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2 「防護服」

 俺と大友さん、あとレベッカは校門前で待機させられている。


 遠くの方ではクレアが校門を守っているらしい傭兵団の1人と会話をしているのが見える。


 これから俺達はまた生ける屍が人を食べる世界に踏み込もうとしている。そう考えるだけで背中に嫌な汗が流れる。


 昨日は外の危険さが分からないで外に行かされたためこんな気持ちにはならなかったが、今回はゾンビの危険さが身にしみている状態だ。


 身体が無駄に力んでいるのが自覚できる。


「……制服で外に行くのは危険だというのは分かるけど、この防護服の着心地って何とかならないのかしら。」


 ふと横にいた大友さんが話しかけて来た。


 昨日自分が死にかけた外に行くというのに雑談ができるなんてすごいなと思ったが、手には拳が握られていた。

 どうやら外に行くことに緊張しているのは俺だけではないようだ。


「というか、防護服って皆それぞれ違うんだな。」


 雑談で少しでもお互い緊張が解ける事を願いながら俺は大友さんの話に乗る。

 それに、防護服は俺も少しだけ気になっていたのだ。


 俺と大友さんが今着ている服は学生服ではなく、『人類最終永続機関(じんるいさいしゅうえいぞくきかん)』が用意した防護服だ。


 まぁ普通の学生服よりかは防御が優れているだけらしいが着ていて損は無いということで着替えたのだが、大友さんと俺のとでは少し形が違うのだ。


 俺の服はシンプルで、色が白くて長袖の学校のジャージみたいな感じだ。


 それと違い大友さんのは少しだけ学生服に似ていて、白と赤がメインの服装となっている。

 よく見れば白い手袋をしているし、特に気になるのは肩の所や横腹辺りにポケットがあることだろうか。


 昨日はパッと見で防護服だと分かったが、よく見ればただのファッションだと勘違いしてしまいそうだ。

 

「あたりまえだろう。」


 俺と大友さんの話に今まで黙っていたレベッカが入って来た。


「防護服は普通の人間であるならば大量生産したものを支給されるが、私達にはそれぞれ副作用というものがあるんだぞ。防護服というのは言い換えれば戦闘服、個人個人の副作用にあった服が支給されなければならない。服を作っている研究員が『探索者全員分の副作用にあったオーダーメイド防護服を作るなんて……。複雑なの作りたくないんだけど……。』と愚痴っていたが、全人類を救うことが目標なんだからそれくらいは頑張ってほしいものだな。」


 腕を組んでレベッカは言うが、この中で一番防護服のデザインが特徴的で複雑そうだからそれについての文句を言われたのではないだろうか?


 というかもうそれ防護服と言うより鎧と言った方がいいかもしれない。


「確かに複雑な服を作るのはめんどくさそうね。……『副作用にあった』って言うからにはデザインだけでなく機能とかもやっぱり違うの?」


 大友さんがしげしげとレベッカの服を見ながら言う。


「そうだぞ愛理。因みに私の防護服は特注中の特注だ。なんといってもまずデザインが違うだろ? これはルノーというデザイナーがかっこよさと機能性を「そう言えば私の着ているのは大体はその大量生産した防護服ってのと同じらしいけど、このつけてる手袋は熱をすぐ通すことができる素材でできているって説明を受けたわね。」


 大友さんはレベッカの話しがまた長くなりそうなのを察知して声をかぶせた。

 流石だぜ大友さんは。


「あと、熱だけで燃える素材がポケットにいれられているって所も他とは違うかも。」


 そう言って大友さんはポケットから長方形の小さな布みたいなものを取り出した。


 なるほど、多めについてるポケットにはその素材が入っているのか。それを燃やして火を作るって寸法だな。


「ということは、あの時の爆竹は大友さんが副作用で熱を作りその燃えやすい素材を燃やして火をつけたのか。」


 俺の昨日の疑問がこれで解消された。

 だからライターを持っていなかったにもかかわらず大友さんは爆竹をならせたんだな。


「えぇそうよ。今はこの素材の他にも多めに爆竹をポケットに補充してもらったわ。これでゾンビに囲まれても少しくらいなら時間が稼げる。」


 そう言って自分の肩をポンとたたく。


 確かに大友さんの話しを聞くとちゃんと副作用にあった防護服になっているようだな。


「擬似的な炎使いというわけだな愛理は。ふむふむ。確かにパーティー内には特殊攻撃が使える奴が1人くらいいるものだ。合格だぞ愛理。」


「? ありがとう?」


「待たせたな。……なんだ? 防護服の話しか?」


 レベッカが意味不明なことを言って大友さんを困らせているとクレアが戻って来た。


 どうやら俺達の会話が聞こえたらしい。


「そういえば、クレアは俺の防護服の機能って知っているか?」


 ちょうどいいのでクレアに俺の防護服について聞いてみた。

 駄目もとだが、もしかしたら知っているかもしれない。


「高希の防護服? 高希のは基本的に私の服と同じはずだ。」


「クレアと同じ? というか何で知ってるんだ?」


「まぁお前みたいな問題児の事は詳しく知っておけと言われてな。」


 なにそれ酷くない?

