偏在教授Sheet7:エピローグ
翌日、店の仕込みも一段落付いた開店前のひと時。
客側のカウンターに肩を並べて座るアキラとエル。
「なぁ、エル。向こうの…エルフの世界にも不倫ってあるのか」
「えーっと、今さらなんだけど…"不倫"って何?」
エルはエクセルによるアリバイ作りのトリックに夢中で、森脇がなぜそんな事を画策したかには関心がなかった。
「簡単にいえば、配偶者…結婚した人以外の相手と肉体関係を持つこと…だな」
言い終わってから、"肉体関係"が何なのかは聞かないでくれと念じるアキラ。
「長寿なんで何度も結婚するエルフは多いです。ずっと同じ相手だと飽きるんでしょうか。あくまで一般論ですが…」
「あの…エルは結婚した事は…」
「私は若いからまだないですよ」
エルフの言う"若い"が何年生きてるのか分からないが聞かずにおこうと決めているアキラ。
それよりも気になる事を尋ねた。
「向こうに好きだった人とか…」
「好きだった人?」
「えっ、あー、うん、何か会えなくて寂しくなったりするのかなぁとか思って」
(アキラにとっては)しばし沈黙のあと、
「好きな人なんて居ませんよ、"向こう"には」
「そっか、そうなんだ…」
普段は察しのいいアキラだが、自身の色恋沙汰になるととたんに鈍感になる。
「こっちの世界の人達は、寂しい時どうするの?」
「そうだなぁ…それこそ人それぞれだろうけど…酒飲んだり、一人旅に出たり…」
「旅かぁ…」
「そうだエル、旅行じゃないけど今度の休みに海に行かないか?」
「海?」
「あー、海っていうのは…」
「海ぐらい知ってます。今までどんだけシーフード食べてると思ってるんですか!」
アキラが「そりゃそーだ」と笑い出した。
「そういや俺のバイクにも乗った事なかったな。ヘルメットも買わなきゃ」
「頭にかぶるやつ?」
「そう。その耳が引っかからないやつにしないと」
そう言いながらエルの耳に軽く触れる。
実のところエルフの耳はけっこう敏感なのだが、そんな事はおくびにも出さずされるがままにしていた。
次の休みが待ち遠しい。
〈完〉