偏在教授Sheet2:教授と呼ばれた男
「紹介しよう。こちらが今回の依頼主、洲崎君だ。」
「洲崎です。よろしくお願いします」
アキラの頭に疑問符が浮かんだ。
(今"依頼主"って言ったよな。これ仕事なのか?)
「そしてこちらが我等がブレインチーム、エルちゃん、アキラさん、育美さんだ」
「えっ、私もですか?」
側で聞き耳を立てていた育美は、名前を呼ばれてカシスソーダを吹き出しそうになった。
「そりゃそうだろう。"四人揃って"文殊の知恵っていうじゃないか」
諺を改変してまで自分をチームメンバーに入れたい川口。
色々ツッコミたいアキラだったが、今は話を進めたい。
「はじめましてアキラです。川口さんから紹介されましたこの四人で伺う事に異存ないようでしたら、どうぞお話しください。もちろん外部に漏らすような事は決してありません」
(仕事ならなおさらね)と心のなかで呟いた。
「実はとある男のアリバイについてなんですが…」
洲崎は話はじめた。
「彼は弊社に今年の春あたりから関わるようになった嘱託社員です。主にデータアナリスト的な業務を依頼しています。情報を収集・分析して、不具合があれば改善策を提案する…といった感じです」
専門的なワードには補足を加えながら話す洲崎。
「仕事柄、出社する必要はほとんどないのですがリモートの打ち合わせや成果物を見る限り、能力はかなり高いと評価を受けてます。いつしか彼の事を"教授"と呼ぶものが出てきました」
「その教授さん、本名を伺ってもよろしいですか?」
育美が訊ねる。
「後でかなりプライベートな話になるのですが、名前は必要ですか。」渋る洲崎。
そこで川口が育美に助け舟を出した。
「先日の事件では、名前がかなり重要な意味を持っていた。その真相を突き止めたのが、この育美さんだ」
「そうですか…分かりました。彼の名は"森脇"といいます」
「モリワキ…」
アキラが隣のエルを見ると、あまり見たことのないニヤニヤ顔をしている。
「どしたエル?すっごいニヤケ顔してるぞ」
「あー、えっとデスネ…名探偵ホームズという名探偵がいます」
「何か日本語変だけど続けて」
「獣人の探偵です」
「…ジュウジン?」
「ワンちゃんみたいな人です」
「獣人か…エル、それアニメでみたんだな。獣人なのはアニメのアレンジで原作は普通に人間だ。それとシャーロック・ホームズは超有名なキャラクターだから、少なくともここに居る者はみんな知ってる…」
「分かったぞエルちゃん!」
いきなり川口が割って入る。
「俺から言っていいかい?」
「どうぞ、師匠」
(また師匠?グッさんが?)とアキラは思った。
「ホームズの宿敵はモリアーティ教授。モリアーティ、モリワーキー、森脇…って事だろ?」
「さすがダジャレ師匠、お見事です!」
エルの賞賛。
(なにこれ?つかダジャレ師匠?)
アキラはしびれを切らしかけていた。
「はいはい、しょーもない話はそこまで。ほらそこハイタッチしない!すいませんね洲崎さん。…洲崎さん?」
洲崎は半ば呆けた表情でどこを見るともなく前を向いている。
「あぁ、申し訳ない。もしかしたら本当にそれが教授ってあだ名の由来かと…いや、間違いなくそれですよ!モリワーキー教授、なるほどそういう事かぁ」
「名前を伺って正解でしたね」
育美もまんざらでもなさそうだ。
(もう、早く本題に入ってくれないと、他の客が来ちゃうだろ)
アキラは"他の客が来たらと困る"と気が急いていた。
店主という立場を失念していた。