 俺なんも問題おこしてないでしょうが。


「それで防護服の事だが、他の防護服よりも頑丈というだけだ。その代わり少し重いが、私達のような副作用が≪身体強化≫レベル3以上の者には気にもならない重さだから心配するな。……さて、話はそれだけか? 他に聞きたい事がないならもう学校からでるぞ。」


 クレアはそういい校門に向かおうとする。


「あれ、まだ4人しかいないのにもう行くのか? もう1人メンバーがいるんだろ? 校門で合流すると思ってたが違うのか?」


 教室で紗希は残りのメンバーはあとで合流すると言っていた。

 てっきり校門でその1人が来るのを待っているのかと思っていたんだが……。


「あぁそれなんだがな。その1人はあまりにも外に行きたくないと駄々をこねるのでな。」


「えっ、じゃぁそいつは今回の任務に参加しないで学校で留守番するのか?」


「いや、傭兵3人で殴る蹴るの暴行をしたあと縄で縛って学校から外に放りだした。」


「ご無体がすぎないか!?」


「因みに放り出される最後の最後まで『お前ら顔覚えたからな! 後で謝っても許さねぇからな!!』と言っていたらしい。」


「そいつのメンタル化け物かよ……。」


 傭兵団の奴らに囲まれて、しかも暴行加えられてるのに捨てゼリフ吐けるとか凄すぎて逆に引くな。


「私もその話しを今聞いてな。無いとは思うがそいつがゾンビに襲われる前に保護しにいかないといけないので急いで出るぞ。」


 そう言ってクレアは足早に校門に向かう。

 俺もすぐにクレアの後を追うように歩きだした。








************





 


「えーと……あっ、いた。」


 外に出てしばらく。


 俺達は特にゾンビと出会うこともなく安全に進めていた。


 そんな中、学校が見えなくなってきたあたりでクレアは途中で歩くのをやめてそう言った。


 どうやら最後の班の仲間がいたらしい。

 だが俺が周りを見渡しても人の影は見えない。



「おっせーぞこの野郎! カップラーメン5個は作れたぞばかやろー!」



 不意に上から声が降って来た。


「「「……うわー。」」」


 視線を上に向けると、椛が木につるされていた。


 クレア以外の3人が心底関わりたくないという声を出したのは仕方がないことだと思う。


 というか最後の仲間って椛かよ。


 俺の新しい仲間への期待とワクワクを返してほしい。


「椛、お前なんでそんなとこにいんだよ。」


「なんでお前ちょっとガッカリしてんだよ!? なんなの腹立つんだけど!? てかどんな罪で俺様こんな拷問みたいな事されてるんだ!? 心当たりが多すぎてわっかんねぇよ!!」


 椛は木に吊るされながらもやかましく喚く。


 案外元気そうだな。


「今降ろしてやるからな椛。……そうだ。椛は今回の任務については聞かされているのか?」


 クレアさんは近くに用意されていた踏み台を使い椛を吊るしている縄をほどこうとしながら聞く。


「任務って何だ? 俺様はただ歩いてたらそこにいる女と紗希に襲われて、変な所に連れてかれて解剖されそうになり、そこから逃げ出したら今度はガタイの良い男3人にいきなり囲まれて外にゴーとか言われたから地獄に落ちろって言って、そしたら何故かぼこられてここにつるされただけだから任務なんて話しは知らねぇぞ?」


 椛はレベッカを恨みのこもった目で睨みながらそんなことを言う。


 解剖って何だよ。

 こいつ目を離したらすぐ変なことに巻き込まれるな。


「そうか。なら降ろしながら説明をするからよく聞いておいてくれ。」


 クレアは椛の話しを『そうか』の一言で片づけ冷静に今回の任務の説明を始めた。


「今回の任務目標は椛と高希の友達である『朝家 こもり』の救出に向かう。」


「こもりだと? おい高希! 生きてるのかあの人生脱落者!?」


 こもりの名前を聞き、椛は驚きながら俺に確認を取る。


「いや、生きてるかはわからないんだ。だけど引きこもりで家から出てないだろうから生きてる可能性は高いだろうって事で今からこの5人で救出に行く。」


「……あぁん? おかしな話じゃねぇか。おいクレア。お前ら、俺様達には生きてるか分からない家族や友達よりも目先の生存者を助けろって言ってるよな? こもりの家は割と遠いぜ? こもりの家まで行くよりもまずは近くの生存者を探すのがお前らのやり方じゃなかったのか?」


