守るための拳と、氷の涙
第6話では、山城先輩を襲う不穏な影と、彼女を守ろうとする和樹の激闘が描かれます。ハプニングから生じた誤解、そして女子同士の間に芽生える新たな友情。鋼の心を持っていると思われていた彼女の、本当の素顔が明かされます。
翌朝、山城はどこか心ここにあらずといった様子で登校していた。和樹が挨拶をしても上の空で、心配した和樹は彼女を通り沿いの路地の隙間に連れ込んだ。
「……何かあったのか?」
和樹の優しい問いかけに、彼女は何も答えず、ただ縋り付くように彼にキスをした。
(和樹を……これ以上、巻き込みたくない)
そんな彼女の思いとは裏腹に、学園内では「今日の女王はいつも以上に機嫌が悪い」と、不気味な静寂が広がっていた。
体育の時間。グラウンドの片隅で座っていた山城のクラスの女子生徒が、乱入してきた不良グループに目をつけられた。一人がバットを振り下ろそうとしたその瞬間、銀色の髪が翻り、その細い腕がバットを真っ向から受け止めた。
「……そこから失せろ」
山城の殺気に男は怯む。だが、別の男が木刀で彼女を背後から強襲した。
「和泉、ショーを楽しもうぜ」
水飲み場から見ていた和樹が動き出す。木刀が山城の腕を直撃し、彼女が顔を歪めた瞬間、二本の指が次の攻撃を完全に静止させた。
「……ここは任せて、下がってろ」
和樹が山城を背後に庇う。不良のリーダーが「ヒーロー気取りか?」と嘲笑うが、和泉は余裕の表情で沙羅に告げた。「和樹はテコンドーの黒帯だ。あんな奴ら、相手にならないよ」
襲いかかる二人を、和樹は右手一本で軽々とノックアウトした。
「…… lefty(左利き)の俺が、右手だけで十分だ。左手には今、大事なものを抱えてるからな」
その言葉通り、和樹の左手は背後の山城を抱き寄せていた。だが、その手が触れていたのは……彼女の胸元だった。
「……っ!」
山城は顔を真っ赤にし、和樹も気まずさに固まる。その様子を見ていた沙羅は、あからさまに首を傾げた。
警察が到着し、不良たちが連行された後、山城は無言で和樹の頬を平手打ちし、その場を走り去った。
周囲の生徒たちは「助けてもらったのにビンタなんて」「やっぱりあいつは感情のない化け物だ」と口々に山城を非難する。その言葉のひとつひとつが、山城の心にナイフのように突き刺さっていた。
「……なんで叩かれたんだよ?」
教室で和泉に問われ、和樹はバツが悪そうに白状した。
「『大事なもの』を持ってる左手が、ちょうど彼女の……その、風船みたいなところに当たってて……」
「ぶっ! お前、最悪だな!」
笑う和泉だったが、そこへ沙羅が怒髪天を突く勢いで現れ、和樹の髪を掴み上げた。
「最低! 先輩が怖い見た目だからって、どさくさに紛れて何してんのよ!」
周囲の生徒が「あんなの女じゃない、猛獣だろ」と冷やかすと、沙羅は「うるさい! 消えなさいよ!」と一喝し、和樹の両頬に強烈なビンタを見舞って保健室へと向かった。
保健室には、腕に包帯を巻いた山城がいた。
「先輩……あいつの代わりに謝りに来ました。あのバカが失礼なことをして……」
沙羅が頭を下げると、山城は意外にも小さく微笑んだ。彼女は沙羅を隣に座らせ、静かに口を開く。
「……怒ってないわ。叩いたのは、彼がちょうど怪我をしていた私の腕を掴んだから。助けてくれた人に、あんなことしたかったわけじゃない」
山城の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「……みんなが私を『感情がない』って言う。この声も、見た目も、全部……。でも、本当は、すごく痛いの」
沙羅はその涙を指で拭い、彼女の手を強く握りしめた。
「……もう大丈夫です。今日から、私が先輩の友達ですから」
最強のテコンドー使い(?)としての実力を見せた和樹でしたが、思わぬラッキースケベ(失礼!)で自業自得の結末に。しかし、その騒動を通じて、沙羅という心強い理解者が山城先輩にできました。
外見や噂に縛られ、誰よりも傷ついてきた山城。彼女の心が、和樹と沙羅によって少しずつ癒やされていく過程を、これからも見守ってください。
次回、和樹の誠心誠意の謝罪と、三人の新たな関係が始まります。




