↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

琥珀色の甘い紅茶 前編【婚約者の歌で毒から救われました】

初めまして、ご覧いただきありがとうございます!

小説は初投稿です。

このお話は、淡いミントグリーンの衣装をまとった二人の、少しダークで、だけど最高に純粋な愛を描いた王道ファンタジーです。

どうぞ最後までお楽しみください!


琥珀色の甘い紅茶 前編



きらびやかなシャンデリアの光が降り注ぐ、アルカディア王国の王城で開催された宮廷晩餐会。

その会場の中心で、一際目を引いていたのは、淡く、白に近いミントグリーンの礼服とドレスをお揃いでまとった、第一王子ルシアンと、その婚約者のヴェルネ伯爵令嬢セリアだった。

ともに十八歳という若さにもかかわらず、その佇まいは洗練され、並び立つ姿は一枚の絵画のように美しく輝いていた。


「ねぇリリアン。本当にお似合いよねぇ、あの子たち」


「フローラ、やっぱり私たちの見立てに狂いはなかったわね」


ルシアンの母であるフローラ王妃とセリアの母であるリリアン伯爵夫人が、扇で口元を隠しながら、仲睦まじい二人を遠くからニヤニヤと見守っていた。

二人の会話には、長年の親友としての気安さが満ちている。

その側では、ルシアンの父であるレオナルド国王とセリアの父であるエドワード伯爵が男同士の固い信頼の笑顔を浮かべていた。

十六歳になるルシアンの妹のルナ王女は、


「お兄様とセリア姉様……とっても綺麗……!」


と楽しそうに歓声をあげていた。

少し離れた場所では、二歳年上のセリアの兄、レオンが腕を組みながら、妹のセリアとルシアンを見つめていた。


「フン、俺はまだお前を認めたわけじゃないからな、ルシアン“第一王子殿下”」


ブツブツと文句を言うレオンの隣へ、ルシアンが歩み寄り、ふっと悪戯っぽく、だけど心から優しげな笑みを浮かべる。


「相変わらず手厳しいな、レオン。

でも、そうやってセリアを大切に思ってくれているから、俺は安心して彼女の隣にいられるんだ。

いつもありがとう」


「……チッ、お前はそういうことをサラッと言うな。」


レオンはプイッと顔を背けたが、口では文句を言いつつも、ルシアンの実力と誠実さを誰よりも買い、大歓迎しているということは、周知の事実だった。

そしてルシアンとレオンの間には、身分の壁など微塵も感じさせない、男同士の確かな信頼と友情があった。

そんな賑わいの中、セリアはふと、自分の生まれ育ったヴェルネ領の、のどかな風景を思い出していた。

権力争いとは無縁の、緑豊かなヴェルネ伯爵領。

領民達と特に仲が良かったセリアは、母のリリアンに連れられて、幼い頃はよく領民たちの暮らす森や畑へと出かけていた。


(今日私たちが着ているこの服の色……本当に、ヴェルネ領の森の色にそっくり)


そんなことを思い出した。

ヴェルネの領民なら誰もが知っている、大昔から伝わる不思議な歌を、セリアは小さく、そして優しくハミングした。

昔農家のおばちゃん達みんなで口ずさんでいた懐かしい歌だ。

すると、夜会会場の片隅に飾られていた、萎れかけていた薔薇の花が、光の加減か、歌に呼応するように一瞬だけ瑞々しく身震いしたように見えた。

 唐突に、胸の奥を小さなざわつきが通り過ぎ、セリアが微かに眉をひそめたとき、貴族の一人が微笑みながら声をかけてきた。

後ろに控えていた給仕に目配せをすると、銀のトレイに乗せられた紅茶が差し出された。


「皆様、本日は私の領地の、特製の紅茶をお城に献上いたしました。ちょうど今、皆様に配られているところです。

セリア様も、温かいうちにこちらをどうぞ」


差し出されたのは、美しい細工のカップに注がれ、白い湯気を立てる琥珀色の紅茶。

セリアがそのカップへ手を伸ばそうとした、その瞬間だった。

隣にいたルシアンの鋭い視線が、貴族の瞳の奥にある邪悪な光を捉えた。

セリアと紅茶を凝視し、怪しげな笑みを浮かべている。


(……あの視線、今まで何度も見てきた。おそらく紅茶は毒だろうな)


