス義兄様はそのままのミィが好きだけど、レイヤード義兄様はこっちのが好きなんだよね。


「ミィを低温でゆっくり炒ったんです。

茶色のパウンドケーキをどうぞ」


 つまり、ほうじ茶だ。

僕は卓上コンロを使ってほうじ茶ラテの準備に入る。

卓上コンロは火の魔法を付与した魔石を使っているから点火だけニーアにお願いすれば後は僕でも扱える。


「このケーキには炒ったミィを使ったんだね。

炒るだけでこんなに風味が変わるなんて」


 カイヤさんの目がギラギラしている。


「そのままのミィのケーキは上品な味わい、炒ったミィは庶民的な味わいか」


 ウィンスさんの目は純粋にキラキラしてるね。


「これはミルクと炒ったミィを使ったミルクミィです。

お好みで蜂蜜をどうぞ」

「「美味しい!」」


 どうでもいいけど、牛乳はこっちでもミルクって言うんだ。

他にも時々言葉が同じな物があって、世界の不思議を感じる。


 様子を見ながら今度は先日ウィンスさんのブースで買った香辛料と紅茶でチャイを作り始めた。


「あれ、この匂いは····」

「はい、先日ウィンスさんに揃えてもらった調味料と紅茶を使いました」


 わわ、途端にウィンスさんの目がギラギラする。

ウィンスさんの前に出すとすぐに一口。


「これ、いいね!

ナモ、カダ、クブ?」

「はい。

ブランドゥールの調味料になれた方ならお好みでジジャを入れても美味しいかもしれません。

一般的な紅茶のパウンドケーキもどうぞ」


シナモン、カルダモン、クローブに、お好みで生姜をどうぞである。


「こんなミルク紅茶は初めてだけど、紅茶のパウンドケーキに合うね!」

「ブランドゥールではこういったお茶はないんでしょうか?」

「残念だけど、紅茶の流通自体があまりなかったからね」


 ウィンスさんの言葉になるほど、と頷く。

ブランドゥールが交易に力をいれ始めたのは何年か前からだと記憶している。

商業として他国の茶葉や嗜好品が流通するのはこれからといったところか。


 一同が思い思いに試食、試飲を始めた頃、ドアがノックされ、ニーアが待ちに待った料理を持ってきてくれた。


「お嬢様、出来立てをとの指示通り先程揚がったばかりです」

「ふふふー、きたぁぁぁぁ!」


 あ、つい素が出ちゃった。


 義兄様達のやけに優しげな眼差しを向けられながら、僕はにこにこと被せてあった布巾を取る。

ニーアは全員に紙を乗せた小皿を渡していく。


「揚げ立てのリーパン!

こんな風に紙で挟んで食べてみて下さい」


 まずは僕がトングで取って紙に挟んだら手に持ってパクり。

昔からカレーパンが好きなのだ。

他の皆も続く。


「え、何これ、リー?!

美味しい!」

「アリーちゃん、これ出店で売れるわ!」

「さすが天使!」

「アリー、美味しいんだけど!」


 ウィンスさん、カイヤさん、バルトス義兄様、レイヤード義兄様の順に褒めてくれる。


「喜んでもらえて良かった。

うちの料理長と試行錯誤した甲斐があります!」


 と言いつつパクパク食べる。

ひとしきり食べた後、カイヤさんが本題に入った。


「それで、アリーちゃんは何がしたいんだい?

試食や試飲会がしたかったわけじゃないよね」

「もちろんです。

カイヤさんにはジャガンダでミィを私の言う方法で栽培して欲しいんです」

「·····ほほう」


 ニヤリと笑うカイヤさんの顔が、悪徳代官ぽかった。

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