Sheet3:アリバイ
「で、その教授のアリバイを立証したいと言う事ですね?」
アキラが強引に話を本筋に戻す。
「いえ逆です。アリバイを崩したい…というより、アリバイとなる証拠は弊社として提示出来ないと言いたいんです。本当は関わりたくないというのが正直なところです。」
洲崎は総務部の人間だが、コンプライアンスに関する諸々も兼務しているそうだ。
「先ほどプライベートな話になるとおっしゃってましたが…」
何となく察するアキラ。
「えぇ…実は彼、不倫の疑惑をもたれています」
「不倫…」
「弁護士経由で興信所の調査が送られて来たそうですが、その日は弊社の業務を遂行していた、そう証言して欲しいというのが彼の要望です。これをご覧ください」
そう言うと洲崎は鞄から一枚の紙を取り出した。
「これは」
「うちでまとめた"森脇本人がアリバイだと主張する"根拠です」
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・スマホにかかってきた電話を取っている
・その日、ウェブの情報をエクセルでまとめたファイル(当日のタイムスタンプ付き)
・そのファイルをメール添付で送信している
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「まずスマホですが、これは弊社支給のものです。AndroidですがGoogleアカウントと紐づいております」
「あ、Googleマップのタイムライン」
アキラが最初に気がついた。
「そうです、そのスマホの位置情報を過去に遡って調べる事が出来ます。該当のスマホは回収済ですが、当日は自宅マンションから移動してません」
「ちょっと待って。家に居たなら奥さんも分かるのでは?」
今まで黙って聞いていた育美がここで尋ねる。
「あぁ、すみません。その日を前後して奥さんは出張とかで。以前から夫婦仲がギクシャクしてたからこそ、自分が居ない隙に尻尾を出すだろうと興信所を頼んだみたいですね」
「でも、御社から電話をかけた時には彼は自宅に居たと…」
育美の口調にはどこか残念そうな響きがあった。
「えぇ、そういう事になります。ただ…」
選手交代とばかり、川口が割って入る。
「いや、ちょっと待った。転送サービスを使えば自宅のスマホにかかってきた電話を出先で取れるんじゃないのか?あれって転送した時の履歴が残るんだっけか」
「いえ、その件については弊社でも調べたんですが、サービスによってまちまちの様ですね。少なくとも彼に貸していたスマホからその痕跡は見られませんでした」
「となると、これに関してはグレーだな」
「弊社的には"自宅に居た"という確証にならなければ問題ありません。判断は先方がしますので」
洲崎は一旦ドリンクを口にし、話を続けた。
「今回一番お尋ねしたいのは二番目のエクセルファイルについてです。PC自体をリモートで操作したというケースももちろん可能性としてはあるんでしょうが、逆にそんな事はしてないという証明がされるかも知れない。他に選択肢があればご教授いただきたいというお願いです」
洲崎の要望を育美が噛み砕いてエルに伝えた。
「分かりました。やってみますので少し時間をください。アキラ、奥で作業してもいい?」
「あぁ大丈夫。どれくらい掛かりそう?」
「うーん、思ってる事が上手くいったらそんなにかからない。ダジャレ師匠がカラオケで3曲歌うくらいかな。4曲目"からオッケー"」
師匠直伝(?)のダジャレが言えるくらい余裕がある様みたいだ。
「よーし、じゃあエルちゃんが時間取れるよう長めの曲入れるわ。ミニリサイタル開演といくか!」
歌う気満々でエルのダジャレに気づかない川口だった。