ルシアンの頭の中で、一瞬にして冷徹な思考が駆け巡る。


事前につかんでいた不穏な動きが繋がった。

こいつは、裏で隣国と内通している。

アルカディア王国の知恵が多く生まれる、ヴェルネ家の長女セリア。

彼女も賢く、その年齢では持ち得ないような素晴らしい知識を持っている。

この先、セリアが王妃になることで、この国はより一層繁栄するだろう。


そこで隣国はセリアを消し、この国を傾かせようとしているのだ。

ルシアンがもしここで


「これは毒だ」


と叫べば、確実に夜会はパニックになる。

そうなれば、犯人は慌てて証拠を消し去るだろう。

それに、ここで犯人を泳がせ、セリアではなく俺が毒を飲めば、王族に毒を飲ませたということになり、さらに罪が重くなる。


何より、昔から権力に固執せず、我が家から一番の信頼を得ている大切なセリアとヴェルネ伯爵家を、こんな醜い政争の渦中に巻き込みたくはなかった。


セリアを確実に、今この瞬間救い、かつ確実に犯人を捕らえるための方法は――。

ルシアンはほんの一瞬だけ、長い睫毛を落として目を伏せた。

哀しいほどの明確な決意が、その横顔をよぎる。


(頼む、この事件が片付くまでは誰も気づかないでくれ。セリアだけは絶対に守るから…)


次の瞬間、ルシアンはいつもの極上の微笑みを湛えて目を開けた。セリアの手がカップに触れるより早く、横から音もなくその紅茶を奪い去る。


「ルシアン……?」


驚いて見上げるセリアに、彼はいたずらが成功した子供のような、茶目っ気のある笑みを向けた。


「すまない。

セリアの紅茶が、どうしても美味しそうに見えて。

……俺のと、交換してくれない?」


普段の彼なら、淑女に対して、ましてや大勢の目が集まる夜会でこのような強引な真似は絶対にしない。

セリアが困惑の声を上げる間も与えなかった。

手に取る前は湯気で見えなかったが、紅茶のカップをのぞき込むと、紅茶はほんの少し濁っているように感じた。

ルシアンは覚悟を決め、紅茶を口に運んだ。

紅茶を口に含んだ瞬間、一瞬、妙な甘さを感じたが、ルシアンは一切の躊躇なく、その琥珀色の液体を喉へと流し込んだ。


「……やはり、セリアの紅茶だと美味しく感じるよ」


カップをカツン、と静かにテーブルに置いた。

その瞬間、ルシアンの指先が微かに震える。

胃の奥からじわじわと不気味な熱さが広がり、強烈な痛みの予兆が這い上がってきた。

彼はそれをセリアに見られないよう、引きつりそうになる顔を必死に普段の笑顔に戻した。


「ルシアン、顔色が……少し悪い気がするけど。大丈夫?」


「……大丈夫だよ。

緊張して、少し疲れが出ただけ。

風に当たってくるから、俺が戻るまで待ってて。」


ルシアンは額ににじみ出た冷や汗を隠すように、優しく、だけどどこか切なさを孕んだ微笑みを浮かべた。

そして、セリアの肩をそっと抱き寄せ、すぐ近くにいる国王たちのいる一画を視線で示した。

そこには厳重な近衛騎士たちが控えている。

あそこなら、セリアを危険から守ることができるだろう。


「セリア、俺が戻るまでは、俺のルナ達の近くで過ごしてくれる?

あそこなら、絶対安全だから。

……いい? 楽しんでいてくれたらそれでいいんだ。

それに、ルナがセリアと話したがっていたから」


「……ええ。分かった」


「必ず戻るから。待ってて」


ルシアンはもう一度だけ、言い聞かせるような強い眼差しをセリアに向けると、翻って歩き出した。

その動線上でさりげなくレオンの横を通り過ぎる瞬間、すれ違いざまに、レオンにだけ聞こえる声で囁いた。


「レオン…頼みがある。

あそこの貴族がセリアを狙った。

奴が会場を出る瞬間を狙って、音もなく捕らえてくれ。

頼む、セリアをパニックから守ってほしい。

あぁ、それと、

俺が飲んだから彼女は無事だ。」


(……は?俺が、飲んだ…?)


信じられないものを見たような顔でレオンの目が見開かれる。

しかし、ルシアンは引き止めさせないように、背筋を不自然なほどピンと伸ばして、第一王子としての威厳を保ったまま、早足で夜会場を去っていった。



最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

実は……このお話は、元々はルシアンが倒れたところで終わる予定でしたが、予想より長いお話ができたので、

前編と後編に分けさせていただきました。

もしよろしければ、ページ下部にある

【広告の下の☆☆☆☆☆】から、評価や感想をいただけると執筆の励みになります!

後編もぜひ読んでいただけるとありがたいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。