第七十二話【仕返し】
俺は再び美術部方向へ向かう。
て、あれ?
ティナさん‥‥‥まだいたんだ。
先に行っててと言ったのに。
とても見苦しいところを見せてしまったな。
「‥‥‥レインくん」
「‥‥‥」
ティナさんは、どこか寂し気な雰囲気を口元で表現しつつも、小さくそう呟く。
そして無言で近付く俺の姿を数秒確認した後、
「さっきのは流石にやりすぎじゃない?」
確かにそうかもな。
「まあ、うん。‥‥‥でも最近気付いたんだ。平民が馬鹿にされるのって、身分の差を恐れて何も抵抗しないからだって」
実際、社会的に身分の差があるのはしょうがないことだ。
国のトップがそれを認めているのだからな。
生前の日本が行っていた三権分立とは違うのだ。
完全なる独裁政権。
つまり王様が法律なのである。
その王様が身分の差がある世界を当然のようにしているのだから、平民が馬鹿にされるのも常識と言えるだろう。
俺の言葉に、全く納得していない様子のティナさん。
これって面倒なパターンだな。
「だとしても、ひどいと思う」
「‥‥‥」
何が?
ティナさんは俺から目を逸らし、色んなところへ視界を移しつつも、
「いつものレインくんだったら無視してたのに‥‥‥、ちょっと怖かった」
‥‥‥。
「ごめん。じゃあそろそろ行こう」
俺はなるべく優しめにそう言って、ティナさんを無視するように歩き出す。
危ない。
ちょっと大きめの声を出しそうになった。
かなり感情を抑えたわ。
最近俺‥‥‥自分を否定されるの嫌いなんだよね。
リディさんといたらもっと楽しい。
それから三日後。
今は放課後。
俺は体育館裏に向かっている。
何故かというと、呼び出されたから。
正直呼ばれた理由が分からん。
そして呼び出して来やがった主犯も全く心当たりがない。
別に誰でもいいけどさ。
気に食わなかったら、力で何とかするだけだ。
いや~、俺の力って便利だよな。
襲われても余裕でやり返せる。
昔から鍛えておいてよかったわ。
まあ、今も死ぬほど鍛えているけどな。
そういえば俺に体育館裏へ来るように伝えて来たのは、三日前に太ももを足の裏でマッサージしてあげた冴えない顔の貴族くんだったな。
でもあいつ曰く、「とある人が君に会いたがっているから、今日の放課後体育館裏へお願い出来る?」らしい。
あの腰の低い言い方からして、冴えない顔くんは体育館裏にいないのか?
‥‥‥。
うん、まじで心当たりがないわ。
どこかで誰かの怒りを買ったかな?
確か昨日、商店街で大量の食料を買った。
一昨日、街中で新しくフード付きの服を買った。
うん、最近購入したのはこれくらいだし、分からん。
買ったものは全て、怒りとは何の関係もない。
けど、楽しみだ。
どんな奴がいるのか、今すぐにでも見てみたいぜ。
この俺を呼びつけたんだから、さぞかし腕に自信があるんだろうな。
そんなことを考えつつも、角を曲がった。
すると、二人の男子たちと目が合う。
いや、思ったよりも近い位置にいたわ。
もう少し遠くに立っていると思ったんだけど、角のすぐそばやん。
心臓に悪いわ。
「おい、待ってたぜ。てめぇがアルトリアとかいう二年かぁ?」
比較的背の高い方が、不敵な笑みを浮かべつつもそう言って来た。
こいつら‥‥‥上級生か?
二人共結構ごっついぞ。
あまりにも近い為、足をゆっくりと動かして少し後ろに下がりつつも、
「あ、はい。そうですけど」
そう丁寧に答えた、瞬間!
「おらぁ!!」
一人が横腹に回し蹴りを入れて来た。
おっ!?
結構重たい。
赤髪のロストとは比べ物にならないほど強いな。
あまりにもいい足のしなり方だったから、思わず躱さずに受けちまったぜ。
ご馳走様。
俺は思わず足のバランスを崩し、地面に手をついてしまう。
確かにダメージはないこともない。
けど、それだけだな。
悪いけど表面で止まっている。
こんなの、親父の手加減よりも格段に弱い。
だが、普通の学生よりかは強いレベル。
もっと痛めつけてくれよ。
てか親父は今、去年よりも強くなっているのか。
おそらくまだ本気の攻撃をくらったことすらないのに、それから更に強くなってんだろ?
やばい奴やん。
そう考えると、俺ってまだまだだな。
上には上がいる。
この程度の攻撃で、ダメージを少しでも感じられたらダメだ。
いっそのこと、神経が死んでいるのではないか? と疑ってしまうレベルまで耐久性をつけないと。
さて、じゃあちょっと演技を始めるか。
これだけの力を持っている奴を、すぐにボコしたら面白みがない。
見た目のいいデザートは少しだけ観賞をして楽しむべきだ。
俺は、地面についている手を動かそうとする。
手のひらに付いている小石がうざいけど、気にしないでおこう。
「おい、これで終わりか? おらぁ」
無言でゆっくりと動いている俺に対して、背の高い方は更に俺の脇腹へ蹴りを入れて来た。
それにより、この小さい体が吹き飛び、体育館の壁にぶつかる。
あーあ。
こりゃー、買ったばかりのフード付きの服が汚れちまうぜ。
別に新しいのを購入すればいいけどさ。
にしてもこいつ、やはり面白い。
裏闘技場の最下位付近でなら、その攻撃力のみ通用すると思うぞ?
まあ、あくまで最下位付近、だけどね?
俺のいる上位辺りではなんの役にも立たん。
俺は倒れている体を起こして地面に座ると、何となく壁にもたれ掛かる。
こんなキックを放つことの出来る奴をすぐに倒すのは惜しい。
だから、もう少しだけ攻撃してもらう。
「この前、俺の弟を可愛がってくれたらしいじゃねぇか」
その言葉と同時に、顔を蹴られた。
鼻に当たって若干痛い。
‥‥‥ん?
弟?
ふむ、なるほどね。
数日前の冴えない顔の野郎は、この背の高い人と兄弟なのか。
全然似てないから分からんかったわ。
てかあいつ、チクったのか?
「ええ、可愛がりましたよ? 馬鹿にされたんでね」
鼻を一度親指で触りつつも、そう答えた。
すると、
「あ? 舐めてんのか?」
相手は唾と共に大きめの声を上げると、何度も俺の体を蹴ったり踏みつけて来たりして来た。
隣にいる連れであろう奴も、同じように足を出して来る。
‥‥‥。
うん。
飽きた。
もういいや。
読んでくださりありがとうございます。




