第六十四話【赤髪のロスト・伍】
一人の女性が視界に入って来た。
どうやら例のお姉さんが現れたらしい。
「ロスト。その奥の奴がやったの?」
「うん、そうだよ」
綺麗な女性の声に、ロストはそう返答。
‥‥‥。
うわぁお。
めっちゃ透き通った声しとるやん。
‥‥‥あ、んっ!?
えっ?
俺、この人知ってるぞ。
見覚えがあるわ。
女性はゆっくりと歩を進める。
まるで、自分の周りに敵などいないと宣言しているような堂々っぷりだ。
オーラからして、かなりの強者。
まあそれもそうか。
だってこの人……。
「よう、アンナさん!」
俺は手を振って、そう言った。
この赤い髪。
赤い帽子。
赤いローブ。
赤い靴。
裏闘技場第10位の試合で戦った人やん。
こんな特徴的な人を忘れる訳がない。
なるほどな。
すべて当てはまった。
諦めの悪い性根。
炎魔法。
こいつらは紛れもなく姉弟だ。
アンナさんは俺のことに気付いたらしく、ゴキブリと出会った時のような顔をして口を開く。
「えっ‥‥‥レインさん」
するとロストは目を開き、
「ん……姉ちゃん?」
ロストを含めた三人組は唖然としている。
状況が把握出来ていないらしい。
「アンナさんってロストくんのお姉さんだったんですね?」
俺がそう確認してみると、
「……え、ええ。そうよ」
アンナさんは動揺しつつも頷いた。
「姉ちゃん、知り合いなの?」
ロストがアンナさんの方を向いてそう問いかけた。すると、
「ロスト‥‥‥この人に喧嘩を売るのは止めときなさい。私は帰るわ」
アンナさんはそう言って俺に一度軽くお辞儀をし、居心地が悪そうにこの場を去って行った。
わろた。
弟くん可哀そう。
相手が強いと分かったらすぐに家族を見捨てて逃げおったぞ。
やっぱり自分が大切なんだろうな。
三人はまだ唖然としている。
さて、
「じゃあ俺も帰っていい?」
そう言って三人の横を通り過ぎると、狭い通路を一直線に歩いて行く。
強い奴がいないのならここに残る理由もない。
「ま、待て! お前。お姉ちゃんとはどういう関係なんだ!?」
突然後ろからロストの声が聞こえて来た。
うぜぇ。
俺は振り返って、中心にいるロストの目の前に移動すると、
「君には関係ないでしょ?」
「うっ……」
横腹をめちゃくちゃ軽く蹴った。
そう、かなり手加減したのだが彼にはものすごいダメージだったらしい。
腹を抑えて苦しそうに顔を歪ませている。
「お‥‥‥お前。何をする」
「あのさ、あまり深くまで知ろうとしない方がいいよ? 多分危ないのは君の命だから」
「う、うるせぇ!」
うるさくはないだろ。
わざわざ忠告してあげてんだから。
実際こいつが裏闘技場のことに関わって来たら、命が危ないだろうな。
だって弱いんだもん。
ロストは歯を食いしばっている。
悔しいのか、横腹が痛いのかは知らん。
「‥‥‥悔しかったらさ、もっと強くなれよ」
一応優しくそう言ってあげると、ロストはこちらを睨み、
「い、今まで俺たちにいじめられていたのは‥‥‥わざとだったのか?」
うん、わざとだよ。
あ、そ、び。
でも、こいつが知る必要はない。
「とにかくさ、今後も俺を馬鹿にしたり、いじめるのは自由だけど‥‥‥お母さんの悪口言ったら息の根を止めるから」
それだけ言い残すと再び大通りへ体を向け、ゆっくりと歩き出した。
‥‥‥てか、金髪と緑髪の二人、何もして来ないやん。
ずっと恐怖に塗れた表情をしていたな。
けど、ロストだけはずっと反抗的な顔をしていた。
まるで獲物を前にして動けない野獣のような表情だった。
本当に悔しいのだろう。
あいつはまだ強くなる。
諦めない限り悔しさは人を何倍にも成長させる。
だから、強くなって俺の前に立て。
そしたら本気で相手をしてやるよ。
そして、殺し合いの喧嘩をやろうじゃないか。
正直今の雑魚ロストをどんなにボコしても、気が晴れないだろう。
実際、昨日の武闘大会で一方的に攻撃しても、全く面白く無かった。
つまり、ロストには強くなってから、俺のお母さんを悪く言った罪を償ってもらう。
うん、いつになるかは分からんけど、それで決まり。
読んでくださりありがとうございます。