 俺の話しを聞きすぐに椛はクレアにすごみながら言う。


 あいつ、木に吊るされた状態でよく自分を助けようとしてくれてる人にあんな態度をとれるな。


「こもりは、高希と紗希、そして椛と同じ『奇跡の存在』だ。」


 だがクレアはそんな木に吊るされた椛に短くそう言うだけだった。


「……把握したぜクソが。命に優先順位つけやがって。」


 だがそれだけで椛はいろいろと納得がいったらしくそう吐き捨てる。


「……。」


 クレアは何も言わず、そのまま木に吊るされていた椛を開放し丁寧に地面に立たせた。


 その間、椛はされるがままだった。


 とても、ダサい。


「カカッ。まぁいいさ。文句言っても仕方ない。ところで高希、このメンバーはなんなんだ? 女3人に男1人とかハーレム気取りかよ?」


「舐めるな。こんな男女比に俺が耐えれる訳ないだろ。ここまでずっと下向いて黙って歩いてたわ。このメンバーは班ってやつで、これからは学校の内でも外でも行動を共にするんだってよ。」


「なんだよ。俺様もとうとう配属先決まったのか。」


 椛は頭をかきながら残念そうに言った。


「そうだ。理解が早いようで助かる。それで任務の話だが、まだこもりの家までの安全は確保されていない。」


「そうか。安全なルートが確立されるのを待つため一旦帰るか?」


「帰らん。救出する時間が長引けばその分こもりの生きてる確立が下がる。少々危険だが私達5人で未知のエリアを強行する。ゾンビなど敵性生物はカール傭兵団団長である私と、研究員だが槍の扱いに長けたレベッカが対処するが、高希と椛、そして愛理も油断だけはしないように。」


 クレアは先程俺も聞いた任務内容を椛に伝える。

 俺のもできるだけクレア達の役に立ちたいが、学校から出る時に副作用は温存するようにとクレアに念を押されてしまったので基本サポートに徹するくらいしかできないのがはがゆい。


「なぁ、それクレアとレベッカだけでよくねぇか?」


「いや、私達はこもりの家の詳しい場所は分からない。それにこもりは高い確率で家に引きこもっているはずだ。こんな状況だ。外から素性の知らない私とレベッカが声をかけても警戒して外に出てきてくれないかもしれない。だからそのために友達である高希と椛が必要なんだ。」


「なるほど。いわば道案内役みたいなもんか。」


「そんな認識で大丈夫だ。さて、椛とも合流できたし日が落ちる前にこもりを保護し学校に戻らなければならないんだ。急ぐぞ。」


 クレアは律儀に使った踏み台を元の位置にもどしながら言う。

 こういう所マジメだよなクレアって。


「まぁ別に急ぐのはいいんだがよ。お前らなんかかっこいい服を着てるが俺様には無いのか?」


 椛は俺達が学生服じゃないことに気づいたようだ。

 自分だけ学生服なのが不満なのだろうか。


「……防護服はその人の副作用にあったものが支給されるんだ。」


 クレアが何故か目を伏せながら、重々しく言った。

 いったいどうしたのだろうか?


「ほぉ。そりゃいいな。まっ、わざわざ危険な外に生存者を探しに行ってるんだからそれくらいのサービスはなきゃいけねぇよな。で、俺様の防護服は?」


 椛は掌をクレアに向ける。


「……椛の防護服は無いらしい。」


「は?」


「いいか。椛の防護服は無いんだ。」


 何を言われたのか分からないというような椛に再度クレアは言う。

 すごい悲しそうだ。


「……いやまてよ。え、マジ? 皆オーダーメイドで自分の身を守る服着てるのに俺だけノーガードなの!?」


「お前の服は学校内でも外でもその学生服だけだ。」


「なんでだよ!? メンバー全員が防護服用意されてるのに何で俺様の分は用意されてないんだよ!?」


 俺は喚く椛の肩にそっと手を置いた。


「お、おう高希。高希からも言ってくれよ。なんで俺の友達の防護服は無いんですかって。」


 椛は仲間を見るような目で俺を見る。


 俺はそんな椛に優しく微笑みながら言った。





「日ごろの行いだよ。諦めろクズ。」


「ぶっとばすぞてめぇ!!」




 このあと殴り合いのケンカになったが、クレアに2人ともすぐに押さえつけられた。





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