第六十九話【カフェ】
「───ねぇ、聞いてる?」
そこでふと我に返った。
周りを見てみると正面に座っているリディさんが、俺の顔をガン見している。
そして机の横には女性の店員さんが立っていた。
「おお、ごめん。何だっけ?」
全然聞いてなかったわ。
「私は果実たっぷりジュースにするけど、レインくんは?」
ああ、注文中ね。
リディさんにそう言われ、急いでメニュー表を確認する。
ふむふむ。
ここは甘いやつを頼むか。
俺は大人ぶって苦いのを飲む気はない。
「ミルクコーヒーの砂糖トッピングで」
うん、コーヒーのブラックなんて飲めたもんじゃねぇ。
絶対ミルクを入れる前提の飲み物だろ。
俺の言葉に女性店員は一度頷き、
「はい、ではご注文の方を繰り返させていただきます」
と言って、手元の紙を見つめる。
お姉さん、復唱しなくてもいいよ?
俺は繰り返されるのが嫌いなんでな。
効率よく済ませてくれ。
正直これだけの注文で間違う奴なんてそういないだろ。
「果実たっぷりジュースがおひとつと、ミルクコーヒーの砂糖トッピングがおひとつ‥‥‥以上でよろしかったでしょうか?」
おひとつ、を二回も言わんでいいと思うが。
「「はい」」
俺とリディさんは同時に返事をした。
すると、
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員はマニュアル通りのセリフを言って、厨房へと向かって行く。
ふむ。
でもここは、店員の要領以外はいい感じだな。
机や椅子、壁、天井などすべてが木造りで、おしゃれな雰囲気。
飲み物は通常の相場より高いような気がするけど、俺からしたら安いもんだ。
ここ……行き付けのお店ってことで来たけど、正直言って初めてである。
すみません。
ちょっとカッコつけました。
「そういえばさ、レインくんっていつ頃から体を鍛えだしたの?」
正面にいるリディさんが、両肘を木の机につけて、そう聞いて来た。
「えーっと、いつだったかな‥‥‥確か一歳くらいだったと思う」
普通の人間なら忘れるだろうが、俺は生前の記憶があった為、鮮明に覚えている。
俺の返答に驚いた表情をしているリディさん。
まあびっくりして当然か。
普通ならようやく立ち上がれるくらいの年齢だ。
確かに苦労した覚えがある。
それは並々ならぬ努力をした。
まず体中の骨がしっかりして来たという感覚がだんだんと分かるようになったところで、立ち上がろうとしたのだが、自分の意思とは関係なく足が曲がって転んでしまう。
これを何度繰り返したのか想像もつかない。
転ぶ度に結構なダメージがあったからな。
‥‥‥て、よく考えたら俺の筋トレって一歳になる直前の立ち上がる練習時から始まっていたのか?
「すごいね‥‥‥。この前の武闘大会で先輩たちの魔法を受けても立っていられたのは、小さい頃から努力してたからなんだ」
「まあね。田舎に住んでいたから他にすることもなかったし」
「へぇ。で、今はトレーニングを続けているの?」
リディさんの好奇心旺盛な質問。
ほう。
そんなに俺の強さが気になるのかね?
いいだろう。
教えてしんぜよ。
「今は街の外にある草原の上を走ったり、魔物と戦ったりかな?」
更に、裏闘技場で生死のやり取り。
岩場などにいる魔物の攻撃を受けながら昼寝。
自分をボコボコに殴る。
昨日までのことだが、いじめっ子たちによるマッサージ。
あと、夜中に街中の建物から飛び降りてみたり。
うん、これらは言わない方がいい。
今自分で振り返って分かった。
頭がおかしい。
でも、止められないんだよな。
ここで止めてしまったら筋肉が育たなくなる。
俺は特訓をした分だけ強くなるのだから、頭がボケるまで続けてやるぜ!
俺の返答に対しリディさんは好奇心丸出しの表情で、
「そっか。で、人と戦ったりとかはするの?」
……。
お~ん。
出たぞ、嫌な質問。
答えないといけないかね?
さっき対人戦のことは言わないようにしようと考えていたところなのに。
「まあそれなりには。‥‥‥一応学校に通う前までは親父と特訓をしていたよ?」
我ながら上手く乗り切れたと思うけど……リディさんはあまり満足してなさそうな表情だ。
納得してくれ~。
俺、もうこれ以上嘘をつきたくないぜ。
この街に来てから、フォレスト家を偽る為に結構な数の嘘をついて来たけど‥‥‥これよりも増えたらもう管理出来る自信がねぇ。
現に、ここが俺行き付けのお店という嘘が加わったし。
「学校に通い出してからは?」
やはり掘り下げて来た。
どうしよう。
困った。
まじでもう嘘は嫌だ。
頭のメモリスティックがパンクして破損する。
俺は正直に生きたいんだよ!
誰か、助けてー!
心の中で助けを呼んだその時、
「お待たせしました! こちら砂糖たっぷりミルクコーヒーと果実ジュースです。ミルクコーヒーの方熱くなっておりますのでお気を付け下さい。それでは失礼します」
救世主来たぁー。
こいつ、いい奴やん。
めっちゃ使える店員やん。
さっきは要領が悪いとか思ってしまってごめん。
てか、持って来るの早くね?
まだ注文して全然時間が経ってないんだが……。
要領が悪いと思って、まことに申し訳ありませんでした。
俺は目の前に置かれた湯気の立っているコップを手に取り、中に入っている白っぽくて茶色い液体を飲んでいく。
ずずっ。
「熱っ!?」
あまりの熱さに、思わず声を上げて口からコップを離した。
あー、やけどしたパターンや。
なんか舌がザラザラする。
「ぷっ、無理して大量に飲もうとするからよ。さぁ、早く謝罪をしなさい」
「不徳の致すところ‥‥‥俺は誰に謝罪をしてるんだよ!?」
「ふふっ」
めっちゃ楽しそうに笑ってやがる。
この子‥‥‥俺をいじるの好きだな。
ふぅ。
よし、このタイミングで話題を変えよう。
「‥‥‥そういえばさ、リディさんって将来の夢とかあるの?」
「う~ん。‥‥‥そうねぇ‥‥‥しいて言うなら好きな人と安全に仲良く暮らしたい」
ほう。
その好きな人とは誰のことかね?
「そっか。因みに俺の夢は世界最強!」
ちょっと子供っぽいだろうか?
けどこれは夢だ。
てか、もうすでにかなり近いような気がする。
気のせいかな?
「ぷふっ。それって本気で言っているの?」
あー、笑われた。
「ああ、本気」
「私、応援する、ふふっ、わ。頑張ってね」
リディさんはコップに口を付けながらも、そう言ってくれた。
おい。
貴様、笑いを堪えて喋っていないか?
応援するとか言いつつも馬鹿にしているだろ。
その後、俺とリディさんは楽しく会話をしていき、やがて辺りがオレンジ色に染まって来たので学園へと戻った。
カフェデートの個人的感想。
とても楽しかったです!
また行きたいな!
いや、俺は小学生か!!
読んでくださりありがとうございます。




