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氷の仮面と、母の呪縛

第8話では、山城先輩がひた隠しにしてきた「家庭の事情」が残酷な形で暴かれます。和樹との甘い時間の余韻に浸る暇もなく、彼女を襲う現実の嵐。そして、和樹との間に生まれる不穏な距離。彼女がなぜ「氷の女王」として自分を武装しなければならなかったのか、その悲しい理由が明らかになります。

和樹の膝の上で目を覚ました山城は、ぼんやりと時間を尋ねた。

「……いま、何時?」

「8時だよ」

和樹の答えを聞いた瞬間、彼女は弾かれたように飛び起きた。「大変、終電に遅れちゃう!」

慌てて荷物をまとめ、和樹は彼女を駅まで送り届けた。閉まりゆく電車の窓越しに、山城は顔を真っ赤にしながら、和樹にそっと投げキッスを送った。和樹はそれを大切に胸元で受け止める仕草を見せ、彼女は幸せそうに微笑んで去っていった。

一人アパートに戻った和樹は、ソファの隙間に落ちていた彼女の学生証を見つける。

(誕生日は3日後か……。何を贈れば喜んでくれるかな)

そんな楽しい悩みと共に夕食を作っている頃、山城は自宅のマンションに到着し、彼からの『着いたか?』というメッセージに微笑みながら返信を打っていた。

だが、直後に届いた別の通知が、彼女の笑顔を凍りつかせた。

『明日、会いに行くわ』

送信者は、実の母親だった。山城はその場に力なく座り込み、壁に背を預けたまま、一睡もできずに朝を迎えた。

翌日、山城は学校を欠席した。和樹からの心配するメッセージにも、既読をつけるだけで返信できない。

その時、激しくドアを叩く音が響いた。彼女が震える手でドアを開けると、そこには派手な身なりの女性が立っていた。

「……開けるのが遅いのよ!」

挨拶代わりの強烈な平手打ちが、山城の頬に飛んだ。

「……申し訳ありません」

「あんたのせいで私の時間が無駄になったわ。親に向かってその態度は何?」

「……ごめんなさい、お母さん」

その言葉が、火に油を注いだ。母親は山城の銀髪を乱暴に掴み、怒声を浴びせる。

「誰が母親よ! あんたさえいなければ、とっくに離婚して自由になれたのに! 本当に、忌まわしい子ね」

山城の目から涙がこぼれ落ちる。「……私のせいじゃ、ない……」

「口答えする気!? 私の前で喋る許可なんて与えてないわよ!」

再び頬を打たれ、山城はただ黙って涙を拭った。母親は忌々しそうに吐き捨てた。「学校に近いからって、こんな部屋……。定期的に連絡しなさいよ」

嵐のような訪問者が去った後、山城は一人、暗い部屋でうずくまっていた。

翌々日。山城は深いフードを目深に被り、幽霊のような足取りで登校した。

校門で彼女を見つけた和樹が、心配そうに駆け寄る。

「山城! 昨日どうしたんだ? 連絡もなくて心配し――」

だが、山城は和樹の言葉を無視し、彼と目を合わせることなくその横を通り過ぎた。

フードの陰に隠れた彼女の頬には、隠しきれない痣と、絶望の色が張り付いていた。

「母親」という最も身近な存在からの拒絶。山城先輩が抱えていた孤独の根源は、あまりにも深い家族の歪みにありました。和樹に心配をかけたくない、そして自分のみすぼらしい姿を見られたくないという思いが、彼女を再び「氷の殻」の中に閉じ込めてしまいます。

すれ違う二人。和樹は彼女の異変に気づき、その心を再び溶かすことができるのでしょうか。

次回、和樹の強引なアプローチと、山城の隠された傷跡に向き合う物語が始まります。

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